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屋台転生 〜その料理人最強につき〜  作者: 楽
第二章 城塞都市 ヴェルスタッド
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第39話 旧密林はカメラワークがね…。

「なぁ、お目当てのもんはホンマにここにあるん?」



 ムワッとした熱気と絡みつく湿気に辟易するようにイナリが声を上げる。



 俺たちがいるのはダンジョンの第十階層

 ここヴェルスタッドのダンジョンの最深部に当たる場所だ。


 第十階層は上層と異なり自然溢れる森…

 いや、森というより密林に近い。


「ハルさんも有ると仰られてましたからあるはず…ですが。」


 元気印のキリエもといセイラですら若干疲労の色が見える。


 無理もない、探索し始めて1日が経とうとしているし、この階層は今までの階層と違って実に()()()()()


 視界を妨げる鬱蒼と生い茂った草木

 そしてそれに隠れた魔物たちの襲撃

 更にダンジョンの中なのに突然降り注ぐスコール

 濡れた足元はぬかるみ普段通りの動きをさせて貰えない。


 考えうる限りの劣悪な環境なのだが、このダンジョンはそれだけでは収まらない。


「そうだな、探すにもこの広さは想定外だったな。」


 広さが尋常じゃなく広い。

 上の階層3階層分ぐらいの広さだ。


「多分まだ全体の3分の1ぐらいしか調べられてへんで」

「まずいな…このままだと時間が無いな…。」


 北方部族の大攻勢まで残り2日

 何故そんなときにダンジョンに潜っているのか

 それは数時間前に遡る。



 ―――――――



「―――以上の事を理由に北方部族との停戦を進言します!」


 俺は北方部族の持つ技術・文化がどれほど価値が有るものかを集まった面々に説いていた。

 今後彼等が生み出すであろう利益と与える影響の大きさ、友好関係を築いた場合のメリットを考えられるだけ熱意を込めてプレゼンをした。


 しかし…



「…残念だが無理な相談だのう。」



 この街のトップであるゼオン城塞伯の決断は無慈悲なものだった。


「何故ですかっ!?」

「今更話し合いで片付く状況ではなかろうて。それにもし和解が出来たとして奴等から得られるモノが儂らにとって有用とは思えん。」

「ですがっ…!」

「お主の熱意は解った、今後お主が食文化を変えようとしている覚悟も解った、だが今のままでは無理なのだ。」


 とりつく島もない。

 確かに今俺が話した畜産の技術は短期間で利益を生み出せるモノではないし、食料事情の面で潤っているこの街にとっては然程大きなメリットではない。


「だが、もし他に策が浮かべば城まで来ると良い。儂とて血でこの地を濡らす事は本望ではないのでな。」


 この戦争は只の殺し合い、俺達が勝っても得られるものは無い。

 であれば避けたい戦争であることは統治者の本音だろう。


「…わかりました。」

「お主には期待しておるぞ、マグナスの息子よ。」


 そう言い残しゼオンは城へ戻っていった。


 ゼオンが帰宅したのを皮切りに、他の面々もそれぞれの感想を述べつつ帰っていった。




「他の策…か…。」




 人々を見送った後、リビングで思考を巡らせていると人影が現れた。


「そやさかい言うたやん、すぐに解決できるんやったら誰も苦労しいひんって。」


 俺の話に乗るといったイナリも呆れ顔だ。

 彼女としても故郷の民が血を流さず、より良い生活が出来るのであればと期待はして貰えたのだが、城塞伯のリアクションを見て気持ちが萎えてしまっているようだ。


「だけど…だからといって諦めていい物じゃないだろう?」

「そないにうちん故郷の事で熱なってくれるのんは嬉しいけどこれが現実なんよ。」

「そうじゃのう、珍しくお主が熱くなっているところ悪いのじゃが、今回ばかりは難しい話じゃと思うぞ。」


 話を後ろで聞いていたハルが口をはさんでくる。

 今回ばかりはあのハルですら難色を示さざるを得ない状況というわけだ。


「お主の言うことに魅力が無いわけではないのじゃがな、受け入れられるまでの時間を考えるとそれはまた困難な道のりじゃろうて。」


 解っている。

 この世界の人間が「魔獣の乳」を口に入れる事に抵抗があることは前々から知っている。

 だが、この文化の普遍化は新たな産業を生み出し、人生を豊かにする大きな一歩なのだ。


 俺の夢のためにも諦められない。


「なら…それ以上の利益を見つけ出せば良いんだな?」

「お主…本当に飯が絡むと頑固になるのぅ…。」


 それだけ大事なんだよこの局面は。




 しかしどうする、手詰まりの状況だ。

 イナリに各部族毎に有する特徴や芸術品がないかもう一回洗いざらい聞くか?


