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彼は2人を睨む。やつれているので迫力がなく、全く怖くない。
「フライア、そろそろやめておかないと。暴力沙汰になるわ」
ナディア様、声に笑いが滲んでます。
「隣国の王太子に嫁ぐ方に暴力沙汰ともなれば色んな罪が適用されそうですわ」
オホホホと笑いながらフライア様はパチーンと扇を閉じる。フライア様もこの状況を完全に楽しんでいる。
「それでお話は終わりでしょうか? 融資の件は当主である父や次期当主の兄が決めますのでお力にはなれません」
彼はポツポツしか話さないし、私は不毛で精神が疲労する会話は早く終えたい……。
もう1度強めに念押しする。
「いや……その……君も次の婚約はまだ決まっていないだろう? 解消した時期が時期だし、次の婚約も決まりづらいだろうから僕と再度婚約すればいいんじゃないと……」
語尾に「母が」と小さく微かに聞こえた。
「ぶっ……やっぱりママンに言われたみたいよ」
「ちょっと、フライア。もうやめときなさい。エリーがちゃんと言うわよ」
「あいつ、マザコンなのかしら?」
「フライア。お願いだから口を閉じておいて」
彼の口から出た再婚約には驚いたが、それよりもマザコンという言葉に吹き出しそうなので、私からもフライア様には口を閉じておくようお願いしたい。
「それは、キャンベル侯爵家から我が家に申し込みを再度されたということでしょうか」
プライドが高いと一周回って再婚約なんて変なことを考えるのだろうか。
「いや……まだそれは……融資の件だけは手紙に書いたのだが」
「そうですよね。また婚約者に逃げられたら大変ですからね。しかも、再婚約ならもっと根回ししますよね」
「おー、エリーも言うようになったわね。お姉様は嬉しいわ」
「誰がお姉様なのよ……でも再婚約なんてよっぽどよね。普通は恥ずかしくて冗談でも言えないわ。しかも瑕疵があった方からなんてね」
2人からの追加の口撃を聞きつつ、いい加減相手をするのに疲れてきた私も元婚約者が侯爵家ということは考えないことにした。
「それに、『愛想のない大女』でしたか。婚約中にそのように色々呼ばれたと記憶しているので、そんな方と再婚約なんて記憶喪失にでもならない限り難しいです。婚約者らしく扱われた記憶もほとんどありませんし」
「私はその件について聞いてないわよ!? 控え目に言ってサイテー。禿げたらいいのに」
「フライア。とりあえず口を閉じて。あなたが茶々を入れ続けると、この人いつまでたっても帰らないから」
「確かに。了解」
キャンベル侯爵家は融資が決まらず、中々に泥船のようだ。
たとえその目が再び私を映しても
学園に通っていた時期はそれを切望していたにも関わらず……今、私は元婚約者ザカリー・キャンベルを可哀そうな人だとしか思わなかった。最初の顔合わせの時に綺麗だと感じたグリーンの瞳も、もう私の心を良い意味でも悪い意味でも動かすことはなかった。
「もう終わったことです。縋りつくのはみっともないのでしょう? お引き取り下さいませ。もちろん、父だって一度でも手を上げた人間との再婚約は許可しません」
「エリー、最後だしもっと言っちゃいなさいよ」
「フライア。なんでそんなにノリが良いの……あぁ、丁度良かったわ。一体いつ到着するのかと気をもんでいたけど……1番タイミングとしてはいいんじゃないかしらね」
ざまぁは難しい……




