第11話 血塗れの双角
今回は2人の人物の目線で進みます…!
私は夢でもみているのだろうか。
私の身体は今までに無いほどに力が漲り、足は放たれた矢のように地を駆けている。
先程まで死に瀕する程の傷を負っていたにも関わらずだ。
そっと腕を撫でるがそこにもう傷はない。
「傷跡が痛みますか?」
「い、いえ!大丈夫です!」
声を掛けてきたのはこの奇跡的な状況を作り出した張本人、レオン=リズベルグだ。
かなりのスピードで奔っているにも関わらず、息を切らす事なくピッタリ付いてくる、何という体力か…!
(団長の判断は間違っていなかったのかもしれない…!)
変異種の襲撃を受けた際、団長は足がまだ使える私に『レオン様を連れて来い』と命令された。
正直最初は戸惑ったが、団長の鬼気迫る雰囲気と団長に肉薄する変異種を見てがむしゃらに街へ走った。
ようやっと這々の体でリズベルグの屋敷にたどり着き、奥方様に報告をした時は胸が締め付けられる思いがした。
やはり奥方様は一瞬心が揺らがれたようだが、すぐに持ち直し毅然と振舞われ、レオン様を送り出されたのだ。
…とても強いお方だ、武人の妻とはこうもかくあるべきかと驚嘆の気持ちで胸がいっぱいになった。
しかしその後、余韻に浸る間も無くまざまざとレオン様の実力を見せつけられることになった。
一介の冒険者や魔術師にすら中々扱えない大回復の魔法を使い私の腕を治しただけでなく、身体強化の魔法をご自身だけでなく私にまで付与されたのだ。
術式展開もあっという間で詠唱などほぼ無かったし、魔法で傷を治癒した時独特の痛みも無い、そして強化魔法のレベルは今まで受けた魔法の中で一番質が良い。
正直に言って普段の訓練の様子を見ても年の割にはキレの良い動きをする、程度の認識だったが魔術となると銀級以上の実力を有しておられるのでは無いか…?
「ウェイグさん。」
「はっ!如何されましたかレオン様?」
「到着までに変異種の特徴や戦い方を知っているだけ教えて下さい。走りながら戦略を考えます。」
「承知しました!」
自らの父親が危機に瀕しているにも関わらず、実に冷静だ。戦場で冷静さを欠けばすぐに命を落とすがその点レオン様は常在戦場の心構えが出来ておられる。
お二人の勝率を少しでも上げられるように私も少しでもお役に立たねば…!
「まず、変異種の外見的特徴ですがーー」
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はぁーっ…
はぁーっ…
どれぐらい時間が経った…?
ジリジリと肌を焼く日差しと目の前のソレが発する熱気で意識が朦朧としてくる。
「ブルルルゥ…!」
「お前は元気そうだな、憎らしい奴め。」
巨岩のように聳えるソレは子供なら吹き飛ばせそうな鼻息を荒く撒き散らし蹄を鳴らしている。
この魔物はホーンブルの変異種【バーサークホーン】
街に接近する魔物の群れを掃討した後に突如として現れた強力な魔物だ。
今思えばあの魔物たちの様子からしておかしかったのだ、飢えている訳でも敵対心が有るわけでもない
そう、本能的に何かに怯えるような様子が有った。
「その原因がお前だった、ということ…かっ!」
剣の腹で辛うじて目前に迫る赤熱した角をいなす。
ギャリィンッ!
