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蜜月  作者: みすみいく
1/6

露顕

 アウルの兄現国王マルグレーヴは、彼等を迎えて、意外な依頼を切り出す。

 兄は彼等の関係をどの様に、捉えているのか…。

 運命の審議会を終えて、どんなにか心配しているだろう、兄と、暫くは食事も喉を通らなかったそうな兄嫁に、詫びを言うためにその日、王宮を訪れた。


 私達の無事と、審議会の成功を喜んで、温かい食卓を整えて迎えてくれた兄夫婦だったが、如何せんアレンとの経緯が有った昨日の今日で、何処かに気恥ずかしさが覗いて居たとでも言うのだろうか?!


 元々物静かで、思慮深く、自分を抑えるのに長けた兄は、私の中の変化を見つけた事を悟らせもせずに、食事の後で、兄嫁が席を外した時を見計らうように口を開いた。


 「今日は積年の念願を果たした後で、貴方が晴れ晴れとしているのは解って居たのだけれど、そんなに美しく成ったのはまた別の理由が有るようだね?!」

 

 にっこりと微笑を乗せて、言われてしまった。

 

 「私が?!…心配を掛けてばかりで、叱られても仕方が無いとは…しかし、陛下に…」


 しどろもどろで何を言っているのか解らなくなってきた。言い募る内に、兄の意図がアレンとの事に及んでいるような気がして、無意識の内に顔に赤みが射して来るのを感じずには居られなかった。


 どぎまぎしているのを、にこりと微笑を乗せた顔で見詰められて、余計に居たたまれ無くなってきた。

 私が慌てて居るのを面白そうにクスリと笑うと、同席していたアレンに向き直った。


 「アレン。貴方に折り入ってお願いしたい事が有る。いや、公務のことでは無くて、私個人的な事で」


 「何でしょう?!私に出来ます事ならば」


 私的な事で、折り入ってと有れば…と、早々にこの場を逃げ出す算段をした。


 「では、私はこれで…」

 「アウル」


 子供を叱る口調で、私を留めた兄は、アレンに視線を戻した。


 「貴方で無ければ出来ない事です。それも、生涯を掛けてかかって頂かなければ成らない、なかなかに困難な事なのです」

 「だが、貴方はもう、その事に進んで手を染められた様だ」


 はっとして、アレンが顔を上げ、信じられない言葉を聞いて息を呑んだ。


 私とて、彼同様、兄の口からそんな言葉を聞こうとは思っても見なかった。

 

 やや有って、アレンが口を開いた。


 「私も陛下の臣下で有れば、或いは反逆のお叱りを頂く覚悟で居りました」

 「どの様に想いましても、私には弟君が必要でした」

 「ですが、これは、私1人の罪にて。弟君には与り知られぬ事です」

 「どうか、お咎め有るならば、私のみにて承りとう御座います」


 余りの事に、呆然とした。

 審議会で争われた事が、今またここで繰り返されるのか?!


 顔色を失った私を見て、兄が噴き出した。


 「お前でもそんな顔をする事が有るんだね?!悪かったよ。持って回った言い方をして」

 「私はね。もうずっと前から、お前がアレンを想っていたのを知っていたんだよ」


 驚く事にも慣れてしまって、何だか肩の力が抜けたようになった。

 チラリとアレンを覗き見ると、驚きはしているものの、以外にも、彼には予測の範疇だったのか、大丈夫と言うように私に頷いて見せた。


 「アレン。貴方にお願いする。私の大切な弟を、生涯護ってやって欲しいのだ」

 「これは、私が、躰が弱かった為に、何一つ弱音を吐く事も許されず、これまで生きてこなければ成らなかった」

 「まだ、幼い内からだ。それはどんなにか残酷な事だったろうと、子供を持つ身になった今になって、つくづく思うようになった」

 「そうして、自分の不甲斐なさを振り返るのだ」

 「双子なんだから、私が幼ければお前も幼かったのだ。弟のお前に2人分背負わせて…謝っても取り返せるものではない」


 兄の声音はしみじみと、両親に死別した兄弟が、寄り添ってやっとの事で立っていた当時のことを思い起こさせた。兄は兄なりに居たたまれない気持ちで私を見ていたのだ。


 「は。命に替えましても」


 渾身の応えに、安堵と喜びを載せて、兄の沈鬱な面持ちが、笑顔へと変わった。


 嫁に出される娘でもあるまいに、兄の許しを得て泣いていては話に成るはずが無い。

 全体、明日からどんな顔で過ごせば良いと言うのだ?!。


 突然、全く別の危惧が私を捕らえた。

 余りに都合良く、展開を遂げるこの空間は、果たして、現実だろうか?!


 身勝手な空想か、夢が見せる甘美か。

 受け入れた途端に、醒めて終うのでは無いだろうか?!。


 「…貴方が泣き出したので、陛下は席を外されました」


 捉えられて、躰を押し離そうと藻掻く耳元で、アレンが優しく囁いた。

 涙で濡れた顔を上げねば良いのに、思わず振り仰ぎ、降りてきた両手に手挟まれ、見詰められると、羞恥が先に立って役に立たない事は判っているのに目を閉じてしまう。


 唇が重ねられ、宥めるように優しく愛撫する。目を閉じたまま、唇に彼を感じていながらも、涙が溢れて止まらない。


 「離せ。涙が止まらない」

 「泣いて良いんですよ。我慢しなくて良い。兄上が仰せだったでしょう?!貴方を護れと」


 胸の中に抱き込み、暖かい腕で包み込むように抱かれた。親に抱かれた事の記憶が私には無くて、こんな風に何の意図も無く、私を癒やすためだけに心を砕いて貰った記憶も無い。


 感じていないと思い込んで居たのだと言うことが、堰を切ったように零れる涙で知れた。


 喉を詰まらせて、尚も静まる事の無い嗚咽に、背に回されたアレンの手が、まさに泣く子を宥める様に穏やかなリズムを刻んでとんとんと叩く。

 お読み頂き有難う御座いました。

 今度のシリーズを書けば、次の、新たなキャラクターを書けると、楽しみにしています。

 これからも宜しくお願い致します!

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