Awake:84 魔女討伐作戦
デール帝国の王城にある謁見の間。
俺達勇者パーティー全員は、ゼウルス陛下から呼び出しを受けていた。
「久しぶりだな、ゼウルス。随分老けたじゃねーか」
「お主もな、エルザール。まさか隠居したお主が、魔女討伐に参加してくれるとは思わなかったぞ?」
「ははっ、世界の危機だって時に隠居したままじゃ、この『剣聖』の名が泣くってもんだろ?」
ゼウルス陛下のその言葉に、笑いながら軽口を叩いたのは俺の師匠である『剣聖』・エルザールだ。
陛下相手に気安く接すること自体無礼にあたる行為なのだが、昔からの知己である師匠にとってはこのやり取りこそが普通なのだろう。
ところで、俺達がこの場に呼び出された理由だが、それは勿論後一週間にまで迫った魔女討伐作戦に関することだった。
おそらく旧エルタシア王国への侵攻するにあたっての最終確認をするのだろう。
「それでは、ここからは陛下に代わって私がお話しさせて頂きます」
そう言ったのは、陛下の側に控えていた宰相のワーグナーだった。
相変わらず影のような風貌の彼は、俺達に向かって話し始めた。
「勇者パーティーの皆様にこうして集まって頂いたのは他でもありません。改めて魔女討伐作戦についての概要を説明するためです」
後一週間にまで迫ったこの作戦。
失敗が許されない【終わりの魔女】討伐について、ワーグナーはその作戦概要を口にした。
「まず作戦の前段階として、勇者パーティーの皆様は第一陣の連合軍と共に、結界によって覆われた旧エルタシア王国領内に侵入してもらいます」
そう言って、宰相は謁見の間に一人の男を招き入れた。
俺達に向かい合うように立った人物は、帝国軍の軍服を身に付けた中年の男性だった。
「紹介します。彼こそは今回の第一陣の連合軍において、連合軍および帝国兵の代表として指揮を任せます、ベックフォード大将です」
ワーグナーに紹介され、彼は俺達に向かって会釈をする。
「ブライアン・ベックフォードでございます。この度、連合軍の指揮を任されることになりました。私の役目は、勇者パーティーの皆様を魔女の元まで無事に送り届けることだと認識しております。その為にはどんな労も惜しまぬつもりですので、どうかよろしくお願い致します」
ベックフォード大将は見た目からして、いかにも軍人といった男性だ。
赤毛の短髪に彫りの濃い容貌。
年齢は五十代後半ではあるが、大きなその肉体は軍服越しにも見てとれる程に筋骨隆々である。
しかし彼はその見た目と反して、どこか人懐っこい爽やかな雰囲気を持つ感じの人物だった。
「こちらこそ。ベックフォード大将、道中お世話になります」
「お任せ下され、アイク殿」
俺の言葉に大将は大きく頷きを返した。
連合軍を率いる以上、彼は魔女討伐作戦における重要人物だ。
エルタシア王国へ向かう道中でも、大将の力を借りることになるだろう。
そんなベックフォード大将の紹介が終わり、ワーグナー宰相の話しは再び討伐作戦の内容に戻った。
「現在【終わりの魔女】は旧エルタシア王国領を結界で取り囲んでおり、その内部がどうなっているのかは情報不足の為、ここからの作戦はあくまで仮定のものになります。つまり皆様には、結界内の状況に応じて柔軟に動いてもらう必要があります」
「つまり、アドリブってことだな」
ラッシュがそう口にした。
結界内部は未知の領域だ。
中がどうなっているのかは、入ってみなければ分からない。
もしかしたらかつてのエルタシア王国とは全く別物になっている可能性だってある。
「一応の進軍経路ですが、帝国領と接する地点の結界から、連合軍を旧エルタシア王国領内に侵攻させます。そこから結界内がかつての王国の地形と変わらなければ、そのまま連合軍を南へ進軍させていきます」
ワーグナーの言うとおり、広大な領土を持つデール帝国は旧エルタシア王国とも隣り合っている。
連合軍はその国境から、結界に覆われた旧王国領へ侵入することになるという。
ワーグナーは説明を続けた。
「まずは旧エルタシア王国の王都・アロンヘイムに侵攻するのが妥当でしょう。エルタシア王国は小国です。領土内には幾つか村がある程度で、主要な都市はこのアロンヘイムしか存在しません。つまり【終わりの魔女】は、この都市を拠点としている可能性が一番高いと考えられます」
「旧エルタシア王国の王都か……」
俺は静かに言った。
アロンヘイムは王国唯一の都市らしい。
周辺に村くらいしか無いのなら、宰相が言うようにここを魔女が拠点にしている可能性は高い。
「魔女の保有する戦力が不明ではありますが、王都全体を多数の兵で取り囲み、攻城戦を仕掛けるのが定石でしょうな」
ベックフォード大将はそう戦い方を口にした。
都市の中で守りを固める相手には、攻城戦によって攻め落とさなければならないようだ。
すると、ワーグナーが俺達に言った。
「籠城する相手に対して攻城戦を仕掛けるとなると、たとえ連合軍の兵数だろうと一筋縄ではいきません。ですから、勇者パーティーの皆様はどうにかして都市内に侵入して下さい。そして、何としても魔女の首を落とすのです」
そんな彼の言葉に、ラッシュが苦笑を浮かべた。
「それもアドリブってことかよ。簡単に言ってくれるぜ……」
確かに言うだけなら簡単だ。
しかし結界内の状況も、魔女側の戦力も分かってはいない。
城に潜入するにしても、完全にアドリブになってしまう。
かなり臨機応変に動かなければならない。
「潜入か……。攻城戦は連合軍に任せるとして、どうやって中に入るかだな」
「そうですね。魔女が支配する都市なら、中への侵入を簡単に許すとは思えませんし……」
俺とティアナは共にそう思案した。
連合軍が魔女の戦力を足止めしてくれるとしても、俺達勇者パーティーはどうやって侵入するのか?
すると、俺の横でアミィが言った。
「アイク様、都市内への侵入は私達情報部にお任せ下さい。連合軍と共に情報部の工作員も数人動向する手筈となっていますので、彼等と共にどうにかして都市への侵入経路を探してみせます」
「帝国軍の情報部か……。随分優秀みたいだが、本当に大丈夫なのか?」
彼女にそう尋ねたのは、しばらく黙っていた師匠だった。
「エルザール様、私達情報部の者は潜入等の任務は手慣れております。たとえどんな状況だろうと、必ずアイク様方の道を切り開いてみせます」
「ほぉ……余程の自信だな。何か当てでもあるようだが?」
「……当てなどありません。ただ、潜入に使えるかもしれないアイデアがあるだけです」
目を細めたエルザールに対し、アミィは厳粛にそう答えた。
どうやら彼女には、潜入に関してのアイデアがあるようだ。
そもそもアミィは、帝国軍でも諜報を担当している情報部に所属する精鋭である。
ここは仲間として、彼女を信じるべきなのかもしれない。
「アミィがそう言うのなら、王都の中への潜入は情報部に任せる。どうにかして魔女の元へ俺達を辿り着かせてくれ」
「頼みましたよ、アミィ」
俺とティアナの台詞に、彼女は真剣な表情で頷いた。
「はい。任せて下さい。私も勇者パーティーの一員として、必ずやお役に立ってみせます!」
その力強い言葉に、俺はアミィの熱い思いを感じた。




