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蜜月  作者: みすみいく
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夏期休暇

 大学時代の悪さと、現在が対立する最悪のシーンが顕現してしまった。トラブルでは有るが、それぞれの関係をより深める切っ掛けにも成る。

 決裂せずに納められるのか?!

 俺の真意が明らかに成るまで…と、アウルは言った。偶然を装って、彼にコンタクトした事が、目的を持った手段で有ると見抜かれている。


 肝心の真澄は、俺の意図を理解してくれるだろうか?!。


 「では。真澄様を欧州の学校へ?!」

 「ええ。そう出来れば良いと思っています」


 公爵家差し回しの車には、彼の古参の執事、ケインが同乗してきていた。

 アウルの配慮は全く抜かりなく、俺達だけを先に屋敷に送って置いても、ケインが付いていればなんの問題も無い。


 オックスフォード在学中に、2、3度屋敷を訪れた事が有る。休暇中、日本に帰らずに居るというと、公務を片付ける必要が有るから付いてこい、と、招待されてだった。


 溜息が出るような、本物の古城だった。

 これでも、北の避暑離宮だったそうで。

 先代の館は今は内務省の庁舎を置いて有ると言うことだった。

 やはり歴史は侮れない。


 当時、俺を酷く驚かせたのは、クリストファー・ハインリヒの存在だった。


 アウルの実子だと言う。

 実子?!アウルは今17だろう?!この子はどう見ても、赤ん坊には見えないじゃないか?!

