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いくら婚約者に言われていないことを他の人から言われてドキドキするなんて。
これじゃあ彼のことを浮気者だなんて言えない。
いや、そもそも一緒にランチをしたり二人きりになったり密着したわけではないのだから、これは浮気じゃないのかしら? 私が自意識過剰なだけでアシェル殿下はあれで通常運転なのかしら。案外誰にでもあんな感じなのかも。
そんなことを頭の中でぐるぐるぐるぐる何周も考えていたので、噂は気にならなかった。
「エリーは真面目よねぇ」
「婚約者に杜撰な扱いされて他から優しくされたらころっといくわぁ」
「相手が魅力的な方だったら余計にね」
「そうそう。だって私達一桁の年齢の時から婚約していて、異性関係なんて制限されまくってたのに急に学園に入れられて、授業は男女別と言っても交流はあるわけでしょ? 例えば情熱的なお手紙頂いたりなんかしたらドキドキくらいするわよー。少しドキドキしたくらいで浮気なんかじゃないわよ」
「それが浮気だったら学園は浮気だらけね。浮気の温床!」
ナディア様は家の用事でお休みらしい。
思い悩んでいる私の側でクロエ様とフライア様の2人は噂を聞きかじったらしく、きゃっきゃっと盛り上がっている。
噂の内容なんて知りたくなかったが、アシェル殿下が私に言い寄っているような内容になっているらしい。頭が痛い。
情熱的なお手紙というのは、男性が思いを寄せる女性に送る手紙のことだ。相手に婚約者がいる場合、2人で会ったり話したりすることは外聞が悪いので中々できないが、手紙ならオーケーというわけだ。学園では令嬢の机に入っていたり、使用人に渡してもらうパターンが多い。
私は一度も貰ったことはないが、フライア様は貰ったことがあるようだ。
「ねぇねぇ、結局ゼイン様じゃなくて殿下にするのー?」
「全くそんなつもりは……まず婚約者と向き合わないと……」
「おたくの婚約者もうちの婚約者も結構陰口叩かれて学園で居場所ないみたいよ? 家同士の取り決めを平気で軽んじる輩とはそりゃあ皆距離を置くわよね。ルルがいる頃から遠巻きにしてたけど。挽回は大変だわー」
2人と話して浮上した気持ちは、学園から帰宅してうちを訪ねてきたゼイン様によって崩された。
「では、アシェル殿下からの礼の品はお渡ししましたので」
疲れた様子のゼイン様がアシェル殿下から私への礼だと持ってきた箱に入っていたのはティーカップだった。ロイヤルブルーのバラが絵付けされている綺麗なカップだ。
「お嬢様、良かったですね! この間、カップが一つ割れましたから! しかもバラですよ! バラ!」
「これは王室ご用達の商会の商品ですね。価格は……いえ考えないでおきましょう。まぁ高いですよこれは」
メリーは自分が貰ったかのように喜び、オズワルドは手袋をつけてまじまじとティーカップを検品する。
カップと一緒に手紙も入っていた。几帳面な丁寧な字でオタマジャクシの名付けの礼が書かれている。オタマジャクシの様子も細かく書いてあるのでアシェル殿下本人が書いたのだろう。
まさかお礼の品を贈ってくるなんて……
メリーがさっそく綺麗に洗ってアップルティーを入れてくれる。
カップをそっと手に取ってバラの絵を撫でる。ロイヤルブルーはアシェル殿下の瞳を思い出させた。
どうしよう……
素直に喜んではいけない気がしてバラからそっと目をそらした。




