第18話 爆弾少女
「のぅレオン…お主結構いいところのボンボンじゃったりする?」
空中に漂いながらハルヴェニーは不安そうな声を上げている。
まぁ確かにこの屋敷大きくて圧迫感あるよな。
この街で俺達家族が住んでいる家はケルノンの屋敷に負けず劣らずの広さを誇る俗にいう豪邸だ。
何でこんな所に住んでいるのかというと父さんがこの街の戦術顧問として着任したからに他ならない。
戦術顧問というと騎士団・自警団・傭兵団に集団戦闘の訓練を行い、有事の際には指揮を執る立場なのでかなり地位は高い。
本当は手放しで喜びたいところだが、今回の着任は色々政治的な背景があったので複雑なところだ。
まぁそれを差し引いても俺は適任な人選だと思うんだけどね。
「まぁ、そうなるのかな。なんかマズかった?」
「いやー、人によるんじゃが…どうしたもんかの…。」
?
何やら顔色が悪いな。
人によるってことはなんか会いたくない人が居るのか?
「レオン、お主の家名をき――「おや、おかえりレオン。」
言葉を発しきる前に庭先から声がかけられた。
声のする方へ目を向けると庭で素振りをしていた父さんがいた。
「父上!ただいま戻りました。」
「うむ、先程シーラ殿に会って商会が軌道に乗ったと聞いたぞ、良かったな。」
「はい!有難うございます!」
「して、その後ろの…ん?」
俺と父さんが話しているうちにハルヴェニーは俺の背中に隠れるようにして気配を消している。
え、何?人見知りなの?
「もしや…。」
父さんの方が何か気付いたようだ。
それと同時にビクッとハルヴェニーが震える。
「…ハルヴェニー殿では…ありませんか?」
父さんの口からまさかハルヴェニーの名前が出た。
知り合いなのか?
「父上、ご存じなのですか?」
「あ、あぁ…実際にお会いしたのは今朝なのだが…。」
背中のハルヴェニーがプルプルと震えて小さくなっている。
いったい父さんとの間に何があったんだ…
「あのー…ハルヴェニー殿、私は大丈夫ですので取り合えず家の中へ。」
「ほ、本当じゃろうな…?」
そのあと父さんが某ジ〇リ映画の黒い毛玉のように丸まって怯えるハルヴェニーを落ち着かせるという不思議な光景を目にすることになったが何とかなったらしい。
益々謎は深まるばかりだ…。
「レオン、お前のすることに慣れてきたつもりだったがお前はいつも私の想像の上を行くな。」
ため息交じりに父さんにはそんなことを言われるし、一体何なんだよ…。
とりあえず俺は背中のシミのようにしがみつくハルヴェニーを背負ったまま屋敷に戻った。
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「レオンちゃんがお客さんを連れてきたのはシーラさん以来だわぁ。」
嬉しそうにしながら母さんはハーブティを淹れてくれている。
カモミレという安眠・リラックス効果があるので今ここにいるメンバーにぴったりだ。
「で、父上。いったいハルヴェニーとはどういったご関係で?」
「レ、レオンよ、ハルヴェニー殿を呼び捨てにするのは…」
「良いのじゃマグナス殿、実は先ほどレオンには世話になってのう。」
「さ、左様でしたか。」
なんか父さんが滅茶苦茶緊張している気がするし、殿付けて呼び合ってるとか…。
「ねぇ。ハルヴェニーって実は凄い人だったりする?」
「あー、うむ。別に隠しているつもりはなかったんじゃがの。ホレ。」
そういうとハルヴェニーは羽ドレスの中から一枚の金属板を取り出した。
確かあれは…【ギルドプレート】だったか。
この世界には特定の職種の人たちの集まり、【ギルド】というものがある。
冒険者・傭兵・商人・鍛冶屋等々様々な種類のものがあるのだが、そこの会員であることを示すのがギルドプレートのはずだ。
ギルドプレートは身分証明書みたいなもので、どこのギルドに所属しているかという情報から名前、そして強さや偉さを表す階級が示されている。
階級は鉄→銅→銀→金→白金→神銀という風にランク付けされていたはずだ。
んではどれどれ、えーっと…?
