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世界が眩しい。昨日に引き続き再びこの言葉が脳内を駆け巡る。
徹夜で本を読んでいたわけでもなければ、勉強していたわけでもない。
好奇の視線やヒソヒソ噂話をされながらなんとか最初の週の学園生活を終え、昨日のお茶会では恐れ多くも綺麗で高貴なるお三方とご一緒し、そして今は兄と一緒に登城したところだ。
目の前には王太子殿下。ちょっとまだ信じられないので繰り返すと、目の前には王太子であるエリアス殿下がいらっしゃる。目をこすりたいけれど思いとどまる。
兄弟なだけあってアシェル殿下とよく似ているが、王太子殿下は自信と生命力溢れる華やかな人だ。
爬虫類や両生類が視界に入っていない時のアシェル殿下の雰囲気を春の草花とするなら、王太子殿下はまるで夏の太陽。
自分とはあまりにも違う存在が眩しすぎて、ほんの少し目を細める。
「よく来てくれたね。公式の場ではないから楽にしてくれ」
輝く笑顔を向けられて楽にできる度胸は私にはない。生まれ変わってもそんな度胸は持てない。
「で、何の用ですか?」
兄はソファにだらんと座ってジト目で王太子殿下を見る。兄妹とは思えないリラックスっぷりだ。
「トファー。そんな用件を直球でレディに切り出すなんて無粋だな。まずはアイスブレイクが必要だ」
「何気持ち悪い事言い出してるんですか」
「トファー?」
聞きなれない言葉に疑問を口にする。
「クリストファーのあだ名だ。クリスと呼んだら女みたいだからやめろと言われてね。トファーならかっこいいだろう?」
ウィンクを飛ばしてくる王太子殿下。普通の令息がやったら寒気を引き起こすその仕草は彼には非常によく似合っていた。
横に座る兄を見ると嫌そうな顔を隠しもしていない。王太子殿下も気にしていないからきっとこれが彼らの日常なんだろう。
兄クリストファーは王太子殿下の側近だ。この王太子の場合、側近と書いて奴隷と読む、と兄はよく愚痴っている。
「で、うちのアシェルとどうなの?」
「おい。アイスブレイクはどこいった?」
にこやかなままの王太子殿下の爆弾発言に対して兄は慣れた様子で質問を叩きつける。
「えーもういいじゃん。トファーの話がアイスブレイク」
「なるわけないだろ」
「えー、だってうちの子が。哺乳類から距離を取ってるうちの子が、女性の腕を掴んで引き寄せるなんて事件だよ!」
「あんた、弟を見張るためだけに王家の影を使うな! あと哺乳類って表現はやめてくれ。せめて人類か異性!」
「仕方がない。我が弟の一大事のためだ。影だって喜んでいたぞ」
「あんたの弟はいつも通り、カエルかイモリかなんか捕まえてただけだろ! どこに喜ぶ要素があるんだよ!」
「だってナディア嬢に賠償金相当ふんだくられたからさぁ。凄いよね、あんなに家格が高くなかったら側妃にしたいくらい。でも公爵令嬢を正妃じゃなくて側妃はちょっとね。僕としてはちょっとでもお金回収するためにアシェルと何人かの影を送り込んだわけ。料理がすごい美味しかったってやたら影達は喜んでたよ? あ、エリーゼ嬢、影の一人が君と踊ったらしい。君はダンス上手いし、綺麗だし、でしゃばらないし、けなすとこないって褒めてた。で、うちのアシェルどう? いらない?」
まさか参加者に王家の影の人たちが紛れているとは思わなかった。最初に踊った海賊風の衣装の方だろうか? それとも騎士風の衣装の方だっただろうか?
考えているうちに2人の会話はどんどん進む。




