第12話 決着
(間に合った!)
目下に見える父の無事に安堵しつつ続けざまに術式を展開し、放つ。
落下のスピードが乗った氷の矢が流星のように冷気の尾を引きながらバーサークホーンを取り囲むように突き刺さった。
バーサークホーンは突然の出来事に足を止め辺りを見回している。
どうやらまだ俺に気付いていないらしい。
前世での知識だが意外にも牛の視野は360度近く見渡せるため、ただただ攻撃を仕掛けたとしても躱される可能性が有るのだ。
だが、一見完璧に見える視野にも一部例外がある。
首の後ろ約20度、その部分の視界は確保されていないのだ。この異世界においてもそれが変わらない事はウェイグの情報で確認済みだ。
そして俺はその死角に隠れる位置を狙って飛んできたのだ。
首を振られれば気付かれる可能性はあるが、まだバーサークホーンの注意は周囲に落ちてきた氷の矢に注がれているから大丈夫そうだ。
「このまま決めるぞ。」
俺は打ち込んだ氷の矢に込めた魔力を起点に更なる術式を展開した。
矢から漏れ出る冷気が氷となり音を立てながら地面を奔る。この現象が各々の矢で発生し、互いに氷が絡み合い地面に氷で描かれた魔法陣が出来上がった。
「これで準備は整った」
流石にバーサークホーンも危険を察したのか魔法陣から抜け出そうとするが、もう遅い。
「神縛氷鎖」
俺が詠唱すると地面から氷の鎖が飛び出しバーサークホーンに絡みついた。
「ン”モ”オ”オォオォォォ!!!」
必死に身をよじりガシャンガシャンと音を立てるが鎖は切れない。
それもそのはず、神縛氷鎖は今の俺が籠められる魔力の大半を詰め込んだ超高硬度の氷の鎖、溶けず砕けずただ触れている者の体温を奪い動きを止める、そういう働きをするように作った魔法だ。
(仕上げだ!)
俺は腰に帯びていた短剣を抜き、刀身に圧縮した水の魔力を付与した。
素のままでは刃渡りが20㎝程しかなく奴に致命傷を与えられるか解らない。
だが、圧縮した水を纏わせて刃渡りを伸ばせば奴の急所に届く!
「くらえ!」
落下の勢いそのままに俺は短剣を無防備に晒された首目掛けて突き立てた
ズシュンッ
透明な刃が吸い込まれる様にバーサークホーンの首に吸い込まれ
一拍
ブシャアァッ
赤い血の噴水が宙に舞った。
「ン”モ”オ”オオォォオオォォオ!!!!」
声だけで吹き飛ばされそうになる程巨大な咆哮が辺りに響き渡る。
断末魔というに相応しい雄叫びを上げたバーサークホーンは身を跳ねさせたがそれすらも許されず、僅かに身体が震えるに留まった。
「よっと…。」
背中から飛び降り正面に立つとバーサークホーンは舌を出しぐったりとしていた。
「ブフーッ!ブフーッ!!」
だが、悪あがきと言わんばかりに角に魔力を篭め、熱で鎖を断ち切ろうとしているようだが無駄だ。
この鎖は魔力の動きも止める様に作用する働きも持っている、だからこの鎖に捕まる事は終わりと同義なのだ。
このままでも放っておけば死ぬ可能性は高いが危険だし、何より勿体ない。
「悪く思わないでくれよ。」
俺は傷口に近寄り漏れだす血に触れた。
「操血」
この魔法は触れた血のコントロールを強制的に簒奪する魔法だ。厨二病感溢れる魔法なのだが、血抜きをするときに便利だなぁと思って開発した魔法だ。
人間の身体もほとんど水分で出来てるんだし、液体に見える血液だって水みたいなもんだろ!