 いや、美術品などの嗜好品も価値が認められなければ二束三文だし、量産品となると価値が下がりやすい。

 しかもモノを見てないから、あったとしても俺も値段がつけられない。


 このセンもダメだな。


 何か…何かないか…。

 誰もが欲しがるようなモノが…。





「あのぅ…」




 頭を抱える俺に対して申し訳なさそうに手が上がった。

 声の主はセイラだ。


「どうしたの、セイラさん?」

「今の話って北方部族の人達が私達と交易が出来るようになればいいんですよね?」

「まぁ、そういうことだね。」


 俺がそう答えるとセイラは腕組みをしてしばらく黙った後、口を開いた。


「一つ、アイディアがあるんですけど聞いてもらえませんか?」


 その後、セイラの口から語られた策は想定外の奇策だった。



 ーーーーーー



「まさか聖女さんがあないなこと言いはるとは思わんかったわぁ。」

「元聖女です!それにアレが教皇の手に渡るよりマシだと思ったんです。」


 セイラが考えた策は


『堕落の種を北方部族に託す』


 という突飛な案だった。


「確かにその堕落の種言うんが話通りのモンならウチらとしては願ったり叶ったりやねぇ。」


 堕落の種とはセイラがこのダンジョンに来る事になったキッカケのブツだ。

 てっきり教皇の出まかせかと思っていたが、実在する物らしい。


 城塞都市に保管されている書籍を漁ったところ、堕落の種は育つ土地を選ばず、強い繁殖力を持つ植物だと書物には記されていた。


 しかも堕落の種が育つと、それは甘美な香りと味を持つ野菜になるというのだ。

 そしてその味に魅了され堕落してしまう者が続出した事が名前の所以になったという。


 それほどの物が何故世に出回っていないのか、だが

 ハル曰く、入手難易度の高さが理由らしい。


 堕落の種を持っているのはこのダンジョンの主。

 植物系の魔物で、無限に再生し続ける体と植物を使役する能力を使う強力な魔物だという事は分っている。

 そして強い魔物でありながら普段は身を隠しており、滅多に出会うことが出来ないというのだ。


 出会うことが難しく、出会ったとしても並みの冒険者では返り討ちに会う。

 そんな魔物ゆえに堕落の種が最後に世に出回ったのは150年ほど前だという。


 因みに150年前に出回った堕落の種は戦乱の中で消え去ってしまったらしい。



「しかしレオンさんでも探知出来ない魔物って、いったい何処にいるんですかね。」


 こうしてダンジョンに潜ってアルラウネを探すべく第十階層を探索しているのだが全く箸にも棒にも掛からない。


「大きな魔力は感じるんだけど、反応が散っている…といえばいいのかな、ピントが合わない感じなんだ。」


 こんな事は初めてだ、本当ならハルのサポートが欲しいがハルは大攻勢の準備で城を離れられない。


 今いるこのメンバーだけでどうにかしなくては。




「うーん…。ダメだな気持ちが焦って思考がまとまらない。小休止にしよう。」

「賛成です、お腹が空きました…。」

「ウチも流石にへばったわぁ…。」


 屋台を展開して2人に加護水と軽食を振る舞う。


「っはー!生き返るわぁ。」

「暑い中こんなに冷えたお水が飲めるのは本当に贅沢ですよね。」


 本当暑いし気が滅入るよなこのダンジョン。

 それに時間も限られているから尚更ストレスが溜まる。


「あー、レオンはん。ウチにこのサンドイッチは重すぎるわぁ、暑くて食欲でぇへんのよ。」


 そうか、イナリは寒い地方の出身だから尚更この暑さは応えるだろうな。

 それなら試作品だがアレを出してやろう。


「すまんすまん、ならコレなら食べられるか?」


 そう言って俺は白い塊が乗った皿をイナリに差し出した。


「…なんやのこれ?」

「これはな、【豆腐】って言ってビンズで作った食べ物さ。」



 そう、豆腐だ。



 前にダンジョンに潜った時に手に入れたエクトプラズムが()()()の味にソックリだったので使ってみたら予想以上にいい仕上がりの豆腐が出来上がったのだ。


「はぇー、初めて見る食べ物ですね。」

「ホンマにね、ウチの事騙してるんと違うよね?」


 未知の食事に対し好奇心旺盛なセイラと混乱を隠しきれないイナリ。

 イナリは警戒しているせいか耳や尻尾がピンと立っている。


「まさか。なんなら俺が食って見せようか?」

「まぁ…ええけど、食べてみるわ」


 訝しげな視線をこちらに向けつつイナリが豆腐を頬張る。




 …。




「どう?」




「…ほんに優しいお味やわぁ。」




 表情から察するに気に入ってもらえたようだ。


 残念ながら醤油やポン酢がないので塩モレンでさっぱりとした味付けにしておいたのが功を奏したかな。



「外見も雪が積もった草原みたいで綺麗やわぁ。」

「はは、随分風流なこと言うんだな。」



 豆腐を見慣れてたからそんな感想出てこなかったな。


 確かに白一色で真っさらな雪原みたいではあるか…。





 真っさら…。





「…そうだ!!!」



 閃いた!

 この状況を打開出来る策を。


「どしたん突然?!」

「そうですよ、どうしたんですか!?」


 俺が突然大声を上げたから女性陣がビックリしている。



「二人とも聞いてくれ、この状況を打開する方法を思いついたぞ。」

「本当ですか!?」

「もったいつけんと早く教えてぇな。」


 多分この方法が一番手っ取り早いが危険だ。

 二人の協力が不可欠になる。




「あぁ、食いながら聞いてくれ―――」




 早速俺は思いついた方法を二人に共有した。

お読み頂き有難うございました。

ストーリーの展開にちょっと詰まって執筆が遅くなりました。

そして書き溜めが底つきました…ヤバい!頑張って書きます。


本編ではシレっと豆腐が出ました。

豆腐が史実で登場したのは965年頃で意外と歴史が有るような浅いような…。

こういう加工食品あるあるですが何故「にがり」を入れたんだ?

という疑問が有るんですよね、実に不思議。


近いうちにじっくり料理回を書きたいものです。

次回もお楽しみに!

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