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蜜月  作者: みすみいく
3/6

本意

 当然の事ながら、一緒に暮らしている家族には何ればれますわな。

 って事です。

 こうなっちゃう事は、全く予定していなかった2人は取り敢えずのように、秘密にしておこうとは思っているんですが、事故というものは起こるべくして起こるもので、最悪の事故が起こってしまいます。

 どうなりますことやら…。

 2歳の時、母の急死の知らせで、駆けつけた父と初めて逢った。


 父はその時、12才。俺は2才。

 そう…とんでもない話なんだ。


 2歳から幼年学校を出るまでは、母の乳母で有った、クララ・メルダースの孫として育った。


 母の遺言に逆らえず、実の娘の様に愛していた母の死から僅かの間に、乳母から、俺迄もを引き離すのは忍びなかった為だそうだ。


 俺にこの話をしたのは公家の執事で、父の子供の時からを知っている、ケイン。俺の、家での父親代わりで、表立った保護者でも有る。


 小さい頃からよくケインに手を引かれてあちこち連れて行って貰っていた。動物園だの、海だの、公園だの。


 学校の保護者登録も、「おばあちゃま」と呼んでいた、母の乳母と彼だった。

 優しくて、懐の深い、第一その溢れるほどの誠実が俺の拠り所となっていたのだ。


 時折は、父が顔を出すことも有ったが、数える程で、19で内務省へ入省し、貴族院の議員になってからは、一切表立つことは無くなった。


 母の実家であるリント伯爵家と、直接対立するようになっていたからだったが、今であれば、致し方のない事態だったのだと理解出来る。

 

 グラヴゼル編入と共に…一昨年の事なんだが、籍を直し、父の実子と成った。


 まだ、公には披露されて居らず、外に出来た子を引き取った。或いは、先代の落とし胤何ぞという噂まで立ったが、父は此について何一つ、否定も肯定もしなかった。


 クリストファー・ハインリヒ・フォン・オルデンブルクとなり、当代のコンスタンツ・アウロォラの継子としてここに居るが、彼の実子で有るか無いかを、俺自身が最も疑問を抱いていた。


 父は今23。俺は14。

 兄弟の方が相応しい。

 勿論、姿形、目の色からちょっとした所作まで、よく似ている。

 外ではいざ知らず、公領の中ではごく普通の家族のように、可愛がられていた記憶も有る。

 父の事を愛している自覚も有る。

 だが、父親としての実感が無かった。


 男としての理想が他に有ったからかも知れなかった。

 7才の頃、父の義理の弟と成ったアレン・カーライツ伯爵。


 父の双子の兄、現国王マルグレーヴが、アレンの姉、ゾフィーを王妃として娶ったからだが、彼に婚儀の席で会ってからずっと憧れていた。


 父とは、半年違うだけなのに、並んで同じように軍服に身を包んでいるのを見ても、既に幾つも上に見えた。

 不思議だった。

 今まで俺の前で、父に対して対等の口を効くものは見たことが無かった。公領の中以外では基準が違うのだと思った。

 どちらかと言えば、アレンは、ケインに近かった。優しい物腰、暖かい眼差し。誰かを護るために備えているような、懐の深い腕。

 何処か父を否定するための要素を捜していたような気がしないでも無かった。

 反抗期だったのかも知れない。


 その日、研修旅行が延期になって、週末家に帰ることになった。食事も終えて、明日はそろそろ薔薇の手入れを始めないと、庭師を通じて、父に知られ、叱責を食らうなと思っていた。

 植物をいじるのは嫌いじゃ無かったが、義務有りきなのに反発を感じていたらしい。大学の話の方が先だろう?!なんてね。


 部屋に引き取ろうかとしていた矢先、父が、アレンの叔父貴と一緒に帰って来た。

 彼等は今とても忙しくて、帰宅そのものが珍しい事だったから、俺は小躍りして喜んでいた。

 しかも、明日は日曜で、俺も叔父貴も、休みのはずだった。


 久しぶりに、何に付き合わせようかな?!相談したいことも有るし、ドライブにも行きたい。


 少々興奮しすぎた。

 食堂に行って何か呑んでこよう。


 食堂に置いてある冷蔵庫からスパークリングを取り出して、半分ほど飲んで部屋へ戻りかけた。

 角を曲がって、出た廊下の向こうを叔父貴が歩いて行くのを見かけた。


 明日の事で強請っておこうと、声を掛けようとして留まった。


 そこに居たのは、俺の見たことも無い叔父貴だった。ちらと掠めた横顔は何だろう?!唯ならぬものが有って、俺を怖じ気づかせた。

 

 第一、叔父貴の向かう先には父の部屋がある。こんな夜中に仕事の話でもするのかなと、つい、後を付けた。


 やはり叔父貴は、父の部屋の前で立ち止まり、ノックしようと右手を上げた。


 と、ドアが開いた。


 「あれ?!待っててくれたんですか?!」


 言いながら、ドアに添えられていた、父のだろう指先が見えていたのを、ぐいっと引いた。


 曳かれて父の躰が傾いで、叔父貴の方に倒れかかったのをその手に抱いて…


 …キス…した!?!?!?!?!!!!!。


 え?!…。ええええええ~っ?!?!?!?!


