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「ぶぶっ、ショコラ! ショコラだって!」
「あら可愛いじゃない。私なら犬につけますけれどね」
令嬢らしからぬ笑い声をあげたのがクロエ様で、次に言葉を発したのはフライア様だ。
学園の応接室にて4人でランチ中。
明らかに新品だと思われる調度品と壁紙。
賠償金でちょっといじっただけなんてナディア様は言うが、学園が休みの間に全面改装したに違いないという出来だ。
私が王宮に呼ばれたことがナディア様にバレていて、洗いざらい白状させられた。
どうもナディア様も昨日王宮にいたようだ。東の隣国の王太子であるロレンス殿下との婚約がほとんど決まったという。これも極秘情報だ。なんだか昨日から極秘情報に触れる機会が多い。
祝っていいのか少しためらったが、ナディア様が見たことが無いほど柔らかな表情をしていたので3人で嬉しくなってしまった。
東の隣国の王太子殿下には元々国内に婚約者がいたが、流行病で何年も前に亡くなってしまわれてからこれまで婚約者不在だった。ナディア様は学園卒業後すぐに嫁ぐそうだ。
「それで、ショコラはご覧になったの?」
ナディア様の話を聞きたいのに、ナディア様は悪戯っぽい笑みを浮かべてそんなことを聞いてくる。仲良くなったせいもあるが、以前より雰囲気がずっと柔らかくなった。以前は近寄りがたい完璧令嬢だったが、今私の前にいるのはほんのり頬を染めた年相応の美少女だ。
「いえ、ショコラに決まった後はゼイン様が馬車まで送ってくださいました。アシェル殿下はスキップで別の部屋へ」
あの後、アシェル殿下は本当にスキップをして続きの部屋へ入って行った。しばらく待ってもそのまま部屋から出てこないのでゼイン様が恐縮するほど謝りながら送ってくれたのだ。彼が禿げないか本当に心配だ。
「あら、じゃあやっぱりゼイン様と何かあった? ねぇあったわよね? 王宮で2人っきりとか物語みたいにイベント発生すべきよね?」
クロエ様はゼイン様が絡むと嬉しそうに身を乗り出してくる。
「送ってもらっただけですよ」
「えぇー、つまんない」
「まだしっかりと知り合って間もないんだし、イベント発生するわけないわ。あるとしたらアシェル殿下の愚痴で盛り上がるくらいでしょ。あの浮いたウワサ1つないゼイン様よ。しかもマンジューというネーミングセンス。センス無いわ」
「あら、いいじゃない? マンジュー。プリンよりいいわよ?」
「プリンの方がいいでしょ。何、マンジューって。言いづらいのよ。なんて略せばいいの? マン? ジュー? やだ、プリン食べたくなってきちゃった」
ほわんとしているクロエ様に対してフライア様は手厳しい。
二人のテンポの良い応酬を聞きながら考える。
昨日王宮から帰った後、久しぶりに彼に手紙を書いた。久しぶりすぎて手が震えて何枚も何枚も便せんをダメにしてしまった。
話し合いたいことがあるので、どこかで時間を取ってほしいという旨の手紙だ。
学園で彼とすれ違うことは今のところない。クラスも違うし、授業が終わると急き立てられるように屋敷に戻って後継者教育を叩き込まれ、週に2回は王宮の廊下掃除もしているはずだから彼も忙しくしているだろう。
一体、彼と何を話し合えばいいのか。
私と婚約をちゃんと続ける気なのか? そもそも私のことをどう思っているのか? ルルとはどういうつもりだったのか? まだまだ心は纏まらない。手紙を書いたら纏まるかと甘く考えていたがそんなことはなかった。
でも、まずは一歩。ウジウジしていた今までの状態から小さな一歩でも踏み出した、と私は噛み締めた。
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