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屋台転生 〜その料理人最強につき〜  作者: 楽
第二章 城塞都市 ヴェルスタッド
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第19話 城塞伯の焦り

※今回説明パートに近いです+別視点です


「魔術師殿はまだ見つからんのか!」


 苛立った怒声が城内に響き渡る。

 ここは城塞都市の中心にある都市と同じ名を冠する城、ヴェルスタッド城。


 今その謁見の間で衛兵達からの報告が寄せられるが状況は芳しくない。


「ははっ!それがまだ痕跡すら…!」


 目の前で頭を垂れる衛兵達は皆一様に同じ言葉を繰り返す。


「えぇいこの役立たずが!」


 心の内の怒りと焦りばかりが募る。

 そんな儂の怒りを鎮めようと傍に控えていた騎士団長達のうち1人が前に進み出てこう言った。


「ゼオン様、あの不敬者は我が鉄鎖騎士団が見つけ出し必ずや御前に差し出してご覧に入れます!」


 俄かに周りの騎士団長達が我こそはと騒ぎ始めた。


(ダメだな、此奴ら何もわかっておらん。)


 やっとの思いで招致した魔術師ハルヴェニー=リースリング。

 彼女を呼ぶ事の価値を理解していたのは戦術顧問のマグナスぐらいだろうか。


(視野の広い臣下を育てる事の何と難しきことよ。)


「もうよい、行け。手荒な真似をして魔術師殿の機嫌を損ねるでないぞ。でなければこの街一つ消し飛ぶかもしれぬ。」

「「「「「ははっ!」」」」」


 ガチャガチャと鎧を鳴らして騎士団長が立ち去るのを見届けつつどっかりと玉座に腰掛けた。


「何故こうも目先の事にばかり目がいく者が多いのかのう。」


 静寂で満たされた謁見の間に独り言が霧散する。


「だがそういった輩がいるお陰で得られた出会いもあるというものかの。」



 ーーーあれは確か4年程前の話だ。


 四神教の聖地となったケルノンの治安統括に貴族達が倅を着任させたいと政治抗争があったのは記憶に新しい。


 ケルノンは周囲にそれほど強力な魔物もおらず、治安も良い。だがそれでいて今後経済規模的にも成長していく可能性が高い街だ。


 そんな都市の防衛を統括する騎士団長を務めたとなれば箔がつく、と考えるのは至極当然。


 その為に王都の貴族どもが我が子可愛さにこぞってケルノンの騎士団長のすげ替えを要求したと聞いた時は嘲笑しか出なかった。



 貴族どもの耳には都市が今後生み出す名声と利益しか目に入って居ないだろうが、本質はそこではない。


 急激に成長する街こそ治安が乱れやすく、利権などが絡み問題は絶えず発生していくだろう。

 そして何より治安が良いのはその時に街を統括していた人間が優秀であるからだ。


 街というものはある種の生き物で親が子を育てるよりも難しい事なのだが、どうもそういう事が貴族どもには解らんらしい。


 本来であれば笑い飛ばして終わる話だったが、一点だけ気掛かりな報告があったのだ。


 神が降臨した話で掠れてはいるものの、あの街は神が降臨する直前に変異種の襲撃を凌いでいる。



 1人の犠牲も出さずに、だ。



 この情報を聞いた時には耳を疑った。


 変異種は天災のようなものでいつどこで生まれるか予測できず、出会えば一定の被害は免れない存在だ。


 ましてや情報を探ればその変異種はバーサークホーンだったという。

 儂の記憶が正しければ金級の冒険者数人でかかってようやっと、という魔物のはずだ。


 それを怪我人こそ出たようだが死者を出さずに騎士団を統率し、ましてや一人で倒したというマグナスという男。



(欲しいっ…!)



 我が都市ヴェルスタッドは北方部族との抗争が絶えず続く国境の都市。


 忌々しいことに奴等は魔物を使役する術を身に付けており、奴等の駆る魔獣騎兵によって痛手を被る機会が少なからずある。


 奴等と闘う上では集団戦闘、対魔物戦闘に精通した人材が必要、だがそう都合よく双方身に付けた人間は居ないと思っていた矢先の話だった。


 すぐさま儂は王都へ使いを飛ばし、マグナスをヴェルスタッドで預かりたい旨を国王へ直訴した。


 国王も本来の仕事そっちのけで策謀を巡らせる臣下達に辟易していたのか直ぐに王命が伝達される事となった。


 こうして儂は有能な男とそれに付き従う優秀な騎士団を迎え入れることが出来た。


  古株の騎士達は面白くなかっただろうが、結果としてマグナスによる集団戦闘、対魔物訓練に加え兵站に関する知識の深さによって北方部族との戦闘による被害は大幅に軽減されてきたのだ。


