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蜜月  作者: みすみいく
2/6

久遠

 2人の関係が、長い抑制と諦めの果てだった為に、とんでもない混乱を引き起こしていた。

 どうすればこの事態を収められるのか?!。物凄く甘甘に成ってて、呆れるほどなんですが、今暫くお付き合い下さいませ。

 アレンに抱かれる様になって、じき三月、ここの所の自分のおかしさに辟易としている。

 今日も…私がドイツの出張から帰って3日、アレンがイギリスへ立って3日。


 良い大人が、しのごの言う日数では無い。第1、あと2日すれば戻る。


 どうしてこう…躰の片側が、失われたような…話の中に出てくる比喩としか想って居なかった。こんな焦燥に囚われるとは。


 眠れなくなって2日…。夢に眠りを妨げられて…こんなに脆い自分に戸惑っていた。


 省の仕事を肩代わりしていて、今夜も帰宅は真夜中を過ぎていた。何時もは館へ帰っていたが、彼に浸りたくて、アレンのアパートへやって来ていた。


 地下の専用駐車場に車を入れると、直通のエレベーターでペントハウスに上がる。これも専用の玄関ポーチに着くと、合鍵を出して部屋に入りかけた。


 合鍵。


 他人名義のアパート。


 まるで連想ゲームだ。


 キーワードはミストレス。


 馬鹿をやっている。

 秘密の輪が、1つでも何処かで外れれば総てを失うと言うのに。


 私も…彼も。

 …これは禁句だった。

 …果たして、今もそうか?!。


 エレベーターを降りると、他に部屋の開口は無くて、誰とも出会う事の無い作りに成っている。


 部屋のドアの傍には照明を兼ねたディスプレイが有って、合鍵を手にした私が映っていた。

 何時もは見もしない映り込んだ自分にふと、目が留まった。


 アレンが目にしている私は、大凡この様なのだろう…何時もは気にかかる事の無い容色が意識の上に登って来ると言うのは、危惧を抱いて居るという証だろう。


 危惧とは、彼を惹きつけている容色を保っているか否か。止めた。基準が思い浮かばないのに、比べようも無い。

 キイを抜いて、オークのドアが、オートロックの施錠音をたてて閉じると、意識の上からも、外界と切り離されて、彼に浸る。


 部屋には誰も居ない。

 それどころか、この部屋に彼や私が出入りしている事すら、知って居る者は居ない。


 仮眠を取りに来たんだろうが?!

