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第47話 家無しの娘と商家の娘

 ウジニヒを出て二日目、街道を軽快に飛ばしていたら大きな隊商に追いついた。

 馬車七台で隣国からやってきたその隊商は、ちんたらと進まないわけではない。裕たちが速すぎるのだ。

 何故隣国からと分かるかって? 馬車に旗を掲げているからだ。国境を越える隊商は、所属国の国旗を掲げるものらしい。


 裕たちの隊商は、前を行く馬車に追いついたからと言って、別に追い越したりはしない。

 別に、そんなに急いでも仕方ないのだ。寝泊まりする町での滞在時間が長くなるだけで、それ以上の意味はあまりない。


 他の隊商と合流して動いていたほうが獣や魔物に襲われづらいということもある。後ろにくっついて行くことは、先を行く隊商にもメリットはあるのだ。


 だが、安心して旅をするためには、ひとつ、することがある。


 つまり、二つの隊商同士のあいさつだ。



 適当にひらけているところを見つけると、街道から逸れて馬車を停める。総勢十台の馬車が所狭しと並び、商会の主たちは身なりを整えると馬車を降りていく。


「あれ? ヨシノゥユー?」


 商会主ではないが、裕も一端(いっぱし)の商人として隊商に参加している。挨拶くらいはしておこうとついて行ったところ、先行隊商の商会主の背後についてきていた美少女が声をかけてくる。


「ミキナリーノ? それに、ミドナリフフさん?」

「知り合いか?」

「ええ、以前にお世話になった方です。」


 思いがけない邂逅に、裕は間抜けな顔をしながら挨拶をする。

 互いに紹介すると、大人たちは商人としての雑談に移っていく。



「元気そうで良かった。どうしてこんなところに?」


 大人たちから少し離れて、子どもたちは交友をはかる。

 といっても子どもは全部で四人、裕とエレアーネ、そしてミキナリーノとその弟のカトナリエスだけなのだが。

 傍目から見ると、エレアーネとミキナリーノが同世代の女の子どうし、裕とカトナリエスのが同世代の男の子どうし、となるのだが、中々そう上手くいかない。


 見るからにお嬢様・お坊ちゃまのミキナリーノとカトナリエスに対し、エレアーネは話題を持ち合わせてはいないのだ。

 そして、裕は、実はカトナリエスと話をしたことが無い。一時、ほぼ同じ期間に同じ神殿で世話になっていたが、裕は仕事や勉強で忙しいことも多く、あまり他の子と会話をしていなかった。