と勢いで考えてみたんだが出来てしまった、メリュスとミーミスの加護さまさまだな。
「ヴモォォ…」
バーサークホーンは弱々しい声を上げ少しでも逃げようと対抗するがそれは叶わなかった。
ズルズルと流れ出す血が空中で大きな風船のように膨れ上がるにつれてバーサークホーンの呼吸は弱り
眠るように死んだ。
(終わった、か。)
生命力に富んだ絶対強者の命が静かに潰えた瞬間に立ち会い、前世で狩りをしていた時の感覚を思い出した。
「どこの世界であれこの感覚は変わらないんだな。」
手に纏わりついたバーサークホーンの血から温もりが消えていく、その感覚から自分が命を奪ったことを改めて自覚しつつ俺はその場を立ち去った。
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「父上!」
先程の戦場から少し離れた木陰に回収された父のもとへと走る。
「レオン…来てくれたんだな…!」
「団長!安静になさってください。」
起き上がろうとする父をウェイグが抑えていた。
そう、一緒にここまで走ってきたウェイグに俺が魔法陣を発動させたらどの様な状態であれ父さんを回収するように依頼していたのだ。
万が一にも鎖が破壊されてしまったら近くに居るであろう父さんを巻き込みかねなかったので頼んだのだが、ウェイグはしっかりとその役割を果たしてくれたようだ。
「父上、ご無事でなによりです。今終わらせてきました。」
「まさか・・・本当にやってしまうとはな。」
「やると思ったからこそ私を呼ばれたのでしょう?」
「ははは・・・違いない。」
そう溢す父の身体はボロボロだ。
やはり部下を庇いつつ戦って無茶をしたのだろう。
「父上、失礼します。」
抉れた腕や所々に残る打撲痕、生傷にまんべんなく大回復をかける。
「お、おぉぉ!!?」
「やはり凄い…!」
全身の傷がまるで無かった事のように消え抉られた腕もミチミチと音を立てて再生していく。
こんな状態でアイツとやりあってたなんて一歩遅かったら本当に父さん死んでたんじゃ無いか?
「レオンお前回復魔術も使えたのか!?」
「えぇ、あまり目立ちたくなかったので隠していたのですが…。」
「そ、そうか。」
正直他の兄弟に良い影響を及ぼさないだろうと思って伏せていたのだ。火の魔法も十分に使えるのだがローゼ姉が精神崩壊しそうなので使用を控えている。
「しかしお前が空を飛んできた時は度肝を抜かれたぞ、あれも魔法か?」
「いえ、あれは魔法であって魔法でないというか…。」
「どういうことだ?」
あれは魔法で飛んでいたのでもなんでもなく、滑空していただけだ、氷の発射台を作り出し腕力を限界まで強化させたウェイグにぶん投げて貰ったのだ。
「隊長、レオン様ですが少々型破りが過ぎるかと。」
「私も今そう思った。」
父さんもヴェイグも額に手を当てて天を仰いでいる、そんなに驚くことじゃないだろうに。
「だがまぁ、その型破りのお陰で皆命があったのだ、細かいこと抜きで良しとしよう。」
「そうですね。」
お、父さんも色々吹っ切れてきたかな?
ウェイグもなんだか今日一日で一皮向けたような顔をしている。
(大変だったけどこの人達を守れてよかったな)
そう思うと思わず笑みが溢れる。
「どうしたんだレオン、そんなにニヤニヤして。」
「いえ、何でもないです!さぁ帰りましょう父上、母上が待っていますよ!」
「そうだな。」
俺たち3人はゆっくりと立ち上がり、ケルノンの方角へ足を向けた。
「では帰るとしよう、我が家へ。」
こうして街に迫る脅威との戦いは決着を迎えたのだった。
評価、ブクマ頂き有難うございます!
今執筆している時点でお陰様で総アクセス数が2500を超えました、皆さんいつも有難うございます!
これからも地道に執筆を続けてまいりますのでよろしくお願いします。
そして本編はやっと変異種との戦闘が決着を迎えました。
魔法の名前…考えてる時恥ずかしくてしょうがないんですが、公開するときも確定ボタンを押すのを躊躇したりしてます。
良いアイディアとかあればぜひコメントください。
それでは次回もお楽しみに!