火花が散り剣が悲鳴に似た音を上げた。
「ブモオオォォォォオオォ!!!」
腸まで揺らすような咆哮をあげつつ、身体の横を轟と音を立てて巨体が通り過ぎた。
先程から何度も同じようにバーサークホーンの突進をいなして時間を稼いでいるが…
「ぬぅっ…!」
奴が通り抜けた後に巻き上げる砂礫が石礫のように襲い掛かる。突進をいなした後の崩れた重心では躱しきれず幾つか貰ってしまうのでこちらにダメージは溜まる一方だ。
今回も何とか耐えたが、もう長くは続かない。
「もってあと2回…か。」
手元の剣に目を落とすと先程角に触れた部分がチリチリと赤熱している。
このバーサークホーンの厄介なところは上げればキリがないが、その巨体から繰り出される突進に加え、あの特徴的な武器が非常に前衛職との相性を悪くしている。
奴の武器は、角。
ホーンブルの象徴ともいえる雄々しい角がコイツにも備わっているのだが、大きさ・強度共に比にならない程強化されている。
それだけでも十分手を焼くのにも関わらず、この変異種はその角に炎熱魔法を付加エンチャントしているのだ。
(厄介極まりないな。)
最初にコイツと一合打ち合った時、突進をいなそうとした盾が熱で変形し抉り飛ばされたのだ。
その時の衝撃で盾を装備していた左腕は筋をやられたようで力が入らなくなった。
それからは負傷した部下たちを庇いつつ剣のみで相手をしていたのだが旗色は悪い。部下達は退避できたようだが…私をそう簡単には帰してくれなそうだ。
「ブモオオォオォオオオォォ!!」
そんなこちらの都合等お構いなしに振るわれる圧倒的な力
身体の回転を使って武器にかかる負荷を最小限に抑え―――
(しまったっ!!)
そう思うと同時に視界が回った。
視界には地面と空が交互に写り、そこで自分が吹き飛ばされたことを悟る。
「ガハッ!!!」
受け身を取る間もなく地面に叩きつけられ口から空気が無理やり押し出された。
叩きつけられた衝撃で頭も揺さぶられ、強烈な吐き気に襲われる―――
だが、ここで隙を見せる訳にはいかない
(体制を…立て直さねばッ…!)
息も満足に吸えず揺れる視界であたりを見回すと傍らに先程まで握っていた剣が転がっていた。
どうやら度重なる接触による熱と衝撃で刀身が歪み、いなしきれなかったようだ。
だがそれでも、と剣に手を伸ばそうとするが腕が上手く動かない。
右腕を見ると深々と抉られた傷が刻まれ、柘榴のような傷口から赤々と血が流れていた
「ぐうっ…!?」
傷を認識するや否や身を焼くような痛みが全身を駆け巡り、思わず苦痛に顔を歪めた。
このままでは、殺られる。
ひたひたと近づく死神の足音を感じつつも、私はバーサークホーンに向き合った。
視線の先では奴もまた真っ直ぐに私を見据え、蹄を鳴らしながら狙いを定めている。
奴等に感情が有るかは解らないが放たれる「次で仕留める」という確固たる殺意が肌を焼く。
「レオンは間に合わなかったか…。」
自らの死を覚悟しつつ私はそう呟いた。
動ける騎士に最後の希望としてレオンをここに呼ぶように託したのだ。
あの子は私では比にならない程莫大な魔力を持ち、それを振るう術を身に付けている。
あの子ならばコイツを倒せる、そう信じて私はここで待った。
たとえあの子が間に合わないとしても、町の住民が避難する時間を稼ぐために
一分一秒でも長くこの場に奴を釘付けにする必要がある。
魔力は枯渇直前
武器も無い
身体は満身創痍
何一つ勝てる要素は無い。
だが、それでも退く訳にはいかない。
「来いっ!」
私の声に呼応するようにバーサークホーンが地を蹴った―――
その時だった
バシィィィンッ!!!
私とバーサークホーンの間に割って入るかの如く
彗星のような冷気を纏った氷の矢が地を穿った。
思わず顔を上げると
――――そこには希望が有った。
「父上―!お待たせしました!」
私の希望の星、レオン=リズベルグだった。
お読み頂き有難うございました!
正直バトルパートの描写が特に苦手です。
他の文書もまだまだなのですがスピード感、臨場感を文字で伝える事の何と難しいことか。
今後も頑張って書いていきますので是非応援宜しくお願い致します!
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