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予約投稿が上手くいっていませんでした……
お待たせしました!
「どうして……」
にこりと笑顔を向けた彼女は呆然と立ち尽くしている私の腕を引いて婚約者から距離を取ると、私と婚約者の間に割って入るように立った。彼女のふんわりした金髪が私の目の前で揺れ、花のような香りが鼻をかすめた。
「目撃者がいれば問題ないのかしら?」
目の前の背中を見ながら、どうして彼女がここにいるのかという疑問が頭の中でぐるぐると回る。だって、ナディア様は結婚前の勉強で忙しいはずなのに。今日も家に教師が来ると言っていたはずなのに。
「あら、口がきけなくなってしまったの? 私の目撃証言では弱いのかしら? 信憑性がないかしらね」
くすくすと可笑しそうに笑う声につられて婚約者の方を見ると、先ほどとはうってかわって顔色を悪くした彼がいた。ナディア様は彼が見下せるような人ではない。元々家格も上だし、何より隣国の王太子に嫁ぎ後々は王妃になるのだ。現時点でやらかしたスチュアート殿下よりも扱いとしては上だろう。
「そうね。じゃあ、証言者が彼らならどうかしらね」
教師でも入ってくるのかとドアに目を向ける。パタパタと走る音がして教室に走り込んできたのは、予想もしていなかったゼイン・ブロワ様だった。ぽかんとしている私に少しだけ息を乱したゼイン様は目をとめるとそのライトグレーの瞳をすっと細めた。
「まさか……女性に手を上げるような人だったとは思いませんでしたね」
「なぜお前までしゃしゃり出てくるんだ? 関係ないだろう」
「明らかに女性が暴力を受けているのに関係ないからとしゃしゃり出て行かない教育は受けていないので」
彼はゼイン様の発言で我に返ったのか反論する。都合が悪い時って大体、お前には関係ないって言うのよね……その前に私の頬はそんなに分かりやすく腫れているのだろうか。ぼんやりそんな事を考えているとナディア様はまだ私を背中に庇いながらぎゅっと手を強く握ってくれた。
また廊下でパタパタと音がする。今度こそ教師だろうか。
「いやぁ、ゼンは走るのが早いね」
予想に反して場にそぐわないのんびりとした発言をしながら入ってきたのは水を入れた袋を片手に持ったアシェル殿下だった。
「はい、これ」
アシェル殿下はナディア様に水の入った袋を渡す。なぜかナディア様は不機嫌そうにそれを受け取って私の頬にあててくれた。じんわりと冷たさが頬に伝わってくる。
「あ、ありがとうございます」
「な……なぜあなたが……」
慌てて発した私のお礼の言葉とさっきまでゼイン様を威勢よく睨んでいた彼の言葉が被る。殿下の登場で今度こそ彼は色を失くしていた。
 