 閉じて行くドアの隙間に、叔父貴の肩に手をかけるのが見えた。


 あの2人って…何時からあんな…


 だって…。男同士…そう思った途端、理由の分からない感情に支配されて、頭が真っ白になっていた。


 叔父貴…と…?!叔父貴を?!

 どんな顔して、叔父貴と…!!!

 …それまでに持っていた父への不信が、その時は気づか無かった、嫉妬となって詰らせていた。


 何時からあんな…と、思うと涙が溢れて止まらなかった。部屋に逃げ帰り、朝までまんじりとも出来無かった。


 部屋のドアがノックされて、叔父貴の声が聞いた。


 「クリス?!起きてるか?!」

 「帰ってたんだってな。どうした?!朝食にも出て来ないで?!」


 俺に見られたと、気付いて居ないのだろうか?!


 「具合でも悪いのか?!」


 叔父貴の声は何時もと変わらなかった。


 「俺に、何か言うことが有るんじゃ無いのか?!」


 やっぱり気付いて居たんだ。

 叔父貴とは言え、少し腹を立てて居た。


 収まらないので、文句を言う積もりでドアを開けた。顔を覗かせた俺を見た顔が、昨夜の見た事の無い叔父貴だった。


 俺を見ているようで、その目は俺の向こう側の何かを見ている。驚いたように目を見張り、次いで眩しそうに側められた。


 “親父を思い出して居るんだ”


 直感がそう思わせて、無性に腹が立った。辺り構わず、叔父貴を詰って居た。


 「2人して俺を騙してたんだね?!子供だと思って…酷いよ!…汚い!!」

 「見損なったよ!叔父貴!貴方があんな…汚い!汚いよ!!」

 「誘ったのは貴方じゃ無いよね?!…どんな顔して…貴方を…!!」


 その時叔父貴の手が、半ば錯乱する俺の頬をパシッと音を立てて打った。


 「俺が引き込んだんだ!」

 「!!…」


 ショックに声も出ない。叔父貴が?!

 痛む頬を押さえて呆然とした。


 「取引を…アウルが断れないのを承知で、俺が取り引きを持ち掛けたんだ」

 「…うそっ…」

 「嘘じゃ無い。俺の為に命を絶とうとしたんだ…だから…俺が強引に…」


 嘘や、冗談で、こんな顔は出来ないと、一目で、俺に思わせる程、叔父貴は必死の形相だった。


 「俺はお前くらいの頃から、アウルの事が好きだったから、失うと思ってしまっては他に方法を思い付かなかったんだ」

 「だが、お前にとってはとんでも無い事だろう」

 「母親と俺が…と言うなら未だしも…許してくれとは言わない。だが、アウルを嫌わないでくれると有り難い」


 俺に対して済まなく、思って居るのは判るが、少しも恥じたり、悔いたりと言うことは伺え無かった。


 溜め息を付くしか無かった。


 「父か母かの区別が付きにくいんだけどね…父様を…本当に愛しているんだね…」


 2人共が行為を目的にするとは到底思えなかった。

 どんなに取り繕っても、身近に居て、人か怪物かの区別が付かないはずは無かった。この2人、真面すぎるくらい真面なんだ。


 「…うん。アウルは俺の命だ」


 うわ…臆面も無く断言。

 こっちが恥ずかしい。


 「…判ったよ。で?!その、命は?!まだ寝てるの?!」

 「…昼頃までは、頭が上がら無いと思うな…俺が、暴走してしまって…さ」

 「…!!」


 絶句!!!

