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色とりどりのドレスがシャンデリアの光を浴びて輝く。
中央では何組も代わる代わる踊り、食事が並べられたテーブルや壁際では飲み物を片手に会話に花が咲いている。
王都一の楽団が音を奏で、庭では有名な大道芸人や手品師たちが芸を披露する。
期待しておいてとナディア様が言っていた食事は王宮で開かれるパーティーでも見たことが無いものばかりだ。
美食家を自称する人達は使用人を捕まえて、料理について根掘り葉掘り質問している。
物珍しさからすぐに料理はなくなってしまうが、またすぐに補充されていた。
顔を覆う仮面の力だろうか。
女性でも男性をダンスに誘っている方もいる。そしていつものパーティーよりも男女同士の距離が近い。
会場の熱気に当てられて庭に足を向ける。
休憩を挟みながら誘われるままに3人の男性と踊った。
心がふわふわと浮ついてしまっているのが分かる。口からは自然と笑みがこぼれる。
ダンスをした男性たちは皆、語彙豊かに褒めちぎってくれた。
最初に踊ったのは海賊風の衣装の男性だった。2番目の方は私と同じように羽根をあしらった仮面で、3番目に踊ったのは騎士の装いの方だった。
肌や瞳や髪が綺麗だとか、ダンスが上手だとか、声が素敵だとか、こんなに細いなら今すぐ攫って行けるとか、もっとあなたと踊っていたいとか、歯の浮くようなセリフだった。
もしかしてナディア様は舞台俳優も紛れ込ませているのだろうか。
庭に出て手品師がステッキを空中に浮かせているのを横目に人がまばらな方へ進む。
「ふぅ……」
ぎりぎり手品師のショーが見えるくらいのところで立ち止まり壁にもたれる。
夜風が火照った頬に気持ちいい。
彼には可愛いや綺麗などという言葉を貰ったことがなかったので、どう反応していいか分からなかった。でもお世辞だと分かっていても嬉しい。
庭に出る前に鏡の前を通った。
鏡の中に見えた私は私ではないようだった。少し驚いた顔の私の頬は上気し、仮面で見えづらいものの目は少し潤んでいた。着たことのない色を着ているせいか、いつもより高いヒールを履いているせいか、前よりも背筋が伸びて堂々として見える。
そういえばあんなことがあってから鏡の中の自分を確認するのが憂鬱で、すぐに鏡から目をそらしていた。
女性にしては高い背が嫌でヒールはいつも平均より低めを選んでいたし、猫背気味で歩いていた。
今、鏡の中にいるのは、婚約者に捨てられかけたしがない令嬢には見えなかった。
体の熱気が少し逃げて行ったので、夜の庭を楽しんでから広間に戻ろうと足を踏み出す。
バイロン公爵邸の庭には学園で見たような大きな噴水があった。その周囲では顔を寄せ合って親密そうに語らう男女が数組。
彼とルルの姿がそれに重なった。体はまだ火照っているのに心が冷めていくのを感じる。
エリーゼ、あなたは浮気しようと思ってここにきたんでしょ。
自分を奮い立たせ頭を軽く振って過去のイメージを追い払う。彼と私はあんな風にはなれないと突き付けられた気がした。
ぼんやりと庭を歩いていくと、今度は池が見えた。さすがに周囲にカップルはいない。
ここなら一人で落ち着けるかも、と噴水からためこんでいた感情と共にはぁーと息を吐き出した。
「おい、誰かいるのか?」
「ひっ」
誰もいないと思っていたのに、急に男性の声が聞こえて思わず小さく悲鳴を上げた。
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