第17話 酒は飲んでも飲まれるな
「本当何なんだコイツ…。」
目の前に転がるボロ布の塊を見やりながら呟く。
先程手が生えてきたがコイツは人間なのか?
そういう魔物というセンも捨てきれないが…。
いや、どうやら人間っぼいな。
冷静になって気付いたが、コイツ滅茶苦茶酒臭い。
それによく見てみれば黒い布から手足らしきものが少し見える。
ただの酔っ払い…では無さそうだけど様子を見てみるか。
「大丈夫ですかー…?」
恐る恐る近付くが反応はない。
魔力反応は消えていないので死んでいぬるわけではなさそうだが。
「うーん。このままってのも流石にアレか。」
近付くと例のブツから漂うすえた臭いが鼻をつく。
正直俺も触れたくないししゃーないか。
魔力が通う片手で水流を作り出し、ボロ布をざっと水洗いした。
『うっ…!』
すると水の冷たさに驚いたのかボロ布がビクッと跳ねた。
「お、目が覚めたか?」
荒療治だが酔っ払いの相手はこれが早い。
どんな奴も水をぶっかければ一発で起きる。
『な…!』
お、喋った。
『なにをふるんしゃおんしー!』
えぇ…?
何このボロ雑巾、随分と可愛らしい声してるじゃないか。
呂律回ってないし外見とのギャップが凄い。
だが人語を喋るという事は人間か。
「路上で寝るのが趣味なら邪魔して悪かったな。」
『おぉ〜ん?なにをわけのわからんこちょを…』
ダメだな、まだ酔ってるみたいだな。
またフワフワと空中に浮こうとしているが軌道が怪しい。
濡れたままでは可哀そうなので温風を生み出して乾かしているが、その風に煽られて体勢を崩しそうなぐらいだ。
「ちょっと待って。」
そういうと俺は食料保管袋からレモネードの入った壺を取り出した。
吐き気にはペパミ、酔い覚ましにはモレンが効く。
しかもミーミスの加護付きの水なら浄化の効果もあるから一発で効くだろう。
『なんひゃぁそれぇ…?』
「酔い覚ましだよ、スッキリするぞ。」
壺は蓋をコップ代わりにして漂うボロ布に突き出した。
『お、しゃけかぁ?うけてたるろこんにゃほー!』
酒じゃなくて酔い覚ましだって言ってるのに。
いいから早く飲んでくれないかなこの酔っ払い。
俺がやきもきしていると布の中から腕がニュッと伸びてきてコップを煽った。
ゴクッゴクッ…
いい飲みっぷりだな。
こんな感じで酒も煽ってたんだろう。
「ぷっはぁーーー!なんじゃこれスッキリするのう!」
お、復活したみたいだ。
「酔いは覚めた?」
「おぉー…もしやワシまたやってしもうたか。」
自覚があるって事は常習犯かよ。
頭と思しき部分をフルフルと振るっている。
ようやっとわかったけどそれデカい三角帽子だったのね。
よく見てみればボロ布だと思っていた部分は烏羽の意匠をあしらったドレスだ。
なんとも珍妙な雰囲気、前世でいう魔女のような服装だ。
「盛大にぶちまけてたよ。」
「ぬぁぁぁ、もうお嫁にいけないのじゃぁぁぁ」
そういうと三角帽子をギュッと引っ張り顔をうずめている。
声と言動でわかってきたけどコイツ女なんだな…。
枯れ木のように細く真っ白な手足と足まで伸びた銀色の髪が特徴的だ。
「まぁ、俺しか見てないしそんなに気にしなくてもいいんじゃない?」
「お主が気にせんでもワシが気にするんじゃ!」
おぅ…そういうもんか。
ピョンピョンと帽子が跳ねて異議を唱えている。
言葉遣いといい不思議な人だな。
「しかしアンタ一体何者だ?酔ってたとは言えさっきの魔力コントロールといい、色々と規格外だったけど。」
6色の魔力玉や俺の魔力放出を止めた技といい初めて見るものばかりだったし。今体を浮かせている魔法も結構複雑な術式なのに事もなさげに行使している事からも只者ではないという事は分る。
出来ればあの技や魔法について詳細を聞きたいところだ。
「ん?ワシかの…?」
「そう。一応先に名乗るけど俺はレオン、屋台商だ。」
俺が名乗ると迷うような素振りを見せたが、三角帽子は地面に降り立ち顔を上げながら名乗った。
「ワシはハルヴェニー、親しい人間はワシをハルと呼ぶ。まぁ見てくれの通りじゃが魔術師をしておる。今回は世話になったの。」
ハルヴェニーと名乗った少女は随分と綺麗な顔立ちをしていた。
美少女コンテストに出たら賞を総なめに出来そうなぐらい美人だ。