 幾ら何でも、ガキの俺に言う事じゃ無いだろう?!時折垣間見るエロティックな読み物を、大人ぶった同級生が、コソコソ話す輪の中で、漏れ聞いた、セックスでイッて、気を失わせる所までイかせるテクニックとやらが有るという話。


 叔父貴の言う、昼過ぎまで起き上がれないと言うのは、そう言う類の事だろう。


 「庁舎で…仕事の事で口論に成ったんだ…誤解が解けて、片は付いたんだが、俺が不安に駆られてね」

 「そうで無ければ、ああいう事には成らなかったんだが…すまんな。クリス」

 「んな、謝られたって…良いよ。見なかった事にする。他には誰か知ってるの?!」

 「…あ、いえ。他には…参ったな。アウルに言われている気に成ってくる。同じ立場でものを言うのがそっくりだな」

 「俺に乗り換える?!」

 「まさか!お前じゃ駄目だ」

 「あっ!!くそ。ばれても知らないからなっ!!」

 「やってみろ。腹は括って有る」


 口の端を少し挙げて、そう言い放つ叔父貴の顔は、頗る色っぽくてそそられた。

 またしても俺の知らない顔だった。


 「なんだ。ケインも知ってたのか」

 「申し訳ない事で御座いますが、初めから存じ上げて居りました」


 ケイン迄…。益々彼等の仲が真実なのだと証明されてしまった。


 「で?!父様には?!」

 「言うな!!」

 「どうか、坊ちゃま!」

 「…判ったよ。…言わない」


 アレンの叔父貴も、執事のケインも、俺の知るうちの男としては特上の部類だった。それぞれ頼もしいナイスガイなんだが…そうかなぁ。


 その男達が、面子も何もほっぽり出して守りにかかる男ってのが俺の父だったりする。

 神経質で、何時もぴりっと空気を張り詰めさせてしまうような…鋭敏と言えば聞こえは良いが…

 彼等から受け取る安心感とは程遠いニュアンス。


 そりゃ、美形と言うなら頗る尽きなのは今更って程なんだけど、人間見た目じゃ無いよなぁ。


 …でも、ま、ベッドの中なら綺麗な方が良いのかなぁ?!


 「…なんだ。言いたい事が有るなら早く言いなさい」


 デスクに着いてる訳じゃ無い。

 食事の後、珍しく居間に居るのだが、寛ぐと言った具合でも無く、色々な情報誌や雑誌、TV番組を、片っ端から目を通して居るのだった。


 この隙の無い父が、どんな風に叔父貴に…あれって…男同士の時はどうやって…考える内に顔が赤くなって来るのが自分でも伺えた。


 「変な奴だな。なに1人で赤くなっている?!」

 「…って!」

 「有りましたよ。これが…何です?!」


 資料を探しに行っていたんだろう、席を立っていた叔父貴が戻ってきて、赤い顔をしてドギマギしている俺に気が付いた。


 「クリスがさ、妙だろう?!」

 「そう言う年頃なんじゃ無いですか?!」

 「…そうかな?!」

 「ええ」


 叔父貴が惚ける。

 はいはい。約束しましたよ。

 仕方なく腰を上げた。


 「おやすみなさい」

 「おやすみ」

 「おやすみ」


 居間と食堂を仕切る、アールヌーボーのステンドグラスを嵌めた扉を閉じかけて、すかし見ると、何やら2人が話しているのが伺えた。


 と、叔父貴が何か言うのに、父が柔らかく笑うのが見えた。物凄いギャップ。


 ふわりと柔らかく、まるで、少女のような…儚げで透き通る…これが本当に俺の知っている父なのかが、疑わしくなる程だった。

 これを見ると、叔父貴が夢中に成るのも判らなく無い気がしてきた。


 俺くらいの頃から、好きだったと叔父貴は言った。父が、自分の為に命を絶とうとしたからと。

 …じゃあ、父様もずっと叔父貴の事を…

 叔父貴の為に命を絶つと言う事は、自分の想いを叔父貴に及ぼさない様にする為。

 存在しない方が良いって思うって事だろう?!

 命懸けってか…

 溜息が出た。


 普通じゃないと…なんのかんの言いながら、俺は父を、父親としてしか見ていなかった。

 それは、父にしてもそうだったんだろうが…俺に見せていた顔の内側に、叔父貴を想う自分を隠していたんだ。


 俺を遺して母が死んで、実は互いを想っての別離だったと知って、尚更の後悔だったが、俺を抱えたままで、次の伴侶を見つけた…ってだけか。


 そう考えりゃ、納得出来ない事も無いか…?!


 じゃあさ、新しい伴侶である叔父貴は、俺の何になるんだ?!


うわ~ますます、普通の家庭が羨ましい。

 お読み頂きありがとう御座いました。

 タイトルが、「蜜月」なもんで、例によって甘甘です。御免なさい。

 でも、息子が大人に成らないと、アウルの最後の枷は外れないので、勘弁して遣って下さいませ。

 これに懲りずに宜しくお願い致します!

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