第1話 レオン=リズベルグ
評価、ブクマ有難うございます!頂けるだけで「書くぞー!」って気分になります。
作品の方ですが幼児時代は駆け抜ける形で早く屋台を引く展開に移りたいと思っています…!
少し過去の回想が続きますがお付き合いください。
「それでは行ってまいります。」
異世界に転生して15年が経った。
この世界【オルタミナ】では15歳で成人となり、それ以降は社会の一員として認められる事となる。
普通ならば家を継いだり、騎士団に入団したりと色々な進路を辿るのだが俺は勿論相棒の屋台と共に旅に出る事にした。
「あぁレオン…行ってしまうのですね…。お財布は待ちましたか?他に着替えは持ったかしら?えぇっと、それに他の街に着いたら文をよこすのですよ。それにそれに…」
矢継ぎ早にあれこれと言ってくる世話焼きな女性はこの世界での俺の母、ネメアだ。
おっとりとしていながら芯の強い包容力のある女性で第四子である俺にも愛情を注いで育ててくれた、ありがたい事だ。
因みにレオンはこの世界での俺の名前だ。
「落ち着きなさいネメア、レオンは我が一族の中でも随一の腕利き、そう心配するでないよ。」
そしてネメアを嗜める初老の男性はマグナス、俺の父親だ。
がっちりとした身体つきと甲冑姿から解るように騎士をしており、騎士団の団長を務めている。
騎士としては珍しく柔軟な考えの持ち主でおれが屋台料理人になりたい、と告げた時も快く了承してくれた。
そんな二人の元に生まれ落ちた事は感謝しかない、そうしてくれた神々にも感謝だな。
「そう、ですねアナタ。ですが母親というものは子供のことがどうしても心配になるものなのです。」
それも仕方がないだろう。特に我が家ではそうならざるを得なかった、とも言える。
上の兄や姉達は根っからの武闘派で騎士団、魔術ギルド、傭兵団と各々別の組織に所属してはいるが届く知らせといえば戦争で首級をあげたとか魔術で城壁を吹っ飛ばしたとか、そういう話ばかりだから母としては気が気でなかっただろう。
「大丈夫ですよ母上、冒険者ギルドに登録する予定ですからそちらから生存報告を出しますよ。」
「必ずですよ、レオンは何かに没頭し始めると周りが見えないから心配です…。」
うっ耳が痛いな、、、これまでの所業をあげられると反論できない。
しかしそんな母を諭すように父が呼び掛ける。
「さぁ、ネメアそろそろ時間だ…。」
はい、と消え入りそうな声で呟いたあとネメアはそっと俺を抱きしめた。
「いつでも帰ってらっしゃい、ここは貴方の家なのだから。」
柔らかくそれでいて懐かしい感覚に抱かれ、初めてこの胸に抱かれた記憶が蘇る。
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「見ろネメア!元気な男の子だぞ!」
神々との邂逅の直後、俺の頭に響いてきたのは歓喜に満ちた声色を含んだ男の声だった。
突然の変化に驚き閉じた瞼を開けると明るさに目が追い付かず視界がぼやける
(うぉっ眩しっ)
思わず驚くと意図せず俺の身体は大きな泣き声を上げ始めてしまった。
思っていることとやっていることが乖離しているような不思議な感覚だ。
「アナタが大声を出すから驚いてしまったではないですか、よしよし…。」
何か柔らかいものに抱かれる感覚がしたかと思えば慈愛に満ちた声が頭上から響き、ここで俺はようやく理解した。
(俺は赤子として転生したのか。)
視点が普段とは大きく異なるうえに上手く体が動かせないことからそう悟った。
(そしてこの二人が俺の両親…という訳か)
俺の顔を覗き込み互いに笑顔を見せる2人は見るからに仲睦まじい鴛鴦夫婦といった感じだ、どんな家に生まれ落ちるか不安だったが大丈夫そうだ。
その後蝶よ花よと愛でられるうちに段々と体を少し動かせるようになり俺はある事に気づいた。
(ん?何だこれ?)
