表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/64

16

お読みいただきありがとうございます!

ブクマ・評価・誤字脱字報告もありがとうございます!

ゼイン様は私が腕まで手洗いをするのを監督し、アシェル殿下に仮面をずらされた時に乱れた髪を整えてくれ、ダンスの行われる広間までエスコートし、一曲付き合ってくれた。


「殿下はまったく……すみません」


「では、また学園で」


アシェル殿下にブツブツぼやく姿はまるで過保護な兄か母親のようだ。でもエスコートや気遣い、そして最後の挨拶をした時も、髑髏仮面をかぶりながら彼は完璧な紳士だった。


あと2日で学園再開にも関わらず、目を閉じて思い出すのは仮面舞踏会の夜。

真紅のドレスを着ても埋もれてしまうきらびやかなドレスの海。

輝くシャンデリアの光の粒。

途中でイケメン王子とオタマジャクシなんていう喜劇のようなシーンにも遭遇したが、それも含めて夢のような時間だった。

いくらお金をかけたのか見当もつかないが、王宮のパーティーよりも豪華だった気がしてならない。


「お嬢様、いらっしゃいました」


「そう。もうそんな時間だったわね」


私は領地から昨日帰ってきた設定になっている。

そして今日は彼が訪ねてくる日だ。

兄情報だが、彼は侯爵家では後継者としての教育をさらに叩き込まれ、ルルの取り巻きと化していた他の令息達(スチュアート殿下含む)と共に週2日王宮の廊下を掃除しているそうだ。


「本当は牢獄の掃除をさせたかったんだけどさー。王太子殿下も喜々として賛成してくれたのに。陛下がかわいそすぎるって反対して実現しなかった」


兄が恐ろしい内容をぼやいていた。彼が雑巾がけやモップがけをしているなんて想像できない。


彼が到着して10分ほど経ってから客間へ向かう。

今回足は震えていない。仮面舞踏会でお世辞でも誉め言葉を貰ったことで女性としての自信を部分的に取り戻したのかもしれない。

我ながら単純だと苦笑し、ピンと背筋を意識して伸ばしてから客間に足を踏み入れる。

そこには以前より疲れた雰囲気の彼が待っていた。


「領地はどうだった?」


「ゆっくりできましたわ」


彼を直視すると、まだどうしてもルルがちらつく。

紅茶を飲みながらちらりと観察した彼は顎のラインがシャープになっており、目も大きくなったように見える。痩せた、いや、やつれている。


「明後日から学園が始まるが……その……これからは学園でランチを一緒に食べないか?」


思わず紅茶のカップを取り落としそうになった。

セーフだ、セーフ。前回に引き続きカップを減らす事態は免れた。

表情は元々乏しいので私の内心の驚きは顔に出ていないだろう。

それにしても急にランチを一緒に、だなんて槍か牛でも空から降る方が現実的だ。

あまりにも贈り物を突っ返したから次の手に出たのか。今更ご機嫌取りか。いや、これは学園で私達順調ですよ、婚約は続行中で仲もいいんですアピールをするつもりか。


「私は友人とランチをとっているので……今まで通りで良いのではないでしょうか」


この間まで彼は殿下やその他令息達とルルというメンバーで中庭の目立つ場所でランチをとっていた。あんな目立つ場所で食べていれば、親切を装った令嬢方が教えてくれなくても嫌でも目に入る。


「もしかして、ナディア嬢たちと食べているのか?」


カップを手にしていなくて心から良かったと思う。

名ばかりでも婚約者の友人関係くらい把握しとけ、と叫びたい。もちろんそんなことは言わないが。


「私の選択している授業は長引くことが多いですし、先生に質問したりしますのでランチに行ける時間がはっきりと読めませんの。お待たせするのも心苦しいですし、今まで通りご友人達と一緒がよろしいかと」


「そ、そうか……」


今まで通りを強調したためか、あるいはいつも意見しない私が意見したためか。

彼は少し狼狽えた。


「曜日によってはご一緒できるかもしれませんが、学園が再開してみないと何とも分かりませんわ。本来休みでない期間、授業が無かったので昼休みの時間が減って授業が詰込みになるかもしれませんし」


「確かにそうだな……」


その後の会話は沈黙が多くなり、彼は帰って行った。


どうやら思っていたよりずっと彼は私に興味が無いようだった。

彼がルルと一緒にいるようになってから、私は一人でランチを食べていた。

もちろんあんなことになる前は友人達と食べていた。学園ではずっと好奇の目線に晒されていたし、第3王子のナディア様に対する酷い態度を見ていたら友人達を騒動に巻き込んでしまうのではないかと私は危惧したのだ。

私の友人達は子爵家、伯爵家の令嬢達だ。彼女たちはルルの騒動の最中、婚約者と結婚したようでもう学園には来なくなるらしい。確かにルルがいた頃の学園は非常に危うい場所だったので結婚して学園に来ないのが一番の方法だ。令嬢たちが結婚によって学園を退学するのはよくあることだ。

彼女たちと手紙のやりとりはしていたので結婚したということは手紙で知った。今は諸々忙しいようなので落ち着いたら会いに行く予定だ。


「贈り物は持ってきても、結局私に興味はないのよね」


彼は私が一人でランチをしているなんて想像すらしていないのだろう。

改めて突き付けられた事実に思わず笑ってしまった。ちょっと前までの私なら泣いていたかもしれない。




学園初日は学園長のやたら長くてありがたくないお話と今後の授業についての説明だった。

面と向かって話題に触れる生徒はいないが、好奇に満ちた視線が教室でも廊下でも突き刺さる。何度体験しても居心地が悪い。

最も注目されていたのは第3王子であるスチュアート殿下だ。学園初日は半日だったが、彼はずっと不機嫌な顔だった。今まで王子だからときゃあきゃあ言っていた令嬢達は近づかないし、令息達も遠巻きにして腫れものに触るような扱いだ。

それに比べてナディア様はさすがだった。何事もなかったように相変わらず完璧な淑女として振舞っている。


「ナディア」


「殿下、ごきげんよう。もう婚約者ではないのですから呼び捨ては困りますわ」


スチュアート殿下はありがたくない学園長の話の後、何を思ったのかナディア様を呼び止めていた。しかも呼び捨てで。周囲の生徒に緊張が走ったがナディア様は完璧なカーテシーを決めると笑みを浮かべたままその場を去った。

堂々としていて物凄くかっこよかったし、殿下の呆然とした顔も見物だった。



「お嬢様、バイロン公爵家から招待状が届いております」


「エリーゼ。王太子殿下が一緒に登城しろと。今度の学園の休日だ」


なぜ学園初日に屋敷に帰ったらナディア様からお茶会の招待状と、王太子殿下との面会が入ったのか……意味が分かりません。


つたない文章ですがお付合いいただきありがとうございます。

もう少し浮気されて傷ついた女性の心情をうまく描けたらいいんですが、なかなか難しいですね……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