そしてもう一つ特徴的なのが眼だ。
思わずマジマジと目を留めて観察してしまった。
「あー、やっぱり不気味かの?」
そう言ってハルヴェニーは帽子を目深に被りなおした。
彼女は俗に言うオッドアイ、虹彩の色が両目で異なるのだ。
左眼は空のように透き通った碧なのだが、右眼は俺の髪色のような金色だ。
そして金眼からは少し異質な魔力が漏れ出ていたがおそらくこれはーー
「すまない、魔眼を初めて見たもんで。少し驚いた。」
そう、魔眼。
予備知識の中で稀に身体のどこかに特殊な魔力・魔術を刻み込まれた状態で生まれてくる子供がいるとあった。
多くの場合外見に変調を来すので忌み子扱いされ、不遇な幼少期を送ることが多いらしい。
「ふぅむ、一目見て魔眼と解ったか。しかもそれでいて恐れる様子が無いとはの。」
「相手に害を為す魔眼だったらわざわざ眼を合わせたりしないだろ?」
「ワシが悪人じゃったらどうしてたんじゃ…。」
「…それもそうだな。」
確かに初見だったとはいえこれが悪意のある相手だったらかなり危険だったな。
魔物でも魔眼を持つものが居るらしいから気を付けなきゃな。
「だがしかし魔眼持ちに偏見が無いようで助かるわい。」
「目を合せて問題ないなら普通に綺麗な眼じゃないか?そんなに気にすることじゃないだろ。」
本音を言ったつもりだが少しハルヴェニーは嬉しそうだ。
「…お主も変わっとるのー、偶にいるんじゃそういう奴。」
また宙に浮いてフワフワと漂っているがどことなく嬉しそうだ。
「うむ、お主には世話になったし何より気分がよい!何か恩返しをしようと思うのじゃが、なんかあるかの?」
「お、いいのか?」
「もちろんじゃ、寧ろこれでワシがあの醜態を晒したのを黙っていてもらえると有難いのじゃ。」
元から言いふらしたりする気ないんだけどな、というか誰に言いふらせば良いのか解らん。
だがこう言ってくれるのだからお言葉に甘えよう。
「解った、それじゃさっき俺の腕にした技と魔力コントロールのコツを教えてくれ。」
「ほぉ?ワシお主になんかしたかの?」
あ、そうか酔ってて覚えてないのか。
「ハルヴェニーの腕が俺の腕に触れたら魔力が出せなくなったんだ、今もうまく放出できない。」
「あーすまんのぅ、酔った勢いでそんなことをお主にしたか。」
自分がしたことを後悔しているのか頭を抱えて小さくなっている。
まぁ酔っ払いが酔ってる間にしでかしたことに気付いて凹むのはよくあることだ。
「ふむ、教えられんこともないが直ぐに、というのは難しいと思うのじゃ。」
「まぁそうだよね。それは見たときに何となくわかってたけど。」
「そうじゃのー、お主のセンスや魔力との相性もあるからのう、どうしたものか。」
空中で腕組みをしながらグルグルとハルヴェニーが回転する。
目回らないのかな。
「そうじゃ、一つ提案なんじゃが。」
「ん?」
何か閃いたようだ
「実はワシ色々あって今日の寝床すら無い身での…」
「う、うん?」
何やらかしたんだ、べろべろに酔っぱらってた理由なのか?
「お主の家に泊めて貰えたら魔法の稽古をタダでつけてやろう!」
魅力的…な申し出ではあるが素性が知れないんだよなぁー。
悪い人ではなさそうだけど得体が知れないのは事実。
それに俺が良くても父さんと母さんが何ていうかなー…。
「…ダメかの?」
心細げな顔で三角帽子の奥から見上げてくる。
寝床が無いってことは俺が断ると路上で寝るのかハルヴェニー。
いや魔法でどうにかしそうだけど…あー。
「解ったよ、親と相談しなきゃいけないけどそれでもいいか?」
「もちろんじゃよ、もしダメじゃったとしてもお主に稽古は付けるわい。」
まぁどちらにせよ稽古を付けてもらえるならいっか。
「よし、それじゃ交渉成立だな。」
「よろしく頼むのじゃ!」
そう言って俺はハルヴェニーと固い握手を交わしたのだった。
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皆さん評価、ブクマ有難うございます!
新章が始まって早速の新キャラです。
今後どのように絡ませて行こうか考え中なんですがどうしたものか…。
ここから先まだ書けていないのでブレブレですが思うままに書いて参ります!
因みに作者はロリコンではありませんので悪しからず。