 未だに騎士団同士のつまらん意地の張り合いは有るが確実に練度は上がってきている。


 そう安心してきた頃にマグナスから肝を冷やす提言を受けた。



「昨今の北方部族の動きから察するに奴等は部族間の連携を始めております。近いうちに大攻勢に打って出る可能性があるやもしれませぬ。」


 彼が提言したのは、この城塞都市始まって以来あり得なかった事態。


「ありえん!」


 当然の如く他の騎士が声を張り上げたが、その予測を裏付ける事実はいくつかあった。


「ここ最近の奴等の装備や編成は各部族の優れた部分を織り交ぜた物に変わりつつあります。」


 そう言われると他の騎士達も心当たりがあったようで息を飲んだ。


「加えてこれをご覧下さい。」


 そう言ってマグナスが差し出してきた紙には数字が並んでいた。


「何だこれは?」

「各年の簒奪を受けた被害額を纏めたものです。」

「順調に減っているな、ここに何の問題が?」


 順調にここ2年の被害額は減ってきているな。

 特に食糧系の被害は抑えられている…ん?


 食糧だと?


「北方部族の生活は作物が育ちにくい土地柄、食糧は他者から奪う簒奪行為によって賄われています。」

「その為に我らが命を張って奴らを撃退しているのだろう。」

「そうです、我等の防衛が成功しているため彼等は食糧危機に陥りつつある。」


 そうか、そういうことか。


「今彼らは食料危機に直面しつつある、その為に部族のプライドや確執を棄てて我等に立ち向かおうとしていたとしても過言ではありません。」


 マグナスの発言に場がざわつく。

 中には蛮族達など恐るるに足らず!といきり立つ騎士も居たが事態は深刻だ。


「それでお主はどうせよと言うのだ?」


 儂の問いかけに対するマグナスの回答はーーー



「魔術兵団を作れ、とはのう。」


 魔術兵団は王都や魔術都市には存在するが、中々実現させにくいものなのだ。

 どうしても魔術の才能に特化した人材を集める事が難しい事に加え、魔術師は変わり者が多く協調性に欠ける事が多い。


 だが訓練された魔術兵団は戦争等の場面においては盤面をひっくり返すほどの戦闘力を持つ。

 加えてやり様によっては索敵、内通者のあぶり出しにも使えるので有事でない時にでも腐らない兵科なのだ。



 今回ハルヴェニーを呼び寄せたのはその一環。

 神銀級の魔術師でありながら白金級の冒険者でもある彼女を顧問として魔術兵団創設のお触れを出せば、志望者が集まると踏んでのことだったのだが…。


「まさか機嫌を損ねて出ていかれてしまうとは…。」


 聞けば臣下の騎士団長が侮辱とも取れる発言をハルヴェニー殿に浴びせたとか。

 強者に対する礼儀も弁えられぬとは主として恥ずべきばかりだ。


 いち早く見つけ出して儂から謝罪しなくては、このままどこぞへ旅立たれてしまっては堪ったものではない。


 しかし神銀級の魔術師が本気になれば衛兵から逃げおおせるなど容易い事だろう。

 果たして見つけられるのかどうか…。


「失礼いたします!」


 玉座で頬杖を付きながら物思いに耽っていると衛兵が駆けてきた。

 もう夜も更けてきておるのに何事よのう、もしや見つかったのか?!


「ハルヴェニー殿が見つかったか!?」

「いえ、残念ながら…。戦術顧問のマグナス殿がゼオン様にお目通り願いたいと。」


 まぁそれほど容易に見つかるなどとは思っておらんわい。

 しかし、はて?


 マグナスは先程屋敷に戻ったのではなかったのかな。

 改めて来るとは何事かのう。



「解った、通せ。」



 願わくば良い知らせであってほしいものだのう。

お読み頂き有難うございました!

評価ポイントが250を超えブクマが80を超えました、本当皆さんありがとうございます!


今回のお話はレオン達一家がヴェルスタッドに来た経緯を書く都合で挟みました。

そして書いていて気付いたのですが…。


ゼオンとハルヴェニーの言葉遣いが被る!

これまたやっちまったなぁ、ですよ。

爺言葉二人とかどっちが喋っているのか解らなくなるので細心の注意を払ってます。


因みにゼオンの配下には騎士団がいくつかくっついているので、騎士団長がたくさん居る。

そういう設定です、ややこしくてすいません。


何とか毎日更新しようと書いているので、ストーリー的におかしいところが出てきたら指摘お願いします…!

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