 どうしても、面識と共通の話題がある、裕とミキナリーノの二人の会話になってしまう。


「私もお金を稼がないわけにはいきませんからね。今回は商人として隊商にご一緒させてもらっています。」

「ヨシノゥユーは何を売っているの?」

「今は塩を取り扱っていますよ。そういえばミキナリーノのところは何を扱っているんでしたっけ?」

「色々あるけど……、紙は私が売ることになってるの!」


 自慢げに鞄から取り出した紙は、裕が以前に作っていたものよりも品質が良くなっている。


「へえ、凄いじゃないですか。頑張っているのですね。」


 素直に感心し褒め言葉を口にする裕に、ミキナリーノは無邪気な笑顔を見せる。旧知というのもあるのだろうか、どうしても商人としての対応にはならないようだ。


 そして、少し離れたところでエレアーネがそれを不機嫌そうに見ている。


 ミキナリーノの服装は旅装とはいえ、それなりに高級感があるものだ。髪も綺麗に整えられ、髪飾りまで挿している。

 同年代で比較すると、エレアーネの見すぼらしさは隠しようがない。

 子どもの時分では、生まれの差はどうすることもできないのだが、それを仕方が無いと割り切れないのも、やはり子どもなのだ。


「どうした? ヤキモチでも妬いているのか?」


 そんなエレアーネにデリカシーの無い言葉をかけているのはハラバラスだ。だが、エレアーネはそっぽを向くだけだ。


「おい、ヨシノ! 他所のお姫さんばかり構ってるとこっちのお嬢さんがむくれてるぞ!」

「何ですかそれは……」


 苦笑いしながらも、裕はエレアーネを手招きする。


「エレアーネ、こちらはミキナリーノ。私が以前、大変お世話になった方です。」


 裕に紹介されてミキナリーノは「よろしく」と微笑むが、エレアーネの方は頬を膨らませて目を逸らすばかりである。


「ミキナリーノ、こちらのエレアーネは私の専属のハンターで、治癒魔法を得意としているのです。」

「治癒魔法? 私と同じくらいですよね? 何歳なのかしら?」

「十歳。」


 ボソッと答えるエレアーネに、さすがに裕も「いい加減にしなさい」と嗜める。


「まったく、エレアーネは孤児の出だからと僻み過ぎなのです。その歳で第二級の治癒魔法を使える人なんていないというのに。」

「第二級? それ凄くない? わたし、やっと第一級の水魔法を使えるようになったばかりなのに……」


 目を丸くするミキナリーノの反応に、エレアーネは逆に戸惑いを強める。どうしても劣等感が先に立ってしまうようだ。


「字も読めるようになりましたし、卑屈になるほど何もできないことはないんですけどねえ。覚えの速さは私の何倍も上ですよ。」

「あら、今はヨシノゥユーが字を教えているの? あなたに教えていたのがちょっと前のような気がするわ。」


 ミキナリーノは懐かしそうにクスクス笑いながら言う。そして、それをエレアーネはポカンとしながら聞いていた。


「ヨシノが、教わっていた?」

「ええ、私だって誰かに教わりますよ。私は、色々な人に色々なことを教わっただけです。別に、私が凄いから知っているわけではありませんよ。」

「そうそう。私もお父さんに色々教えて貰ってるの。覚えなきゃいけないことがいっぱいあって大変だわ。」


 溜息を吐くも、ミキナリーノの顔は楽しそうだ。


「ところで、そちらの子はどうしたの? ハンターで専属ってあまり聞かないけれど……」

「エレアーネは浮浪児上がりのハンターでしてね。なかなか見どころがあるのですよ。」

「治癒魔法が使えるなら、うちにも欲しいわ。隊商に一人いるだけで随分と楽になるじゃない? ねえねえ、エレアーネさん、うちに来ない?」

「引き抜かないでくださいよ! それにエレアーネにはやることがあるのですから行きません。」


 エレアーネは他の孤児・浮浪児たちを助けたくて頑張っている。そのために字を覚え、言葉遣いを覚え、魔法の練習をしてと、一生懸命に頑張っている。


「色々教えてくれるのはとてもありがたいけれど、ヨシノはとても厳しい。」

「私はできること、できる分しか与えていませんよ。」


 口を尖らせるエレアーネに裕は反論を試みるが、ミキナリーノがさらに追い討ちをかけてきた。


「あら、ヨシノゥユーは厳しいって神殿ではよく聞いていましたよ? 絶対にできないことはないけれど、必死に頑張らないとクリアできないって。」

「それは、ミキナリーノも同じじゃないですか! いつも、もっと頑張れと次々と課題を出してきていたじゃないですか。」

「私、そんなに厳しくしてないよ? ヨシノゥユーはできるからどんどん進めていっただけだよ。」


 二人とも、クリアした者には課題をどんどんと積み上げるタイプらしい。そして、この二人に共通するのは、積み上げる際に褒め言葉が無いことだ。


 エレアーネに「ヨシノは褒めてくれない」と言われて初めてそれに気づく裕は、本当に元社会人なのか。


「できたらちゃんと褒めなきゃダメだよ?」

「ミキナリーノも同じじゃないですか! 私は別に褒めて欲しいと思いませんけど……。そんなに褒めて欲しいものなのですか?」

「普通は嬉しいと思うけど。私はお父様に褒められると、とても嬉しいわ。」


 ミキナリーノの言葉に、裕は「前向きに考える」と言うものの、その表情からは改善は難しいものと思われる。

次回、『賊を討て!』


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