プロローグ お客様は神様です
初めまして、楽と申します。
異世界グルメに対する妄想が溢れてしまったので書き始めました。
ありふれた異世界転生モノですが、楽しんで読んで頂けるように頑張っていきますのでよろしくお願いします!
「‥‥ここは?」
見渡す限り続く真っ白な世界。
ここはなんだ…?
確か俺はさっきまで接客してたはずなんだが…。
記憶をたどろうにも記憶にもやがかかって思い出せない。
うんうんと頭を捻っていると後ろから声をかけられた。
「…人の子よ。」
無音の空間に響くしわがれた男性の声
その厳かな雰囲気をもったその声に振り替えると
「うおっ!?」
目に蒼あざを作り服の至る所がボロボロになった老人が地面に腰かけていた
正座で。
「おいおい爺さん大丈夫か?というかなんで正座?」
「良いのじゃ人の子よ…これは我への罰なのじゃ。」
サ〇タのような風貌に所々破けているとはいえ神々しい白銀の衣を纏った老人は答える。
何やら込み入った事情があるのかねぇ…。何だか分らんが猛省している雰囲気を感じるし。
そう思いつつまじまじと老人を観察していると違和感に気付いた。
この爺さん、見覚えがあるな…。
確か…いや間違いない
「なぁ…もしかして爺さん俺の店に来てなかったか?」
「おぉ、気付かれてしもうたか。然り、よくお前さんの店で飲み食いさせてもらったわい。」
日頃俺は屋台を引いていてその町やその場所の名産品を使ってお客に料理を提供している。料理のジャンルは和洋折衷問わず材料さえあればお客の要望に何でも応えるのがモットーだ。
屋台という特性上着の身着のままいろいろな場所で商売をしていたのだが、この爺さんは色々な場所でフラっと現れる不思議なお客だったのでよく覚えている。
今の格好は普段とは似ても似つかない風貌だが、その爺さんがどうして?
「やっぱりか!しかし爺さん何があったんだよ、それにココはどこなんだ?」
「色々と詫びねばならんのだが…、ここはお前さん達の言葉でいう死後の世界じゃ。」
「は?」
死後の世界?何を言ってるんだ爺さん。
頭でも打って気が動転したか?
「いや爺さん何を言ってるんだよ。」
「すまんな人の子よ、実はワシのうっかりでお前を死なせてしもうたんじゃ。」
どういう事だ?益々訳が分からんぞ。
えーっと思い出せ、ここに来る直前何があった?
うん、ちょっとずつ思い出してきたぞ。
確か常連のお客二人が酔った勢いで口喧嘩をし始めたんだ。
それがだんだんとエスカレートしてきて殴り合いの喧嘩になりそうだったから、止めに入ったら
―――極太の雷が降ってきたんだった。
轟音と共に身を焼かれるような感覚が一瞬したのは覚えている
が、そこで俺の記憶は終わっている。
(俺の屋台…無事だといいんだが…。)
閃光に包まれる瞬間巻き込まれていたような気もするが…心配だ。
「思い出したかの…?」
「あー、なんか雷に打たれたような、そんな瞬間の記憶が。」
「あの雷、ワシがやったんじゃ…。すまん。」
「え?」
何言ってんだこの爺さん。
呆ける俺の目の前で爺さんが土下座している。
え?雷って、え?
思考回路が追い付かない。
「申し訳ありませんでしたね人の子よ。」
不意打ちをかけるように後ろから声がしたので振り返ると天女のような羽衣を纏った神々しい女性と…
その足元に黒焦げた男女が現れた、しかも正座で。
「私はそこの無能爺の妻、メリュスと申します。この度はとんだご迷惑を…。」
虫けらを見るような視線を爺さんに向けつつ恭しく女性は頭を下げてくる。
ずいぶん若々しくて綺麗な女性だが、この女性が爺さんの奥さん!?