 驚く俺を尻目に、笑うアウルに、出生の経緯を聞いて、その数奇な顛末に溜め息を付いているより無かったものだ。


 公爵邸の車寄せに着いて、出迎えた使用人達の後ろに、アウルによく似た少年が立って居た。


 「ようこそ。お久しぶりです。直」

 「驚いたな。やっぱりクリスか?!俺の事を覚えていてくれたんだ」


 ふわふわと綿飴のようだった肩までの栗色の巻き毛を、何処かで見覚えの有るスタイルに、短く切って。

 そうか、アレンは彼の憧れなのか…


 「紹介しよう。楡崎真澄。俺の婚約者の弟、義理の兄弟に成るかも知れない」

 「ええと…確か同じくらいの年だと思ったんだがな」

 「15に成りました」

 「同い年です。比べ物に成らないけど」


 年が近いというのは有難いものだ。

 真澄の表情が、俄に明るくなった。


 「クリスは?!大学は?!」

 「来年、オックスフォードにチャレンジしてみようかと思っています」

 「それは良いな。真似してみないか?!」

 「ええっ?!僕なんかとても…」


 真っ赤に成って謙遜している所へ、ケインの使いが、昼食だと呼びに来た。


 「弟になるの?!」


 真澄が、立ち上がり掛けて俺を振り返るとそう聞いた。


 「恋人だと言ってしまって良かったのか?!」


 そう言って口付けてやると、真っ赤に成って俯いてしまう。

 クリスと一緒に食事をして打ち解けたせいもあって、真澄の笑顔が増えたように思う。思い切ったかいが有ったというものだった。


 クリスは真澄に、自分と同じグラヴゼルに来ないかと誘っている。そこからインタ-ナショナル・バカロレアを取れば、オックスフォードの受験が可能になると。


 初めてのことばかりで、戸惑って居るのだろうが、価値観が1つきりで無いことを知って欲しい。


 俺自身が世界と触れあうことで、目から鱗が落ちたように。解決策を見出して欲しい。


 「直は前と同じ部屋で良いよね?!真澄はこっち」


 クリスに案内されて、前に滞在した部屋に落ち着いた。荷物を解いていると、向かい側の自分の部屋から、真澄が覗いている。


 「入っておいで」

 「どう?!部屋は気に入った?!」

 「落ち着かない。立派過ぎて」

 「変わらないだろう?!寝室」


  言うと、溜め息を付いた。


 「貴方みたいに対処出来たら…何時もおどおどしていて。嫌になる」

 「俺がそれで良いと言ってもか?」

 「ここの人達は皆綺麗で圧倒される。クリスなんか同い年で…翠色の瞳が…」

 「あれは止めとけ。アウルより手強いぞ」


 からかいにぼんっと赤くなると、今まで見たことも無いような顔をして、俺を見上げた。


 「…放して」

 「嫌だ」


 からかいを真面にとって、自分がその奥のアウルに嫉妬しているのに気付かない。


 「庁舎に残って、彼等が何をしていると思う?!こうして…アレンに抱かれてる」

 「彼の代わり?!」


 笑うと悔しさをてんこ盛りにして睨みつけ、掴まれている手をもぎ離そうともがく。


 「…馬鹿。彼を狙うなら1人で来るだろうが?!」

 「…嫉妬するかも知れない」

 「じゃあ、させてみろ」


 俺、ホントにこういうのに弱い。

 真澄の言う代わりでは無いが、真澄は出逢ったときのアウルと殆ど同い年だった。

 彼は16、俺は17。

 お互いに奪うばかりの関係だった。

 未だ、与える余裕の無い、与えることを知らないガキ同士のじゃれ合いに過ぎなかった。

 喘ぎに変わり掛けた吐息を載せて、想いにかまけた俺の首に諸手を回し、珍しく強引な口付けを仕掛けてきた。渡さないとばかりに。

 睡って終った真澄を部屋に残し、庭に面したフランス窓を開けた。


 庭は薔薇の花盛り。

 香料と、関連する加工品の会社を経営しているアウルの、趣味と実益を兼ねたプロトタイプの花壇と温室が続いていた。


 噎せ返る様な香気の中で、夏期休暇の記憶が蘇る。

 幻想が共に帰ってきたのかと、暫しの錯覚を憶えていた。

 白いドレスシャツに、麦わら帽子。

 モスグリーンのガーデンエプロンのポケットに、重い花切り鋏を突っ込んで、アンバランスに傾げさせたまま、手に抱えた薔薇の花束の棘を無心に抜いている。


 帽子で唯一違う髪の色を隠しているので、8年前の記憶と重なる。


 俺が見ているのに気づいて居たのか、大きな花束を抱えて此方へ歩いてくる。


 「これ。真澄の部屋に」


 大ぶりのダマクスローズや、煉瓦色のハイブリッド。くすんだマンダリンオレンジが美しいフロリバンダ、多種多様な花たちが、ラベンダーの小花に彩られていた。


 「有難う。起きたら驚くだろう」

 「薔薇は殆ど終わりなんだけどね。ラベンダーが盛りだから」


 花の香りに、何処かで嗅いだ記憶があって、暫し考えていた。


 「春の王、でしょう?!」

 「アウルのコロンか?!」

 「そう、あれは父様のオリジナルなんだ」


 驚いた。

 俺がアウルの情人だったと知って居る様な口ぶりだった。見詰めた俺にクスッと笑うと、意味ありげに眉を上げてみせる。この親子は全く。


 「知ってます。最悪のタイミングで、アレンとの事を知ることに成ったから」


 思わず溜息が出た。


 「君は嫌じゃ無かったのか?!父親が…その…」

 「前はね。具体的にどういう事かを理解できる年だったし…。でも、大体が普通の親子じゃないんで」

 「僕は今15で、父は23。兄弟の方が相応しいし、僕が生まれた経緯も、とても父1人の責任を問える内容では無かったし…」


 「幼い頃の記憶は、その事実を知った今も、覆されずにそのまま在るから…」

 「余り考えるのは止そうと思う事にしたんです」

 「怜悧な大人だな」

 「表向きはね」


 とてもとても…。同じ頃の俺とは比べものに成らなかった。溜め息ものなので話題を変えよう。


 「趣味のようには見えなかったが?!」

 「修行だからね。嫌いじゃ無いけど、大学を出たら、公領の管理と、社の仕事を覚えろと言われているから…」

 「なる程、君には公爵家がのしかかって居るわけだ」

 「公爵家だけじゃ無くて、母の家ものしかかって居るんです」

 「曾祖父が高齢なので、亡くなれば僕以外に跡を継ぐ者が居ない」


 呆気に取られて声も出ない。


 親子二代で自分の甘さを思い知らされ、逃げる事を止めて、自分自身と向き合う覚悟を促されようとは…。


 これはもう、年貢を納めざるを得ないと思い知らされた。


 「帰ってきたみたい…」


 言って、クリスが先を歩く。


 花束を抱えたまま、玄関ホールに赴くと、今しもドアが掛け放たれて、2人が車を降りるところだった。


 鍵を受け取る使用人に何事か告げると、アレンが此方を見遣る。首尾良く修復に成功したのだろう、思わず見とれる美丈夫が、自信に裏打ちされて益々美しい。


 ナビゲーダーシートから降り立つアウルの姿に花の庭で嗅いだ春の王が俄に蘇る。


 アウル特有の、愛された後の透き通るような肌が未だ残っている。


 見惚れて居る俺の傍に、使用人の1人が花束を受け取りにやって来た。


 こうなったら覚悟を決めて、最悪の場合一発殴られる覚悟で、話を付けなければならない。

 お読み頂きありがとう御座いました。

 クリスの成長が思いの外速かったな~なんて、人事のように思ってしまいました。

 この後、この話は後一編、本編はもう一作で終了で、外伝ぽいのがもう一作。

 とにかくもう少し宜しくお願い致します!

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