第16話 開宴!狂角牛祭り!
そうと決まれば下拵えと試食だな。
自分が食べてない物を客に出す訳にはいかん。
「まずはここを綺麗にしないとな」
屋台を顕現させて片っ端から食材を吸い込んでいく。
事前に野菜や粉物、諸々の食材を保管庫に入れておいたのだが、本当に無限に収納出来るらしい。
ダイ〇ンばりの勢いで袋が食材を吸い込んでいくさまは見ていて不思議な気分になるが、やはりこれは革命的なアイテムだ。
巷では似たようなアイテムで容量が有限のアイテムボックスなるものがあるそうだが、それでも天文学的な値段で取引されているというのだから屋台の価値は計り知れない。
「よし、そんじゃ外で作業すっか。」
さっぱり綺麗になった倉庫を後にして倉庫前の広場で早速調理を始めることにした。
「まずは普通に焼いて食ってみるか。」
改めて切り分けられた各々の部位を取り出す。
魔法を使って殆どの肉はブロック状に刻んでおいたから取り出す時もお手軽だ。
「しっかし綺麗な肉だなー!」
切り分けられたブロックを見て思わずため息が出る。
部位によって特徴はそれぞれだが特に赤身肉が美しい。
肩ロースやヒレのあたりは綺麗な桜色に染め上がっていて惚れ惚れする。
逆にホルモン系は脂のノリがよく雪原のように真っ白だ。
特にシマチョウは尋常じゃない脂のノリっぷりだ、これとエールは相性抜群だろう。
「鉄板より網焼きの方が美味くなるかな?」
ガチャガチャと屋台内の配置を変えて七輪を呼び出す。もちろん炎はガリノスの加護付きの神炎だ。
程よく網が熱せられたのを確認してから各部分を一切れずつ切り出し網の上で焼いてみる。
ジュウゥッ
火にかけられて肉が小気味よい音を立てる
あー、普段はローストビーフみたいな塊肉しか食べてなかったけどこうやって焼肉みたいに肉を焼くのもまたいいものだなぁ。
「う~ん、良い匂いだ。」
肉と脂の焼ける独特の匂い、空きっ腹にはつらい匂いだ。
立ち上る煙にあわせて辺りに肉の焼ける良い匂いが立ち込めた。
匂いにうっとりしていると赤身肉が焼き上がった。
焼き加減はレア気味に、肉そのままの味を味わいたい。
ホルモンはもうちょっと焼こう。
「それじゃ、いただきます。」
一つまみの塩と共にヒレ肉を頬張る。
「うっぉ…」
なんだこれ…
美味い…
肉汁が、凄い。
引き締まった赤身からは想像できない程滋味溢れる肉汁が溢れ出してくる。
噛めば噛むほどジュンジュンと肉汁がしみだして溺れそうだ。
「こっちはどうだ?」
今度は程よく脂ののったリブロースに手を伸ばす。
脂の光沢が艶めかしく光りを反射している、グロスを塗った唇のようだ。
「ふぁぁぁ~~~」
かぶりつくと思わず気の抜けた声が出てしまった。
一回の租借で口の中を脂の旨味が蹂躙し俺の口内は全面降伏だ。
(なんてこった、脂の旨味も尋常じゃないぞ。)
赤身のパワフルな旨味と人を骨抜きにする脂の美味さ
これは人をダメにする肉だ…!
衝撃的な美味さに呆然としているとホルモンがジュウジュウと音を立てている
いかん、このままではホルモン火災が起きてしまう。
急いで箸で救出し、少し冷ましてから頬張る
「美味っ・・・あ、くっさ!」
脂の旨味が決壊したダムのように流れ込んできたが、それにあわせて牧場のような匂いが雪崩れ込んできて思わず眩暈がした。
「やっぱ下処理をしないとダメかぁ。」
他の臓物系も同様にそのままじゃ匂いが凄い、手抜きはダメだな。
だが何となく食材の癖は掴めたな。
前世でやってた下処理方法で対処できそうだ。
作るメニューの方針も大体決まった。
今日は余すとこなく使って大盤振る舞いしちゃおう。
「んじゃいっちょ頑張りますか!」
俺は身体強化魔法をかけて調理台に向かった。
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(完璧に出遅れちまったよ!)
