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屋台転生 〜その料理人最強につき〜  作者: 楽
第一章 穀倉都市 ケルノン
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第8話 看板商品

ブクマ・評価有難う御座います!

ようやっと主人公が料理を始めますよ…!

※今回少し長めです

「看板商品?」

「そう、シーラの店といえばアレという商品を作るんだ。」

「あー、でもそれなら今ある青果自体がそうだと思うんだが、それじゃダメなのかい旦那?」

「残念ながらダメだ。」


そう、他の追随を許さない程突出した特徴を持たない限り()()()()()()での勝負は勝てない。

今シーラの店の青果は質が良くなっているので他者との差別化が出来ている、だが輸送技術が浸透すれば直ぐに追いつかれてしまう。

だから他者が追い付いてくる前に更に強力な特徴を身に付けてリードを広げなければならない。


「極論を言えば青果を買おうと思ったらシーラの店じゃなくても買えるだろ?」

「そうだね、青果商なんざウチ以外にも幾つかあるからね。」

「今シーラの店は質が良くて少し高い青果を取り扱っているけど、もしシーラが質が悪くても安い青果が欲しい客だったらどうする?」

「・・・ウチじゃない他の店に行くね。」

「そうだろ?だから青果に拘って勝負をするのは難しい」


需要と供給というやつだ、

もちろんブランド戦略的に高品質な商品を取り扱う方針は維持させるが、それ一本槍では他の需要を抱えた客を引き込めない。


「じゃあどうすりゃいいのさ?」

「勝負する場所を変えるんだよ。」

「ん?どういうことだい。」

「つまり、青果ではないシーラの店でしか手に入らない物を作ればいいのさ。」


あ!と口を空けてシーラが固まった。どうやら気付いたようだな。

そう、これがシーラの話を聞いたときに思いついた策の一つだ。


ここケルノンの町は店自体の数が少なく、良くも悪くも「競合」の概念が存在していなかったのだ。

その為どの店も個性を出そうとすることもなく、どんぐりの背比べ状態で止まってしまっている。

そこで登場するのが「看板商品」だ、他者には真似できない商品を創り出せばそれを買うために客は来る。


他にも価格競争という手も無くはないが禍根を残しかねないので却下だ。


「なーるほど!成程成程!!わかった気がするわ。」

「他の店でそういうのがある、という話は聞いたことがないだろう?」

「あぁ、そうだね。少なくともこの街では無いね。」

「よし、それならこのセンで行こう。」


他にも幾つか策はあるが主軸はこれだな、他の策は随時投入していこう。



「で、旦那ぁ…。」



口元を歪めつつ揉み手でシーラがすり寄ってくる。

まったく…。こういう時だけ勘は鋭いんだなコイツ。


「あぁ、実はもう考えてある。」

「さすが旦那!」

「だがそのために()()()()を用意してほしい。」

「んー?なんだってそんなもんを?出来なくはないけど…。」

「まぁそれは出来てのお楽しみってことで。」


俺が考えた商品、多分コレなら万人受けするしシーラでも手軽に作れる。

手始めならこれぐらいのモノのほうがいいだろう。


(はぁ…本当なら俺が屋台で売って歩きたいんだけどなぁ…。)


神様には俺と一緒に転生させろ、って言ったのに屋台はまだ俺の手元に現れない。

神様たちにクレームを入れようにも交信する方法が全然わからんし。


(まぁ…目星はついてるんだけどな。)