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名前:ハルヴェニー=リースリング
性別:女
年齢:■■■歳
所属ギルド:魔術師・冒険者ギルド
魔術師階級:神銀
冒険者階級:白金
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ん?
あれ?おかしいなぁ?
「ねぇ?」
「うむ?」
「これ神銀って書いてあるんだけど?」
「そうじゃな?」
「もう一つ白金っていうのもあるんだけど?」
「…そうじゃな。」
「というか年齢が…」
「レオン、それ以上はいけないのじゃ…。」
「「「「・・・・・。」」」」
リビングが沈黙に包まれる。
「ええええええぇぇぇぇえぇぇぇぇ!?!?!」
どのギルドに於いても神銀級となるとその道の第一人者だ、勿論その数は世界中で片手で足りるほどしか存在しないと聞く。
しかも他のギルド兼務でもう片方が白金級なんて普通じゃお目にかかれない雲上の人だ。
只者じゃ無さすぎる、ちょっと思考が追いつかないぞ…。
「実はハルヴェニー殿はここヴェルスタッドに食客として招致されたのだが、色々あってな…。」
「うぅ…思い出すだけで頭痛がするのじゃ…!」
父さん曰くハルヴェニーはこの街の領主、ゼオン城塞伯の食客として招かれたのだが、その歓迎の席でやらかしたらしい。
「一体何を?」
「同席していた騎士団長の服を吹っ飛ばして丸裸にした。」
「うわぁ…。」
やっちまったなぁ!
「更にだな。」
「まだあるんですか!?」
「何やらその…アレが使い物にならなくなる魔法をかけた上で窓から逃走されたのだ。」
…。
呆れて物が言えない。
そりゃ寝床すら無くなるわ。
町中の宿屋はガサ入れがあるだろうし使えまい。
その騎士団長としてはこの上ない恥をかかされたのだから騎士団総出で血眼になっていることだろう。
「ワシの外見やこの眼について愚弄したのじゃから当たり前じゃ。」
むくれっ面で漂うハルヴェニーだが、それはやりすぎては…?
「マグナス殿、先に申し上げるがワシは城に戻るつもりはないぞ」
「そうでしょうね…。」
「更に言うと此方の家に当分逗留させて貰うつもりじゃからよろしくの。」
「…。今なんと?」
しまったなぁ…。
こんな爆弾みたいな事情を抱えた人だとは思わなかった。
いや、ある程度厄介ごとがあるとは思ってたけど想定以上だったな。
「ワシ、レオンと泊めてもらう代わりに訓練をつける約束をしてしまったからのう。」
ギギギと音が聞こえそうな動きで父さんが首を此方に向けた。
父さんの目からは光が消えている。
違う俺はそんなつもりじゃなかったんだって!
「はぁ〜〜〜〜〜…。」
魂が抜けていくような長い溜息を吐いて父さんは目頭を押さえた。
そして長い沈黙の後、意を決したように言葉を吐き出した。
「解りました…貴女がそう決められたのであれば誰にも止められはしないでしょうからね…。」
心なしか一瞬で父さんがやつれた気がする。
すまん父さん俺のせいで…!
「父上申し訳ありません…。」
「良いんだレオン、いや良くはないが。」
そうだよね。
「ただこれ程の方であればお前の師たり得るだろう、精一杯学びなさい。」
「父上…!有難うございます…!」
父さんの器のデカさに正直頭が上がらない。
下手したら家全体を巻き込んだ危機になり得る事なのに。
「ということで世話になるのじゃー!いやー助かった助かった!」
こうして我が家に嵐のような居候が居着いたのだった。
「父上、明日はお腹に優しい料理を作りますね…。」
「そうだな…頼む…。」
お読み頂き有難うございます!
お陰様で評価ポイントも200を超えました、皆さんいつも有難うございます。
さて今回はハルヴェニーが只者じゃないことが分かりましたね、やっぱロリババア は強いこれは広辞苑にも載っている(大嘘
最近仕事が忙しくなって執筆がカツカツです…途切れたら本当ごめんなさいいい!
頑張って書きますので応援よろしくお願いします。




