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お読みいただきありがとうございます!
拙い文章ですがお付き合いいただけると嬉しいです。
「大事な弟ならうちに売り込むな! 押し付けるな!」
「うちのアシェルと婚約そして結婚してくれたら、今なら! な! なんと! 公爵位と王家の管理してる領地を付けよう!」
「それって最初っからアシェル殿下が臣籍降下するときにあげようって話してたやつだよな?」
「ち。あのとき酔ってたのに覚えてたか……ふむ……じゃあ出血大サービスだ! ハドスン男爵が返還した領地も付けよう!! 今だけだよ! 今だけ!」
「素直に結婚する気配のない弟が心配だって言えよ。なんでうちに押し付けようとしてるんだよ。爵位と領地で釣られた結婚相手なんて嫌だろ」
「おかしいな……王都の商店街ならこの掛け声でとぶように売れてたのに……」
「……あんたが公務を俺達に押し付けてお忍びで城外に行ったことはこの際……二万歩譲って無視するとして。うちの妹にはまだ対外的に婚約者いるんだけど。そして弟を売るな。一応王族なんだから隣国との同盟に使うためにでも出荷しろ! 可愛い子には旅をさせよって言うだろ」
「ふっ。あの婚約者など命令でどうとでもなる!」
「弟のためだけにそんな命令発動すんな! 動機が不純!」
「あ、そうそう。出荷って言ったけど、スチュアートを北の隣国に出荷するから。アシェルは国内貴族と結婚させるよ。あの子、ああ見えて優秀だからこき使わないと」
「さりげなく重役の一部しか知らないことをバラすな!」
「あ、そうだった。スチュアートの隣国行きは極秘事項だからそこんとこヨロシク」
兄と王太子殿下のテンポよく展開される会話に一切口を挟めない。
どうやら聞き間違いでなければ、アシェル殿下を婚約者にどうかと勧められているようだ。
また、スチュアート殿下は北の隣国の王女のところに婿入りするらしい。北の隣国では金髪碧眼が珍しく非常に好まれるそうだ。ナディア嬢に婚約話がきているのは東の隣国だから別の国だ。
「アシェルは顔良し、家柄良し、趣味はこの際置いといて、浮気しない、ギャンブルもしない、女子に暴力を振るわない、使用人にも結構優しい。そして何より、アシェルと結婚したら僕をお義兄様と呼べる超特大特典付き! しかも、トファーが僕の義弟になる!? 遠慮なく仕事させられるじゃないか! 素晴らしくない!?」
「アホか。それに今までも散々こき使ってるだろ」
ナルシストを覗かせながら精いっぱいプレゼンする王太子殿下を兄は一刀両断した。
「ふっふっふ。あとはね、僕はちゃんと知っているよ。君達の父上はハウスブルク伯爵家にか~なり有利な条件でキャンベル侯爵家に取引もちかけてるじゃない? 中々吹っ掛けたよねぇ、このまま黙って飲むかな、あの侯爵が。飲んだとしても恨みを買うと思うよぉ?」
「はぁ、一体どこまで知ってるんですか……」
兄ははぁとため息をつく。
ハウスブルク伯爵家はキャンベル侯爵家の新規事業に融資をして、その代わり綿花を伯爵家に優先的に売ってもらうのと、新しい販路の紹介をしてもらう取引だ。私と彼の婚約もこの取引の一環だ。
うちの領地は紡績が盛んだ。
売ってもらう綿花の量と値段で父は吹っ掛けているらしい。ルル関連の問題、つまり彼の浮気を持ち出して有利に取引を進めようとしているようだ。
恐らく父はこのために婚約を解消しなかったのだろう。
「ハドスン男爵、いやもう爵位を返上したから……ハドスン元男爵の領地って覚えてる?」
王太子殿下のその問いに兄はすぐ答えにたどり着いたようだった。私も何拍か遅れて答えにたどり着く。
「そ。あの領地は綿花の生産量が多い。災害もほとんど起きたことがない領地だし、アシェルに与える他の領地も綿花の生産はしてる。しかもこちらは王族。販路の拡大なら他国向けまで開拓可能だ。キャンベル侯爵家に吹っ掛けた取引をするよりも益があると思わない?」
「それは当たり前だ。王族ブランドには太刀打ちできない。でもなんでそこまで? そこまでしてでもアシェル殿下が誰かと結婚しないと困るのか? うちみたいにしがない伯爵家でも?」
「当たり前だ。ナイジェルに調べさせたら未婚の男性貴族は既婚の男性貴族より平均して5歳も寿命が短いんだぞ! 5歳も! 5年あれば何ができると思ってるんだ! うちのアシェルには長生きしてもらわないと! あ、あとハウスブルク伯爵家は残念ながら伯爵とトファーが仕事しすぎて既に忠臣扱いだから。しがない伯爵家なんて重臣たちは思ってないからダイジョーブ! むしろどれだけ仕事積んでもこなしてくれ……、いや何でもない」
「ナイジェルが最近疲れ切ってるのはその統計を取らされたからか……忠臣以前に俺ら側近は全員過労死じゃね?」
ナイジェル様とは兄と同じく王太子殿下の奴隷……ではなく側近の一人だ。
統計はもちろんフィクションです笑