というか待てよ!?この人もウチに客で何度か来てたな?滅茶苦茶美人だったからモデルがお忍びで来てたのかと思ってたんだが。
「お気付きになられたようですね、私あなたの作るお料理、結構気に入ってましてね。」
「どうも、ご愛顧いただきまして。しかしお二人がご夫婦だったとは…。」
「えぇ、しかしあなた程の人間をうっかりで死なせるとはとんだゴミクズ無能爺、身内の恥ですわ。」
確かこの奥さん外見からは想像できないぐらいよく食うんだよな。
しかも揚げ物が大好きで、この人が来るとずっと揚げ物を揚げ続ける羽目になるからよく覚えてる。
爺さんの頭に言葉の矢がどんどん突き刺さっていく。というか本当に矢が刺さってるように見えるんだけど爺さん大丈夫か。
「しかし、元をたどればこの子達が仕事をサボってあなたのお店で飲んだくれていた挙句、他神の世界で喧嘩を始めようとしたことが原因。恥を知りなさい!」
傍らに座らされた二人に向けてメリュスを名乗る女性が叱責する。
よく見れば座らされている二人はさっきまで俺が相手をしていた常連の客だ。
あっちには美味いもんがないだとか、お互いの仕事がどうだとかでクダをまいた挙句いきり立って取っ組み合いの喧嘩を仕掛けていた件の二人組だ。
「しかし母上!」
「だまらっしゃい!」
男が反論した瞬間ピシャァン!と閃光が降り注いだ。
「うわぁ…。」
思わず間抜けな声が漏れる。
この閃光は恐らく俺が目撃した雷だが本当に落ちてきたよ。
さっき爺さんが言ったことの信憑性が増したな
閃光が過ぎ去るとより黒さを増し、プスプスと煙を上げる男が悶絶していた。
「ガリノスは母上に口答えするなんて本当にアホねぇ、だから天罰食らうのよ。」
「ミーミス貴様!愚弄するか!」
そして奔る閃光×2本
何なんだろうこの空間、コントみたいに思えてきた。
しかし何だか話が読めてきたような気がするな…
メリュスとそのほか2人はエスカレートしてきているので放置プレイをかまされている爺さんに質問する。
「なぁ爺さん。」
「なんじゃ?」
「爺さんたちって神様だったりする?」
「そうじゃ、お主の住んでいた世界とは別の神じゃがな。」
「別世界?」
「うむ。ワシらの世界では人間達の食文化が醸成しておらんでな。お忍びで世界を跨いでお主の店に行っておったのじゃ。」
お客様は神様ですなんて言葉があるが本当に俺が相手にしてたのは神様だったのか。しかも4人…いや4柱っていうのか?しかしこれで合点がいった。
「つまり俺はこれに巻き込まれて死んだってことかい爺さん?」
「その通りじゃ…。こ奴らずっとこの調子でワシが天罰を落としたんじゃが、その時にお主を巻き込んでしもうたのじゃ…。」
はぁー…。なんてこった。とんでもない死に方だな。レアすぎて生きてたら自慢したい話だ。神様のうっかりで死にましたってな。
しかしなぁ、世の中の物を食い尽くすという俺の夢も道半ばで途絶えてしまった。
もっと屋台を引いて色々な国をめぐって料理を作りたかった。
がっくりと肩を落とし、地べたに胡坐をかく。
「そうか、死んじまったか…。んで爺さんこの後俺はどうなるんだ?」
「普通は輪廻転生のレールにのってお主の世界で新たな生命として産声を上げることになる。」
「本当に死後ってそんな感じなんだなぁ。しゃーねぇ。」
「そこでなんじゃがな。」
死んでしまったものはしょうがないと腹を括ったところで爺さんが口を挟む。
「お主、この世界ではなく我々の世界に来ぬか?」
「どういうことだ?」
ニカっと歯を見せつつ爺さんは笑った。
「異世界転生というやつじゃよ。」