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第42話 雨降って地固まれば良いのにね

「魔族? 隠した? 何のことだ?」


 大袈裟に「何を言っているのか分からない」としらばっくれるアサトクナ。


「全くです。この大変な時に、ワケの分からない騒ぎを起こさないで欲しいものですね。」


 隠れも悪びれもせずに、裕は冷ややかな目を飛び込んできたハンターへと向ける。


「ノブタムラ、お前たちが中心になって、市中で武器を振り回していると聞いたがそれは本当か? お前たちは三級ハンターとしての自覚があるのか?」


 ハン()職員も、その点については黙っていることができないようだ。数人でカウンターから出てきてノブタムラに詰め寄る。


「待ってくれ。その子どもは魔族だ。間違いない、うちの魔導士が見たことも聞いたこともない魔法を、魔法陣も詠唱もなしに使うんだ。」

「仮に本当に彼が魔族だとして、一体何が問題なのですか?」


 心底バカにしたような調子で、横から口を出してくるのはヤマナムだ。


「彼は私たちの重要な取引相手なのですが、一体、どのような悪事を働いたのです?」

「魔族は人類の敵だ! そんなの、常識だろう!」

「おやおや、お伽話では恐ろしい敵と言われていますが、それは大昔の話でしょう? 今でも恐ろしい敵だなどと私は聞いたことはないですね。」


 ヤマナムが周囲を見回すと、商組職員は同意するように頷いているが、ハン組職員は何とも言えない苦笑いだ。


「ヨシノとは、少なくとも話し合いができる。今のお前らの方が、余程話の通じない危険な存在だよ。」

「紅蓮はその魔族に付くって言うのか?」


 アサトクナは諭すように言うが、ノブタムラからは非難の言葉しか出てこない。


「俺たちはヨシノと敵対しないことにしてるんだ。何か犯罪行為があったなら警吏にでも任せておけば良い。俺たちの出る幕じゃねえよ。」

「だからと言って、魔族をハンターと認めるなんて……」

「何を言っている? ヨシノはハンターじゃない。商人だ。」


 三級ハンターのノブタムラに臆することなく、アサトクナは正面から睨みつける。


「ここで言いあいをしていても仕方がありません。それよりも、莫迦(バカ)を止めに行った方が良くないですか? ハンターは犯罪者の集団だってなる前に。」

「手遅れかもしれねえぞ?」

「何もしないよりは、責任者が出て行って弁明やら謝罪やらした方が良くないですか?」

「……それもそうだな。」


 裕は一行にハン組職員も加えて自宅への道を行く。



 そのころ、裕の家の前では、ハンターと警吏が揉めていた。

 ハンターたちがいくら「魔族が!」「敵が!」と言ったところで、今そこに彼らの言う危険人物はいないし、警吏の目の前で武器を振り回しているのはハンターたちだけだ。


「大人しくしないなら、全員犯罪者として捕らえるぞ!」


 僅か五名の警吏が、武器を持つ二十を超える数のハンターに強く出られるのには理由がある。ハンターたちの使う武器は、警吏の持つ魔法道具でことごとく破壊することができるのだ。

 実際のところ、破壊対象はハンターの武器だけではなく、家庭用の包丁や鉈、農具まで、金属製の武器となりうるもの全般だ。その全てに、緊急破壊用の魔導刻印が施されている。


 この刻印が無い武器の生産や所持は固く禁じられており、違反した場合には厳罰に処される。刻印の無い武器を持って良いのは貴族と、貴族に仕える者だけだ。


 警吏が魔法道具を取り出すと、さすがにハンターたちもたじろぐ。魔法道具を使われたら、問答無用で予備武器含めて効果範囲内の武器は全て破壊されてしまう。


「ま、待ってくれ、本当に危険な奴が……」

「だから、その危険人物は何所にいるのだ! 私にはお前たちが危険人物にしか見えんぞ!」


 警吏から見れば当たり前の反応だ。牙を剝いている獣も、オーガやオークのような魔物もそこにはいないのだ。


「くそっ! 警吏は魔族の味方かよ!」

「その魔族は何所にいるのかと聞いているのだ。何所にもいないではないか! デタラメばかり言って誤魔化すのもここまでだ。」


 五人の警吏は互いに視線を交わし、頷き合う。



「ちょっと待て! 待ってくれ!」


 息を切らせながら警吏たちの背後から叫び声をあげたのは、駆けつけてきたハン組職員だった。


「ハンター組合の者だ。大変申し訳ない、この者たちは我々が……」

「今すぐどうにかしろ。市民から苦情や通報がきている。」


 警吏が高圧的なのも仕方が無い。ハンターたちがしているのは、明らかな不法行為だ。ハン組職員たちもひたすら謝るしかない。


「何を莫迦なことをやっている! 今すぐに解散せんか!」

「し、支部長、そう言われましても……」

「やかましいわ! 力を振りかざしてイキがる歳でもないだろうが!」


 この騒ぎに参加しているのは三級を筆頭に、四級・五級と、この町でのトップクラスから中堅にかけての上位勢だ。六級や七級の参加者は一人もいない。


「ノブタムラ、黙って見てないで自分のチームくらい連れて帰れ!」

「……帰るぞ。これ以上やってれば俺たちが犯罪者だ。」


 忌々しげに裕を睨みながらも、ノブタムラは支部長に渋々従う。そして、三級チームが武器を収めて帰っていったのを見て、他のハンター達もバツが悪そうにしながらもそれぞれ帰途についていった。



「また厄介なことに……」

「何でも良いから、ハンターたちにはしっかり言っておいてくれ。ヨシノもだ。これ以上の揉め事は御免だぞ。」


 大きな、とても大きなため息を吐き出す支部長に、商組職員は疲れた顔で念を押す。


「私が言うことではないかもしれんが、塩や食料の件は頼むぞ。この期に及んで塩を出せないなんて言い出したら、暴動を止めることはできん。」


 ハン組支部長としても、間近に迫ってきている冬支度に際して「塩が無い」なんてのは悪夢でしかないのだろう。

 最悪の事態に直面したら、それこそ本当にどうすることもできないのだから。




 それから、裕の岩塩販売事業は果てしなく忙しくなる。

 塩が不足しているのは、この町、アライだけではないし、裕が行ったことがある町だけでもない。


 ドドネル商会は結局アライを訪れることはなく、今後、このボッシュハ領にやってくることもなくなる可能性が高い。領内の各町や村にひたすら塩を売ってまわる必要があるし、木材の運搬にもかり出されて冬まで休みの無い毎日が続くのだった。

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