最後の枷
幼い頃に課せられた最後の枷が今外される。様々な人々の手が添えられた結果だったが、その最も大きな力となったアレンとの今後が最大の試練になる。
2人の未来は構築出来るのか?!
過去が起こした波紋は、私とアレンとの結び付きを強くしただけには留まらなかった。
「改めて宜しく」
アレンにそう切り出されて、政直が私を見、次いで溜め息と共に右手を差し出した。
「頬を差し出すべきなのだろうが、俺にも言い分がある。あの頃のアウルはとても危うかったんだ」
「アウルの中で君の存在がああも大きくなければ、諦めたくは無かった」
「君が何をしていたかは知らないが、如何して浚って引きずり込んでおかなかったのかと、我を忘れたんだ」
「今日の事はアウルにでは無い、君に対する当てつけだったんだが、己が意に染まぬものには、動かしようも無い奴だったのに思い至った」
「従って俺の思い込みに過ぎなかった。赦してくれ」
立て板に水の弁論を聞いていたアレンが、眉一つ潜めること無くさらりと応えた。
「ええ。仰ることは判ります。危ういと言うよりは、命に頓着が有りませんからね。冷や汗をかきながら幸運に感謝している所です」
とんでもない言われように、自業自得と言うのはこう言う事態を言うのだろうが…全ては過去の話だ。彼にも私にも。
「申し開きをしろと言ったはずだが、煙に巻くだけなら、今すぐ国外退去を申し渡してやっても良いんだぞ」
うっかりするとペースに巻き込まれそうになる。相変わらず押しの強い奴だ。むきになりかかる私を止めて、アレンが背後に目を向けて、やめろと言う。
振り向くと、好奇心を盛り上げたクリスの目がそこに有った。ぎょっとした私を尻目に、何も言わずに、にこりと笑う。
「凄いなぁ…父様を慌てさせられるなんて、アレンだけかと思ってた」
「今は、俺に分が有るだけさ。あの頃は慌てるのは俺の方でね」
クリスと一緒に真澄が戻ってきていた。
…ひょっとすると…
「いい加減にしろ!こいつと居るとろくな事は無い。君は私が預かるから、直。日本へ帰れ」
「え?!あ…そんな、直が居なかったら僕なんか…」
本意が読めてきた。
「君が感じている引け目は、本当の愛情の前には無用のものだよ。まぁ、自分で悟れるものでは無いが…」
「直に恩義を感じる必要は無い。愛情を感じていると言うのなら、話は別だが」
言ってみると少年は俯いて赤くなった。
見ている直の顔にも歓喜が浮かぶ。
信じられない様に目を見張った。
「あ!判った!」
「直!私を、彼に見せに来たな?!」
「え?!」
「あっ!!」
「たたた…ばれたか!」
驚いた事に、真澄も私の言葉の意味を理解した。ぱっと、その場から逃げ出したのは、身の置き所が無くなったせい。
クリスが後を追う。
「すまない!」
跡を追おうとするのを止めた。
「迷うぞ。部屋で待っていればクリスが連れて戻る」
「申し訳ない」
真摯な応えが彼の心情を示していた。
後ろ姿を見送ってどっと疲れて、ソファに沈み込んだ私の前に、アレンが床に膝を突く。
「アウル、赦して下さい。まんまと乗せられた」
「謝るのは私の方だろう?!」
唇が捕らえに来て重ねられた。
そう…アレンがむきに成るのは過去に嫉妬を憶えているから。私を愛しているから。
唇を離し、アレンの瞳がちら…と、ドアを見る。ノックが有って、クリスの声が言った。
「…送り届けて来ました。そこでケインに会ったから、皆休むと伝えました」
「父様、おやすみなさい。アレン、泊まってってくれるんでしょう?!明日休みだもん」
「ああ、そのつもりだよ」
「おやすみ」
更に疲れた。
「出来た息子だ」
アレンが笑って言う。
「出来過ぎだ。文句を言ってくれる方が有難い」
「なに言ってるんですか?!貴方そっくりになって来てるんじゃ有りませんか?!頼もしいですよ」
「こういう所が父を怒らせて居たんだろうな…と、嫌な性質だな」
溜息と共に言うと、アレンが仕方ないなと言う様に、笑った。
「クリスを嫌な性質だと?!」
聞かれて、クリスの事など考えていなかったのに気が付いた。
「…そうじゃ無い」
言うと、染み入るような微笑みで見詰めながら言う。
「ほらね。父上のお気持ちは、貴方とは関係の無い事ですよ」
呆気にとられた。
この一言が、私の最も欲しい言葉だったのかも知れない。
「…どうして判った?!」
「判るって?!」
「お前は何時も、私の欲しいものを欲しいときにくれる。どうして判る?!」
「…こうして…貴方に触れているから…かな?!前にも聞きましたよね?!」
「本当は考えて言ったことでは無いから判らない」
「違うな…やっぱり、俺が貴方を愛しているからだ」
「俺だって…同じですよ」
「抱えきれない程の困難に、途方にくれている時に、貴方は何度も俺に手を差し伸べてくれた」
「俺自身でさえ何が要るのか解らないのに…何故分かったんです?!」
「…お前を…愛していたからだ」
そう言って、驚いた顔のまま居る手を引いて、寝室へ向かう。振り返り、胸に置いた手を滑らせてひたと身を寄せれば、瞳が潤んで閉じられ唇が踏み込んだ。
「本気にしますよ?!」
「1度も嘘などついていない」
凶器のようなキスが、なけなしの自制を切り裂いた。
「…ベッドでしたい…」
諸手をまわした耳元で囁くと、腕が躰を浚い上げて、寝室へ向かった。
お読み頂き有難うございました。
やっとここまで来ましたぁ~。この後未だ、未来に向けての話しが少し有りますが、おおかた片が付きました。
もう少しお付き合い下さいませ!