 本来の目的に立ち戻って、明日、庁舎に出勤するまでに、摂れていない睡眠を摂るために、入浴しようと服を脱ぐ。


 何時もは使用人が始末をするスーツだが、どうでも良くなってソファの背に放り投げた。


 後で私物を抜いて、カーゴに入れておけば、アパートの管理を請け負っている者が回収してクリーニングを済ませて戻る。


 ここにはハウスキーピングの業者も、メイドも一切入れていない。従って発生する家事の一切を、自分達の手で賄わざるを得ない。


 無論、私も彼も、屋敷では一切家事などする立場では無いのだが、継子の常で、自分の身の回りの一切を自分で賄えるように、教育の一環として叩き込まれて育つ。


 昔からの習いで、戦場に置いて、何時如何なる時も、指揮を怠らない環境を維持するためだった。

 こんな状況を想定しては居ないのだろうが、お陰で、ここを維持するのに不自由は無かった。


 下着だけを洗濯機に放り込んで置いて、全裸のままシャワーの雨の中に浸る。濡れた鏡面仕上げの壁面に、濡れそぼった私が映る。


 夢中になっている耳にはどんな忠告も届か無い。

 奪われれば激怒する。

 でないと、又、彼が言い出す。

 貴方は俺に何一つくれない。

 一欠片も心を繰れない…って。


 私の何処がお前のもので無いと?!。


 羊歯の石鹸の香りに包まれ、想うとはなしに手を滑らせていると、飢えた躰が慰めを求めて熱を帯びてしまう。

 こんな事をしても足りるはずも無いのは判っていたが、手を真似て触れてみる。


 息が上がり、もどかしい思いで後悔がたったと想ったその時、バスルームの明かりが消えて、真っ暗に成った。


 停電?!或いはショートした?!。


 停電では無かった、眼下の市街には明かりが有る。

だいいち、バスルームの外に廊下の灯りが透かして認められた。


 誰かがドアに鍵を挿して入り、バスルームの明かりを消した以外に有り得ない。


 暗さに目が慣れてきたと想った矢先、背後から右手を引かれ、肩先を押さえられた。


 「馬鹿!!お前は未だロンドンのはずだろう?!。仕事を放り出してふざけてるんじゃ無い!!」

 「知って居たんですか?!」

 「慌てていたみたいで可愛かったのにな?!」


 不埒な言いぐさ…。


 「何を…んっ…」


 言い終えた時には、唇を塞がれていた。

 待ち焦がれすぎて抗えない。

 泪が零れかけて辛うじて唇を閉じて阻んだ。


 「思いがけず早く仕事が片付いたんです。そうしたら、矢も楯もたまらず…でも、貴方に焦がれて…飢えた躰を癒やしに来たんです」


 「貴方に見せたくなかった…こんな…浅ましい俺を…」


 そう言って、濡れた体を抱き締められた。躰の火照りが静まらず、躍り上がったまま、心臓が早鐘を打つ。


 「アウル、胸が速い!」


 逢わせた胸が、彼に私の鼓動を直に伝えたからだった。


 「あ…うん」

 「良いですか?!今、ベッドに運びますからね!!」

 「アレン?!」

 「いいから大人しくして下さい!!」

 「でも…」

 「言うことを聞く!!1ケ月前心臓で…」


 血相を変えて私を気遣う彼は、早とちりに思い至る気配も無い。仕方が無いので、指を唇にかけて閉じると、そのまま口付けた。

 

 唇を離す事も無いままに、静かに私を横たえると、床と背の間に両手の平を挟むとそのまま…


 歓喜と…充足と…安堵とで、熱い吐息が漏れ続け、強く愛撫されると息が引き攣る。


 どうしてこう…いちど触れあってから、離れている間が殊更に飢餓を煽られて、歯止めが効かなくなっている…


 「…声を…貴方の声を…聞きたい!」


 「…嫌だ!…女みたいな声に…なるっ…」


 アレンにしてもそれは同じであったらしく、触れていない間に、私を奪われる焦燥に脅迫されていたらしい。


 「誰か、他の男になら声を上げて応えられるんですか?!」

 

 届きかけた躰から引かれ、もどかしさに狂いかけ、鳴いて見せろという彼に腹が立つ。


 「…他に…男が居ると言ったら、どうするんだ?!そいつの方が、好きだと言ったら…!!」


 灼熱に押し流されて、声が勝手に裏返り鳴いてしまう。


 「そうして俺に嘘をついて…でも、誰にも触れられていないと、貴方は俺一人のものだと、貴方の躰が言っている」

 「俺一人のものだと…。誰にも渡さない…誰にも!!」


 気が付くとシャワーの雨の中で抱かれていた。暖かい水の粒が、見詰める睫毛に載っては落ち、墜ちては涙のように頬を伝って行く。


 蒼い眼差しを瞼の中に閉じると、唇が捉えにやってくる。


 エピローグの、繰り返し確かめる様な優しい口吻が、心からの安堵を告げていた。



 「…指輪?!」

 こんな恰好で何ですが、と、瞳と同じブルウのガウンのポケットを探ると、赤い天鵞絨の小箱から、プラチナの指輪を出して見せた。


 「誓いを立てた時には間に合わなくて…」


 言いながら私の前に膝をつき、微笑んで見詰めた。


 「左手を」


 躊躇う手を取ると、薬指に細い指輪を差し入れた。何も考える事が出来なくなっていた。


 「人差し指にしていれば、常にしていることも出来るかと想ったんですけど、貴方の心臓を護る為にも薬指にしたくて…受け取ってくれますか?!」


 薬指は愛の宿る場所。そして、心臓を支配する指。永遠のダイヤモンドが、雫になってゆらゆらと揺れている。


 こんな事が現実で有るわけがない。


 揺れているダイヤの粒の後ろに、スライドの金具が入っていて、小さな音を立てて広げると、親指のサイズに変わる。


 「親指は望みが叶う指。俺との永遠を望んで下さい」

 「…気障だな。良いのか?!本気にするぞ」

 「俺も。これは貴方を俺に繋ぎ止める鎖。所有欲の証ですよ?!」

 「では。私も、作らせてお前を贖おう」


 少し驚いた、泣き笑いのような微笑を浮かべると、ポケットからもう一つ指輪を出して、人差し指に付けた。


 「俺のは人差し指に」

 

 アレンの左手を、指輪を付けた手で取ると、人差し指の指輪を外して、輪を押すと、小さな音がしてサイズが変わった。


 その指輪を、アレンの左手の薬指に差し入れて口付けた。私の手をそのままに、入れ替えて、唇が私の指輪に押し当てられた。


 「これを付けていてくれると思ったら、少しは安心できる。でないと、気が狂いそうで…」


 握る手に籠められた彼の想いが、私の危惧と同じだったのを知った。


 「私も」


 握られた手をそのままに引き寄せて、口付けた。


 指輪が繋ぐ互いの想いを永久に。

 お読み頂き有難う御座いました。

 もう、くっついちゃったらこうなるよね。ってな事に成っちゃってます。

 後、2、3編見たくないって方は御免なさい。

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