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「っ……殿下! お戯れを! 離してください!」


「さっきの君の意見はなかなか面白いな」


最初は冷たさに震えたはずなのに、掴まれている部分が熱を持っている。

その熱は徐々に顔にも伝染していく。


「お、お離しください!」


「ハウスブルク伯爵家といえば、クリストファーか。君のお兄さんだよね。うん、さすが兄妹。似てる」


さらっと私の主張は無視された。腕は離されることがないまま顔を覗き込まれる。


「ん? 君ってナディア嬢と仲良かったっけ?」


殿下のおそろしく整った顔が近くにある。直視することなど到底できないので、顔を背けるのが精いっぱいだ。


「ナディア嬢と一緒にいるとこなんて見たことないし。あ、もしかしてアレか。キャンベル侯爵の嫡男が婚約者だっけ? あの変な女に迷惑かけられた関連で招待されたのか。ナディア嬢はやるなぁ」


仮面舞踏会は素性を明かさないのが暗黙の了解だ。仮面を勝手に外されてしまったけれどさすがにここまで来てその話を積極的にしたくない。


「で ん か」


一語一語はっきりと区切る、地を這うような低い声が聞こえたと同時に殿下の腕が離れる。上着が落ちそうになったので慌ててキャッチした。

いつの間にか現れた、赤の派手な騎士風の服を着た男性が殿下の胸倉をつかんでいる。


「あなたという人は! 目を離したら夜会なのにすぐ池やら川やらに入って行って……しかも今回は女性に何をしてるんですか? しかも! ドレスの裾が汚れてる!」


「っ……」


殿下を離して振り返った顔は髑髏。思わず息をひゅっと吸ってしまった。

彼の顔の半分以上は髑髏の描かれた仮面で覆われていた。唇の半分しか素顔は出ていない。


「ゼン、お前が怖がられてるじゃないか」


アシェル殿下はおかしそうに服装を整える。

殿下を睨みながら髑髏仮面の男性は屈むと私のドレスをハンカチで拭い始めた。


「じ……自分でやりますから! 大丈夫です!」


「本当は殿下がやらないといけないんですからね。殿下のせいでしょうが、これは」


彼もまるっと私を無視して殿下を睨みつつ、私のドレスの裾を拭く手を止めない。

池の側まで近づいてしまったのでドレスに草や土がついてしまっているようだ。


「じゃあ、やろう」


「だ、大丈夫ですから!」


殿下が笑いながら私の手から上着を取って羽織る。

ドレスの裾を髑髏の男性が持っているので逃げられない。


「本当に大丈夫ですから!」


ちょっとドレスを引っ張ったが無駄な抵抗だった。


「いや、こんな状態の女性を放っていたと知れたら俺が姉達から殺される」


男性は跪いたまま少しの間、視線を私に向けた。

またも悲鳴を上げそうになったが堪えた。しかし体は震えてしまった。

髑髏の奥に光るライトグレーの瞳と動作に合わせてさらりと流れた黒髪。


「よし、取れた。濡れていなくて良かった」


彼が立ち上がると、ヒールを履いた私よりも10センチは高い。

そして殿下は彼をゼンと呼んだ。これだけあれば彼が誰なのかは分かってしまう。


「あ、ありがとうございます」


「礼には及びません。全て殿下のせいですから。それで殿下、仮面はどこへ?」


「んー、どっかいっちゃったね。いいよ、どうせもう帰るし」


「まだまだ夜会は続きますが?」


「この子をうちに連れて帰らないと」


「げ……また何か捕まえたんですか」


「うん。だからゼン、あとよろしく。エリーゼ嬢。またね」


またの機会はないと願いたいが、礼を取る。

アシェル殿下はニヤッと笑って調子のはずれた鼻歌を歌いながら足取り軽く、オタマジャクシと共に庭を横切って行った。


「はぁ……戻りましょうか。その前に手を洗いましょう。殿下はカエルか何か捕まえたのかしりませんが、ああいった生物に触った後は手をきちんと洗わなければなりません。あなたも腕を掴まれたでしょう。さぁ行きますよ」


「は、はい……」


同い年のはずのゼイン・ブロワ様は、まるで兄か母親のような口ぶりだった。


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