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第75話 身の程とは

「とりあえず、森を出ましょう。ここらはゆっくりするには深すぎます。」


 説教が始まる前に、裕はさっさと移動する。治癒はまだ終わっていないようだが、のんびりしていたら、また別の魔物に襲われるかもしれない。


「さあ、さっさと立って移動する! 次は助けませんよ!」


 裕に急かされ、紅蓮に睨まれ、座り込んでいた幼いハンターたちは立ち上がる。

 だが、一人だけ意識を失って倒れている者がいる。


「ミシェノウルが……」

「引っ張って連れてきなさい。いちいちモタモタしない!」


 裕は重力遮断魔法だけ掛けると、さっさと歩きだす。エレアーネもそれに続き、幼いハンターたちもついていく。ぞろぞろと森を歩いていくなか、『紅蓮』は一番後ろから後方を守るような位置につく。

 尚、オークの首はハラバラスが手早く回収している。



「どうしてあんな森の奥まで行ったの? 畑が見えないようなところまで行ったらダメって言ったよね?」

「ごめんなさいぃぃ。」


 他の魔物や獣に襲われることもなく森を抜けるとお説教タイムだ。『紅蓮』よりも、エレアーネが物凄い勢いで怒っている。


 だが、素直に聞く者と、膨れ面をする者に分かれる。

 一年前まではエレアーネも『そちら側』だった。貧しい生活のなか、知識はなく、僅かな経験と思い上がりで命知らずの蛮勇と言えるようなことを繰り返していた。

 それを踏まえて、生きていくためにどうしていけば良いのか、時間が許す限り子どもたちに教えてまわっている。


「できることを一つひとつ積み重ねて行かなきゃダメ。無理をしたら大変なことになるんだよ。」

「そんなことを言っていたら冬を越せない。今から準備しないと間に合わないんだ。家に住んでいるお前に何が分かるんだ!」


 エレアーネの説教に、リーダー格の少年が言い返す。

 家に住み、食事に困ることなどなく、衣服は新品を仕立てるまでになったエレアーネは下級ハンターの中では断トツに裕福な生活をしている。

 冬を越えられず死んでしまう可能性はまったく違うだろう。


「家が欲しいなら手に入れれば良いじゃないですか。金貨二、三枚で借りれますよ。維持するのにもお金は掛かりますけど。」


 裕はあっさりと言う。マリー・アントワネットもびっくりの凄まじい強者の理屈だ。


「そんな金あるかよ!」

「ないなら稼げば良いでしょう?」


 さすがにこれにはエレアーネもあんぐりとする。


「森の浅いところじゃほとんど金にならない! 稼ぎたいから深いところにまで行くんじゃないか!」

「何故そうなるのです? この辺りの森の浅いところがお金にならないのは、町に近いからですよ。近いから、みんな行く。遠ければ行く人は少ない。町から離れれば、浅い森でも十分に稼げるんですよ。」


 魔窟のような森は、西側は山に沿ってかなり北まで広がっているが、東側はそうでもない。水トカゲの湖周辺では、かなり広範囲に普通の森が広がっていたのを確認済みだ。


 そちらでもクマやオオカミが出る危険性はあるが、魔物に遭遇する確率は格段に低い。


「この近辺ではあまり見かけない木の実もありますよ?」

「木の実ってあまり高く売れないよ?」

「自分たちで食べる分には良いんじゃないですか? 見た感じ日持ちしそうですし。」


 胡桃や栗、山葡萄などはそろそろ旬を迎える。他にも果実をつける木は多く、森はまさに食欲の秋、収穫の秋といった様相になる。

 そんな時期に競争率の高い森で取り合いをしていても仕方が無いと言うのが裕の理屈だ。


 果物類はそのままだと腐るのも早いが、丁寧に天日干ししてドライフルーツに加工すればかなり日持ちするようになる。


「干し果物はみんな欲しがりますからね。買ったら結構高いんですよ。薬になる木の葉やキノコだってあります。」

「そんなにあったか……?」


 裕の説明にホリタカサが首を傾げる。東の山から逃げ戻って、紅蓮も裕と一緒に森を見てまわっていた。裕やエレアーネは植物にも目を向けていたが、紅蓮は、少なくともホリタカサは獣しか探していなかったようだ。