生まれ落ちる時からきつく結んでいた手を解くと手から何かが転がり落ちた。
「…あら?何かしらこれ?ちょっとアナタ。」
「ん、どうした?」
「何かこの子が握っていた物なのですが…」
「どれどれ… ?」
父親の指先には獅子の目のような模様をした宝玉が握られていた。
あんな物俺持ってたかな?心当たりないんだけど。
「こ、これは…!?」
俺が記憶をたどっている最中父親が大声を上げた。
「ネメア、これは大変な事が起きてしまったかもしれない。」
「どうしたのですかアナタ?!」
「これは恐らく…神器の核だ。」
「じ、神器というとあの!?」
「あぁ…!リズベルグ一族はじまって依頼の出来事だ、でかしたぞネメア!」
神器って何だ?と思ったら脳内に答えが湧いて出た。
これは爺さん達が授けてくれた予備知識の一環みたいだな。
それによると神器とは神より授けられし武器、道具を意味するらしい、物によっては大地を切り裂く剣だとか隕石を降らせる魔法の杖など様々な効果が有るらしく、歴史上神器を手に入れたものは偉人、英雄として語り継がれる事が常だそうだ。
なお、神器持ちは100万人に一人程度の確率でしか生まれないため、各国は神器持ちの確保に血眼になっているらしい。
(なんてこった、どえらいもんを寄越してくれたな爺さん)
ただの屋台料理人ライフを生きたい俺に神器なんてどうかしてるぜ。
下手したら国に管理されたりするんじゃないかと憂鬱になる俺をよそに両親は盛り上がっている。
「そうだわアナタ、この子に相応しい名をお授け下さい。英雄になるかもしれぬ我が子の名を。」
「そうだな、この宝玉の輝きといい獅子の如き髪の色…レオ…。レオンはどうだ?」
「レオン…良い響きですわ、これから宜しくね、レオン。」
爺さんに対する不満を募らせていた俺だがそう笑顔で語りかける母の顔を見ると、そんなことはどうでもよくなってしまった。
(まぁ、いい人達そうだしなんとかなるか。)
こうして俺の新しい【レオン=リズベルグ】としての人生が始まった。
とは言ってもまだ赤子なので体を動かすこともままならない。
動けたとしてもいきなり赤子が歩き出したら偉い騒ぎになるだろうからおとなしくしておく。
なので俺は頭の中にインプットされたこの世界の情報と両親や身の回りの人間から聞こえてくる話の内容を照合することに徹した。
するとまず判明したのは俺が生まれたこの土地がケルノンと呼ばれていることだった。
事前知識と照らし合わせると…あった。
ヴィノ王国と呼ばれる国の内陸に位置する穀倉地帯の街だ、田舎町でありながら比較的治安も良いらしい、名産品は…ギムという麦のような穀物のようだな、どんな穀物なのか早速気になる所だ。
他にも続々と情報が仕入れられたが大きなものは【魔法】と【魔物】に関する情報だろう。
それらしい事を爺さん達が言っていたが、この世界には魔法がある。
どうやらこの世界の生物は体内に魔力というものを有しているらしく、その魔力を使って超常現象を引き起こせるのが魔法、という事だ。
ただ魔法を使うのにも人によって適正があるうえに、魔法が使われるのは専ら戦いの場が多いらしく、生活面で魔法が使われる事はあまり無いらしい。
そしてもう一つの魔物だが、これが爺さんの言っていた地球とは異なる生態系というヤツだ。
人間とは全く異なるルーツで進化してきた生物で、体内に魔力を多く蓄えていることが特徴で俺の知っている動物とは一線を画す力を有しているらしい。
人を襲う魔物も少なくなく、恐怖、畏怖の対象になるらしいが、魔力を多分に含んでいる関係か何種類かの魔物の肉は美味とされ食用目的で狩猟されることもあるというのだ。
(滾るな…!)
思わず拳に力が入る。
この世界で魔物を狩って、魔物から取れた食材で料理を作る、なんともワクワクする話じゃないか!
前の世界では罠や銃、時には鉈で食材を集めちゃいたが今回の獲物達は一筋縄では行かなそうだ。
だがそれ故に胸が高鳴る!
(魔物を狩る為にも強くならなきゃな。)
強くなるという事を意識した時にふと神々との会話を思い出した。
(そういや俺、確か加護とかを貰ってたよな)
加護を貰うと神様の力が借りれるとかだったはずだが、彼らの力はどんなもんなんだろうな?
そう思い各々の神の名前を思い出しつつ脳内で検索をかけた。
その結果、目に飛び込んできたのは驚くべき事実だった。
■魔術神 メリュス
オルタミナに魔術をもたらした一柱、ありとあらゆる魔術の祖であり魔術と知恵を司る女神。
根源に至らんとする魔術師達の守り神でもあり、研鑽を怠る者には神罰を下すこともある。
創世神話において創造神に手を貸しオルタミナを創り出した神々の一柱。
■水貴神 ミーミス
オルスとメリュスの子、この世界における水と美を司る女神。
海や川に遍く生命の母であり、彼女なくしてオルタミナの生命の循環はなしえない。
非常に気まぐれな性格をしており、時には国一つを洗い流す天災を引き起こす。
■火焔神 ガリノス
オルスとメリュスの子、この世界における火と戦いを司る男神。
人に火を授ける代わりに戦いを供物として求めた猛々しき神。
戦士や火を扱う鍛冶士に信仰されることが多い。
えぇ…。
だいぶウチのお客さんたちやんちゃしてるじゃん。
寧ろこの神様たちのせいで料理とか食文化発展してないんじゃないかな…。
これだけでもだいぶヤバい神様達から加護を授かったことが分かるのだが、次がいけなかった。
■創造神 オルス
メリュスと共にこの世界を創造した最高神。全ての神々の父であり創造と成長を司る男神。
オルタミナ全体で信仰されており唯一神として崇める宗教も存在する。
なお、メリュス以外にも妻がおり多くの子を成している。
ブフゥゥー!
「大丈夫レオンちゃん!?」
思わず飲んでいた母乳を盛大に吹き出した。
あの爺さん最高神かよ!?
それでいながら奥さんにボコボコにされるだけじゃなく多妻で子供もたくさんいるのに飲み歩いてたとかとんだダメ神じゃねーか!
(こんな神様たちの加護貰って大丈夫なんだろうか俺…。)
一抹の不安は残るものの、母に勧められるまま俺は母乳を飲むことにした。