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拙い文章ですがお付き合い頂けたら嬉しいです。
「あ、アシェル殿下……なぜ絵の後ろから……?」
「近道なんだ。王宮の抜け道の1つ。そうそう。それより君に相談があるんだ。ちょっと来て」
アシェル殿下は何の躊躇もなく高そうな調度品の上に降り立ち、私の手首をつかむとこれまた高そうな絵画を再度押しのけようとした。
「で ん か!」
今度は扉が派手な音を立てて開く。聞き覚えのある単語の切り方だ。
そこには息を切らしたゼイン・ブロワ様が立っていた。
「ゼン、早いな」
「殿下、そんな問題ではありません。女性をそのような埃舞う暗い通路に連れ込もうとするとは何事ですか!」
ゼイン様が全力で止めてくれたので抜け道ではなく、王宮の廊下を歩く。なんだか彼を見ていると苦労人かお母さんというワードがぴったりだ。
「この前、君と一緒に捕まえたオタマジャクシの名前が決まらないんだ! 助けて!」
決して一緒に捕まえたわけではない。強制的に協力させられただけだ。心の中で盛大に突っ込みを入れながら顔がひきつりそうになるのをなんとか我慢する。これを口に出すようになったら王太子殿下と兄のようになるのだろうか。
アシェル殿下の私室に通されて、第一声がこれだ。
見回してもヘビやトカゲの入ったケースはなくてホッとする。続きの別の部屋にあるそうだ。
「マドレーヌかプリンか……どっちがいいと思う?」
ゴンと音がした方向を見たらゼイン様が壁に頭をくっつけている。
彼はアシェル殿下より1つ年下だが、まるで殿下のお守かストッパー役だ。
王太子の側近になると奴隷、第2王子の場合はお守あるいはストッパー。側近という羨まれる立場のはずなのに実態がシュールである。
アシェル殿下を窺うと、ブツブツ呟き真剣な様子で悩んでいる。
「ゼンにも聞いたら遠い国の菓子でマンジューはどうだって言うんだ。センスないよな」
私はまたもひきつりそうな顔をなんとか耐えて抑え込む。
オタマジャクシにプリンという名前もあり得ないのではないだろうか。
「あの……なぜお菓子の名前にされるのですか?」
「好きなお菓子だからさ。好きなものの名前をつけたらさらに愛着が湧くし、素敵な気分になるだろう?」
「は、はぁ……」
アシェル殿下は恍惚とした幸せそうな表情をする。こんな顔をされては反論するのも憚られる。
「実物を見ないと名前は決めにくいか? じゃあこっちの部屋に……」
「殿下。おやめください。大丈夫です。ご覧にならない方が想像力は膨らみます」
続きの部屋の扉に歩き出そうとしたアシェル殿下の進路をゼイン様が目にもとまらぬ速さで遮る。
「そうか? 見た方がよくないか?」
「いえ、エリーゼ嬢なら大丈夫です。女性は想像力が豊かなのです」
ゼイン様が無茶苦茶なことを言って必死に気を遣ってくれているのが分かる。普段クールで人を寄せ付けない雰囲気をお持ちなのに、今は必死で何とかしてくれ!と訴えるような視線がビシバシ刺さる。
どこがエリーゼ嬢なら大丈夫です、なのだ。マンジューがどんなお菓子か私は知らないけれど。
「では……ショコラはいかがでしょうか?」
深い深いため息を吐きたいのを堪えて、ぱっと思いついた名称を口にする。
「ショコラ……ショコラ……ショコラ……」
アシェル殿下は考え込む様子で私の口にした単語を反芻している。ゼイン様は緊張した面持ちで拳を握りしめている。
もしかしてこれは採用されなかったら不敬にあたるのかしら?
「可愛いな、ショコラ。それにしよう! ありがとう!」
アシェル殿下はパッと輝く笑みを浮かべた。
彼の瞳は幼児のように無邪気にキラキラ輝いていた。




