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「助かったわ。ほんとにありがとう」


「いえいえ」


フライア様とお付きの侍女がうちの領地に到着したのはそれから数日後のことだった。

結構な強行軍で来たらしく、フライア様もお付きの侍女も既に疲れが見える。


「気にせずゆっくりしていってね」


母はのほほんとそんなことを言って領地の見廻りに出かけて行った。

手紙が届いてから、フライア・ウェセクス侯爵令嬢がうちに来たいと言っていると告げると、あらあらまぁまぁと言いながらも母はさっさと許可をくれた。

どうせもう少し経ったらナディア様もここに来るのである。使用人たちの掃除が急ピッチになったくらいだろうか。


フライア様を部屋に案内した後、少し経ってからケーキと紅茶を持ったメリーと一緒に訪ねた。

フライア様と会うのは久しぶりだ。飛び級試験を受けて、合格を祝うため4人で集まってお茶会をしたのが最後だった。

その時は飛び級試験の勉強での多忙さとフライア様自身の父親の浮気調査が大詰めを迎えていたせいで、彼女はたまに宙を見上げて変な笑いを浮かべていた……。


「ふふふ。私の婚約はなくなったわよ! まだここには知らせが届いていないでしょう!?」


フライア様は疲れた様子だが、達成感を浮かべて優雅な所作で紅茶を飲む。


「あっちの有責で婚約破棄したかったけど、まぁいいでしょう。私も次の婚約に差し支えるし。はぁー、あいつが泣き縋るところはみんなに見せてあげたかったわ」


優雅な所作と口から出る内容は正反対だが。ナディア様もだけど、みんなあの騒動の後からちょっとだけ口が悪くなったのかもしれない。でもストーン侯爵令息が泣き縋る様子は見てみたい。


「お父様が愛人宅にいるところに乗り込んで、私の婚約解消の書類にサインさせたまでは良かったんだけど……お母様に愛人の存在がバレちゃってねぇ。今、うちは修羅場よ」


逃げるときは肖像画が切り裂かれてたわぁ……とフライア様は遠い目をしながらケーキを優雅に食べる。私の脳裏には散らかった部屋で高そうな壺が宙を舞う様子が浮かんだ。

とりあえず、いろいろ忙しかったフライア様にはこんな田舎だけどゆっくりしていってほしい。


「クロエやナディアのとこに行こうにもねぇ……2人とも結婚間近なのに婚約解消したばっかりの私が押しかけるのも……無理だったわ……ごめんなさい。結局、領地経営の勉強で忙しいあなたのところに転がり込むことになっちゃって」


あの2人は快く迎えてくれるだろうが、結婚間近のピンク色の空気にフライア様のダメージが大きいだろうなぁと思う。私も耐える自信はない。


「母の許可も貰ったから気にしないでいくらでも泊まっていって。ちなみにお見合いは?」


出会った最初の頃はフライア様やナディア様たちと敬語なしで話すことになるなんて想像もしていなかったなぁとしみじみしながら、気になっていたことを聞く。


「あぁ……すっかり頭から飛んでたわ……。手紙を書かないと……お母様の剣幕がすごすぎて」


フライア様は次の婚約者探しも行っていた。うちの兄にちらっとフライア様について言っておいたら面識のある他国の独身の外交官たちをリストアップしてくれた。なぜか王太子の側近もリストの中に何人か入っていたが……。まぁそのリストの中から追々会っていけば、フライア様ならすぐに次の婚約が決まるだろう。フライア様の両親の方が心配だ。


フライア様が手紙を書いた後は、夜遅くまで王都の話や元婚約者の話に花が咲いた。


いつもありがとうございます。

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