「これだから筋肉の人は……」

「誰が筋肉の人だよ! そんなにあったなら何で採っていかなかったんだよ!」

「果物抱えて水トカゲを運べるわけないじゃないですか。」


 水トカゲは、つまり、クロコダイルだ。一匹で三百から四百キロほどにはなる。そんなものを運んでいたら、他の荷物を運ぶどころではない。


「一人銀貨十四枚。七人で行けば金貨一枚。それくらい稼げば、家なんてすぐ借りれると思いますけどね。」


 十日ほどもあれば、金貨数枚分くらいは得られるだろうと裕は言う。そして、それは副次的な効果もある。

 つまり、七人が町周辺の森からいなくなれば、競争率が落ちるのだ。狭い範囲でパイの奪い合いをしていては、必ずあぶれる者がでる。

 パイ自体を大きくしない限り、冬を越せない子どもが出てくるのは必然だ。


「でも、エレアーネは割と町の近くでやってない?」

「エレアーネは、他の人が知らなかったり、採れないような場所のを採ってくるから別に良いんですよ。エレアーネが採らなくても、他の誰も採りませんから。」


 実はそれは建前だ。エレアーネは森のかなり深いところにまで一人で行っている。ただし、下ではなくて上だ。

 光の盾を踏み台にして木の上まで簡単に登っていき、短時間なら森の上を歩いて行くのだ。

 そして、誰も手が届かないところに生っている木の実や若葉を摘んでいく。


 いずれにしても、エレアーネはパイの奪い合いに参加していないことだけは確かだ。


「冬の心配をするなら、少しでも危険が無い方法を探しなさい。」


 将来を考えて焦るのは分からなくないが、冬の前に魔物に殺されてしまったのでは本末転倒だ。


「あなたたちに、魔物狩りは早すぎます。森の浅いところで木の実でも集めながら、警戒の仕方や狩りの仕方を学ぶべきです。とにかく必死に己を磨きなさい。口ばかりの子どものままだと、どのみち死にますよ。」


 実際に死を覚悟するような場面に出くわしたばかりだ。幼いハンターたちは一様にしょんぼりと項垂れる。



「さて、私たちは帰るとしますかね。今日は無駄に疲れました。」

「あなたたちも、今日は町に戻って休んだ方がいいよ。治癒魔法は怪我は治っても、体力は回復しないから。」

「まだ動ける……!」

「体力が落ちていたら、何かあったときに逃げることもできなくなるんだよ? 本当に大丈夫なの?」


 消耗したところを襲われるのはよくあることだ。それで命を落とすこともある。裕や紅蓮はそうならないように、あっさりと撤退を決め込む。


「何にしても、そんなところで座り込んでいたら襲われますよ。」


 裕に言われて幼いハンターたちも町へと向かっていく。彼らに帰る家はないが、それでも堅固な防壁に守られた町の内側というのは安心感が違う。



 町へ戻ると、裕たちはとりあえず鍛冶屋に行ってみる。無駄だとは思っているのだが、全く見せもせずに王都に持って行くというのは、人付き合いとしてよろしくない。もしかしたらということもあるので、加工できるかとウロコを見せた。


「何のウロコだこりゃあ。まったくびくともしねえじゃねえか。」


 加熱しても叩いても何の変化もしないウロコに、鍛冶屋の親父はあっさりと「王都にでも持っていけ」と音を上げる。


 結局、今日の収穫はほぼ無いに等しい。帰りに僅かに集めた木の実や木の葉をハンター組合に納品して銀貨数十枚を得て終わりだった。


 ウロコはまだ売れると分かっていないので、暫定でゼロ円である。

次回、『不安な不穏』


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