そう思いながら早足でアドーラが話していた場所へ急ぐ。
昼過ぎに意気揚々とアドーラがやってきて夕飯時に倉庫街に行けばタダで美味いもんが食える、と言ったもんだからピンときた。
今日はレオンの旦那がバーサークホーンをバラす日だと聞いていたから旦那絡みだということはすぐに分かった。
本当はさっさと仕事を切り上げて行きたかったのだが最近お客が増えているせいか営業時間いっぱいまで客足が引かず結局こんな時間だ。
「お!あそこだね!」
普段は人の出入りが少ない倉庫街に人山が出来ている。
「だいぶ出来上がってる感じだねぇ…。」
ケルノンが小さい町だとは言えすごい量の人だ。
見ればアドーラが男達と酒樽を持ち寄り酒盛りを始め
楽器を持ち込んだ男と女が歌を歌い
子供達は美味しそうに何か頬張っている
まるでこの一帯だけが祭りのような賑わいだ。
「アドーラのハゲ!人呼ぶって言っても限度があんだろ!」
お、旦那の声だ。
流石の旦那も余裕なくなって素が出てら。
「ほーいどいとくれー、ちょっとごめんよー」
人の海を割りながら台車と共に突き進む。
この騒動の中心に辿り着くと屋台の中で忙しなくちょこまかと動く小さな体が見えた。
「よっ、旦那。派手にやるじゃないかい」
「あぁ!?ってシーラか!」
見れば屋台の中は鍋や焼き台がひしめき合い、各々がが美味そうな匂いを漂わせている。
だけど見た感じ今使ってるのは肉料理だけかね。
どうやら用意してきたコイツらも無駄にならなそうだ!
「旦那、こんだけの客に振舞ってたらそろそろ食材が心許ないんじゃないかい?」
「そうなんだよ!肉は山ほどあるんだが野菜が…ってまさか。」
ほんじゃアタシも一つ噛ませてもらうかね。
「今日の祭りにアタシの店も混ぜてもらうよ!ウチの野菜も果物も、今日はタダで大盤振る舞いだ!」
台車の上に飛び乗り荷台の布を取り去ると店自慢の自然の宝石たちが顔を見せた。
ウオオオオオオオ!!!
地響きのような歓声が巻き起こった。
レオンの旦那は呆けた顔で手を止めてこっちを見ている。
「どうだい旦那ぁ?!ウチの子たちも混ぜとくれよ!」
すると旦那はニカッと笑ってこう言った。
「任せろ!まとめて面倒みてやらぁ!」
そう言うと凄まじい勢いで旦那は包丁を振るい、アタシが見たこともない料理を作り出していった。
あっという間に串焼きが焼きあがったかと思えば焼いた肉と野菜をパン生地で巻いた料理やバーサークホーンの尾を使ったスープ…
極め付けにはビンズとマトマを臓物と一緒に煮た料理や臓物の串焼きなんざ出てきちまった。
これがまた美味いのなんの。
臓物なんざ今まで捨てて畑の肥やしにしかなんなかったってのに、こんなに美味いとは知らなかったよ。
旦那の料理に使われてウチの野菜達も喜んでるね。
アタシの目利きで選んだ子たちがもっと輝くのを見るのは本当に青果商冥利につきるってやつさ。
正直なところずっとこのままウチの店を使って欲しいけど、旦那の夢はこの街に収まりきらないだろうしね、アタシもボサッとしてると置いていかれちまう。
その為にも頑張らないとねぇ。
「シーラァ!悪いけどちょっと手伝ってくれ!人手が足んねー!」
荒い声上げてるくせに額に汗浮かべて張り切っちまって、実に楽しそうじゃないか。
今も、これからもずっと手伝わせてもらうさね。
「あいよ!任せな旦那!」
当分離れる気はないから覚悟しとくれよ、ねぇ旦那?
お読み頂き有難うございました!
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これもひとえに皆様のおかげです、ありがとうございます。
さて、本編ですが今回は料理祭りでしたね。
今回登場した食材は下記のとおりです。
■食材
ビンズ→豆
マトマ→トマト
今回は祭りだったので料理の描写がありませんでしたが、今後は一つ一つ丁寧に書きたいです。
ブリトーとかトリッパとか本当美味しいんですよねぇ…。
今後もいろいろ登場しますので、次回以降もよろしくお願いします!