こうして商品開発会議はお開きとなった。



―――――――――――――――――――――――



―――後日昼下がりの市場


田舎町とはいえ相変わらず市場は買い物客や商人で賑わっている。

客引きや売込みの声が行き交い騒がしい中、一際威勢の良い声が響く店が一つ。


「らっしゃい!」


最近生き馬の目を抜く勢いの青果商シーラの店だ。

店内は夕飯用の材料を買いに来た召使や食料の買い溜めに来た冒険者で賑わっている。

その中でも常連の女性客がシーラと買い物の相談をしているようだ


「今日は何を貰おうかねぇ。」

「ウチの子たちはいつでも新鮮!何でもオススメだけど今日はモレンとブーカが特に良いよ!」

「そうかい?それじゃそれを貰うよ。」

「毎度あり!あ、そうだ。奥さんちょいと待ってておくんな」


そう言って会計を済ませるとシーラは一度奥に引っ込み、手に()()()()()()()をもって戻ってきた。


「これ、ウチからのサービス!」

「なんだいこりゃぁ?水かい?」

「今度ウチで売り出す予定の新商品さ!」

「水なんて売ってどうするんだい?シーラも変わってるねぇ…。」


訝しみながらもお客の女性はコップに口を付けた。


ゴクッ


喉が鳴り、コップの中身が女性の喉を流れ落ちた。


「ッ!」

「どうだい?」


ニヤケ顔でシーラは客の女性の顔を覗き込む。


「なんだいこりゃ!?とっても爽やかで美味いね!喉を風が吹き抜けたようだよ!」

「はっはっは!そうだろそうだろ?」

「しかも凄く冷たいね!氷冷魔法でもかかってるのかい?」

「いーやー?でも魔法みたいに美味いし冷たいだろう?」


全力のドヤ顔をかましつつシーラは胸を張る。

女性客はゴクゴクと一気にコップの中身を飲み干した。


「プハーッ!こりゃ堪らんね!頭も目もスッキリ冴えてもう一仕事頑張れそうだよ!」

「はっはっは!また飲みたくなったら来ておくんな。そん時はちゃんと料金貰うけどね!」

「こんなのまた飲みたくなっちまうじゃないかい、あんたまた腕上げたねぇ。」


また来るよ。と零して女性客は去っていった。


「大丈夫そうだね。」

「お、旦那!来てたのかい!」


俺は市場に来ていた。

シーラが帰ったあと母さんが父さんに事情を説明してくれたようで、俺の取り組みはすんなり了承された。


ただ、交換条件として騎士団の護衛を付けることと、父さんから武術訓練を受ける事を提示されたが、どちらも俺としては問題なかったのでその条件をのむことにした。


そんなこんなで行動範囲が広がって市場にも来れるようになった、母さんとシーラさまさまだ。

そのうちの1人は今目の前でニヤケ顔を晒している訳だが。


「いやぁダンナの考えたこのレモネードってのは凄いねぇ!」


そう、俺が考えた看板商品はレモネードだ。

ケルノンの街は前世でいう地中海気候に近い気候を有しており、比較的温暖で乾燥している。

そのためただ歩き回るだけで汗が滲む事もあるぐらいだ。


そしてここは穀倉地帯、農民や穀物を運ぶ肉体労働者が人口の大半を占めている。

この街の気候と住人の職種を考慮して手が届きやすい値段で提供出来るものをと考慮した結果だ。

幸いシーラの店は質の高い青果が揃っており、原価で商品を作れるのでレモネードに白羽の矢が立った。


またレモネードと言っても変わり種でペパミというミントに似た植物が入っている。

ペパミはシーラが先日持ってきた籠の下に敷き詰められていたもので、この世界では虫除けの薬草として認識されており、可食という認識が薄いようだった。

しかも幸いなことにこの町の近くにペパミの群生地があるそうで名産品として申し分ない、そう言った背景もあって前世でいうレモンとミントを使ったレモネードを看板商品第一弾としたのだ。


「早くもこれ目当ての客が来始めてるぐらいさ。」

「あ、もう噂広がってるんだ?」

「こんな田舎町じゃ目新しいことは少ないからね、すぐ噂は広がるさ。」

「確かにそれもそうか。」

「しかもこんな美味いものをタダで配るって聞いた時はダンナの頭がおかしくなったかと思ったよ。」


そう、このレモネード実は商品を買ってくれた客には一杯だけ無料でサービスしている。

改めてシーラに用意してもらった素焼きの壺で作り置きしてあるのでキンキンに冷えているからそれだけでも驚かれるし喜んでもらえる、客には嬉しいサービスだろう。


「まぁまずどんなものか知って貰わないと売れないからな。」

「そうだよねぇ、だとしても無料は驚きだったよ。」


これは前世も異世界も変わらない話で全く未知の物を人に買わせるのは難しい、だから無料で試してもらう。そうすると気に入った人はまた欲しくなるし、それが良いものであれば人に自慢したくなるものだ。


「今後臨機応変に味を調節してくれよ、暑い日は少し塩を入れたり子供が欲しがったらアプールの果汁を混ぜたりね。」

「あいよ!そこんところは任せておくんな。」


この辺りの手腕はシーラに任せておけば大丈夫だろう。



(一つ目にしては滑り出しは上々、だな。)



こうして俺の料理第一作目がこの異世界に産声を上げたのだった。

お読み頂き有難う御座いました。

という事で主人公の料理一作目は「レモネード」でした。


主人公の魔法で新作ドドーン!とか「魔物の肉だー!」というのを期待されていた方すいません。

「食文化の醸成」という観点だと主人公しか作れない料理を作っても意味が無いかな、

と思ったので主人公じゃない人の店で出される料理は基本的に再現可能なモノになる予定です。


逆に主人公が作る料理は…という予定でもありますが、それはまたのお楽しみ。


■今回登場した食材

モレン→レモン

ブーカ→カブ

ペパミ→ペパーミント

アプール→リンゴ

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