表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/64

28

大変お待たせしました。

ここ数カ月ほど更新できず、8月に入ってやっといろいろ落ち着いてきました。

ちびちびですが他の話も更新していきますので、面白いなと感じていただければお付き合いいただけたらと思います。

するすると動く小さな影は、すっと私と彼の間を横切った。

横切る時に目に飛び込んできたのは美しい青。


窓から差し込む光を受けて輝く青い尾を振り、床を滑るように音もなく動くトカゲ。

目で追ってそれをトカゲだと認識する頃には、イスの影に隠れて見えなくなってしまった。

でも、私の脳裏には美しい青が鮮明に残って弾けた。


青は自信にあふれる王太子殿下の瞳の色だ。もっと薄くしたら、憧れのナディア様の瞳の色になる。

でも、一番最初に思い浮かんだのはあの人の瞳だった。

雲の上の存在だと思っていた。少し言葉を交わしても、雲をつかむように捉えどころのない人だ。言葉を交わすと言っても一方的にオタマジャクシの成長記録を語られたのがほとんどだけれど。

オタマジャクシについて語るあの人を思い出してちょっと笑うと叩かれた側の頬が鈍く、引き攣れるように痛んだ。明日にはきっと腫れてしまうだろう。

辺りを見渡すとトカゲはイスの影からでてきて床の上で動きを止めていた。


「そんなに私のことが気に入らないなら婚約を破棄でも解消でもされれば良いのに」


トカゲを見つめていると、思ったよりもするりと言葉が出た。

一度声に出すと次の言葉はもっと簡単に出てきた。


「解消の場合はあの父を説得しないといけませんし、破棄でも慰謝料を支払わないといけません。まぁ、あの父がそう簡単に解消に応じるとは思えませんが」


「な……」


なけなしの勇気を振り絞れば、あの美しい青に私は少しでも近付けるだろうか。

さっきまで震えていた手足はもう震えていない。立ち上がると軽くスカートの埃を手で払う……しかし、学園の床はしっかり掃除されており埃などついていなかった。

あの父のことだ。婚約解消にしろ破棄にしろ相当な額の慰謝料かお金に代わるものを要求するだろう。


「ルルのような可愛らしい方がお好きなようですし、私の容姿や性格を叩くほどお気に召さないようですから。それなら可愛らしい方と改めて婚約された方がお互いのためではないか……と。婚約についてどうお考えなのか話すために明日はお邪魔する予定でした。丁度良い機会なのでここで話してしまいましょう」


一気に喋ると語尾が少し震えた。

怪訝そうな彼の表情を窺いながら、私の視界には床のトカゲが入っている。

のこのこ彼と一緒に空き教室に入ってしまったのが愚かな行為だったが、トカゲがさきほどと同じ場所にじっととどまっていることが何故か私を安心させ冷静にさせた。


「あの女のことをまだ根にもっているのか? あれは呪いの道具のせいだ。それに新規事業への融資があるから婚約の解消、まして破棄などできるわけがない。ずっと前から決まっていた家同士の取り決めなんだぞ」


家同士の取り決めを最初にないがしろにしたのはあなたなのに……。

そのセリフはルルがあなたに纏わりつきだしたころに思い出してほしいことだった。

本当に呪いの道具のせい……だけなのだろうか。

真意を探るように彼の視線を正面から受け止める。以前は彼のグリーンの瞳を珍しくて、とても綺麗だと思った時もあった。


今の彼の瞳には私を見下す色しか見えなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