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「もう婚約者ではないので特段会う必要性もありませんし、父もそう判断しているのだと思います。お互い変なウワサが立っても困るでしょう」
彼がどんな手紙を父に送ったのか知らないが、子爵令嬢と婚約寸前までいっていたのなら元婚約者になんて会わない方が良いに決まっている。
「エリーのマナーは私達と一緒みたいよ」
「安心したわ。それでキャンベル侯爵家のご令息は一体何の御用なのかしら。早くお茶会を再開したいわ」
一瞬だけ息を潜めていた2人がまた元気にコソコソ話を始める。気が済んだわけではなかったらしい。
「そうそう。どうやらキャンベル侯爵家は事業が芳しくないというウワサよ」
「え! じゃあもしかして話ってお金貸してってこと!?」
あー、そういえばうちがキャンベル侯爵家の新規事業への融資を断ったんだった。父がうまくやったから、うちに有利な条件で婚約解消したものね。
元婚約者を見ると、彼も2人の会話がばっちり聞こえたのか今度は顔を赤くしていた。反応を見るにウワサは本当のようだ。視線が合うと彼はバツが悪そうにこほんと咳払いした。
「急にこちらに来てしまって申し訳ないとは思っているんだが……新規事業に融資をしてくれる貴族が中々見つからなくて。諸事情により決まりかけていた融資も駄目になってしまったんだ……。もう頼れるのは君のところだけだから君の父上に口添えしてもらえないだろうか」
諸事情により~というのは子爵家とのことかしら。
うちにまで頼みに来るほどだから色んな家に断られたんだろうなぁとぼんやり考える。キャンベル侯爵家は家族そろって結構プライドが高い。婚約解消した家にまで来るなんて通常であればありえないだろう。
「元婚約者の家にまで来るなんて相当困っていらっしゃるのね!」
「そうね。でも自業自得ではなくって? ご令息が浮気と暴力のセットですもの。そんなお家に融資なんて怖くてできませんわ。信用できませんもの。私の世界では」
2人のどぎつい会話を聞きながら、元婚約者を目の前にしても何とも思っていない自分に気付く。以前のように恐怖で足や手が震えることもない。目が合っても大丈夫だ。
彼のグリーンの瞳が縋るように私を見ている。
「父が手紙を返していないなら融資のお話はそういうことでしょう。父は子供の言葉に左右される人間ではありませんから。私ではお力になれません」
「……君だってまだ婚約者がいなくて困っているだろう?」
「全く困ってはおりませんが」
なんで婚約者に話がいくのか……話を飛ばすのはやめて欲しい。
あの転んでもタダでは起きない父がキャンベル侯爵家に融資するわけがない。もうすでに父の望みは婚約解消の条件で叶っているのだから。
あ、まずい。メリーがフライパンを手にさっきより近い位置まで来ている。しかも料理人は止める気はないようだ。2人で目配せやジェスチャーで何かコミュニケーションを取っている。まさか殴る気じゃあないわよね……?
「やっぱりお金貸してだったわね」
「というかコレ、親に言われてきた感じよね? ママンに融資してくれるところが見つかるまで帰ってくるな!って言われたとか?」
フライア様、ママンとか言うのやめて……笑っちゃいそう。




