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天才魔術師の私が、異世界から勇者様を召喚するまで  作者: 楚々園 ゆるぎ
八章 運命を変えよう!

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Awake:83 剣聖の懺悔②

「『紅剣(こうけん)』・ネルファ――それが死んじまった弟子の名前さ」


 師匠は悲しげなトーンで、その名を口にした。

 そして師匠は、ネルファという人物との過去を俺に語り初めた。


「俺がネルファと最初に出会ったのは、今から二十年以上前のことだ。当時の俺には、大親友ともいえる一人の爺さんがいた。その人は帝国の端の小さな領地を治める貧乏貴族でな、俺と爺さんは会っては一緒に酒を飲み交わす程の仲だったんだ」


 およそ二十年前の親友。

 師匠はその人物の話を続けていった。


「元々その爺さんは腕の立つ騎士で、俺とは何度も戦場で背中を預け合った戦友でもあったんだ。俺は暇があれば爺さんの家を尋ねていたさ」


 騎士が戦場での手柄によって、陛下から小さな領地を賜ることは珍しくはない。

 しかしその場合、貴族と言っても名ばかりで、生活は普通の市民と変わらないものである。


「そこであいつと――ネルファと知り合ったんだ。爺さんの可愛い孫だってことでな。その時はまだ、あいつはまともに言葉も喋れねえ程小さかったが……。けど出会ったその時には既に、ネルファの両親はとっくに死んじまっていた。母親はあいつが産まれて直ぐに病気でな。父親の方は、ちょうど始まったばかりの戦争で敵兵に殺されちまったんだ」


「……」


 師匠の口振りからも、その戦争は今から二十年程前起こった戦争のことだろう。

 資源を巡る領土問題のいざこざから、帝国とその幾つかの隣国との間に起きた戦いだ。

 そして、その戦争は【終わりの魔女】の出現に伴い、急遽として国家間で休戦協定が結ばれ終了した経緯を持つ。


 ネルファという人物は、物心つく前に両親を失っていたのである。

 母親は病死、父親は戦争の犠牲となって。


「両親が死んじまっていた一人孫のネルファを、爺さんは大切に育てていたさ。お転婆で男勝りなところもあったが、あいつは順調に大きくなっていった。そんであいつが七つになった頃、遂にその爺さんが寿命でポックリ逝っちまったんだ。


 ネルファには、爺さんの他に親族はいなかった。つまり七歳で天涯孤独になっちまったってわけだ。ただ、爺さんは死ぬ前に俺宛に遺言を残していた。なんと俺に『孫を頼む』ときたもんだ。俺はずっと独り身だったからな。その時はかなり困っちまったんだ」


 そう言って、師匠は笑ってみせた。


「それでその人を引き取ったんですか?」


「ああ、引き取ったさ。独りになった親友の孫娘をそのままにしちまうのは、流石に忍びなかったからな」


 俺の問い掛けに、師匠は懐かしむように答えた。

 そして穏やかに目を細め、相変わらずその視線を揺れる炎に向けている。


「結局師匠はそのネルファさんを引き取って、自分の弟子にしたんですね?」


「まあそうだな。ただ最初は弟子というよりは、暇潰しのような感覚で剣を教えてやっていた。俺は小さい頃から剣を振っていたからな。それ以外の子供の遊びなんて、ちっとも分からなかったんだ」


 ずっと独り身の師匠にとって、子供の扱いなんてまるで分からなかったのだろう。

 だからこそ、師匠はネルファさんに剣を与えてしまったのだ。


「けどな、ちょっと剣を教えて見て、俺は気付いちまったんだ。こいつの才能は、俺を軽々超える化け物だと。そんな風にな……」


「……」


 俺は黙って聞いている。

 ただ、師匠の声音が震えていることはとっくに気が付いていた。


「そして俺はネルファに言っちまったんだ。『俺の弟子になれ』ってな。『そうすればお前の父親を殺した奴らにも復讐出来るぞ?』なんてことも囁いて、俺はあいつを半ば無理矢理剣の道に引きずり込んだ」


 戦争で他国の兵に殺された父親の話を出してまで、師匠はネルファさんの復讐心を煽った。

 その行為は純粋に、自分の弟子になる口実を与えるためだったのだ。


「その時の俺は、ただあいつの才能が行き着く先が見たかった。俺が積み上げてきた剣の技が、俺以上の才能で研ぎ澄まされるところが見たかったんだ。そしてそんな俺のエゴが、あいつの人生を狂わせた」


「……後悔しているんですね」


 俺がそう口にすると、師匠はコクリと頷いた。


「してるさ。もしあの時の自分に会えたのなら、有無を言わせず叩き斬ってやろうと思うくらいに」


 かつての自分への後悔。

 兄弟子の物語の結末は、一体どんなものだったのだろうか。

 ここまで聞けば、自ずと最後が気になってしまう。

 俺はヤケ酒を煽る師匠を黙って見守り、話の続きを待った。


「ネルファを弟子にして、数年が経った。そん時はまだ帝国は戦争の真っ最中。そんな状況で、あいつは女だてら十五歳で戦場に立った」


「え? ちょっと待って下さい! ネルファさんって女性だったんですか!?」


「今更か! 可愛い孫とか、男勝りだったとか言ってたろ!」


 俺の言葉に、師匠はそう声を上げた。

 驚いた。『剣聖』の弟子というから、てっきり男性という先入観があった。

 ネルファさんが女性だとすると、俺にとっては兄弟子ではなく姉弟子ということになる。


「ネルファは口調もそうだが、性格的には全く女らしいとこは無かったな。ただ母親に似たんだろう。帝国でも指折りの美人だったさ」


 師匠の言葉は、弟子に向けるものよりは実の娘に向ける父親の台詞のようだった。

 きっと師匠は彼女の事を、大切な娘として愛情を持って育ててきたのだろう。


「戦場に立ったネルファは強かった。何せ俺が鍛え上げたんだからな。戦場で幾つもの手柄を上げ、あいつはとんでもないスピードで出世していった。そしてネルファはいつしか『紅剣』という異名で呼ばれるようになり、名実共に帝国最強の騎士となった」


 かなり国土の広い帝国で、最強の称号をたった十代の少女が手にする。

 それはどう考えても異常な出来事だ。


「田舎者のお前じゃピンと来ないかもしれないが、『紅剣』の名は相当有名だぞ? 一人で敗色濃厚な戦況を覆し、何度も敵軍を壊滅させた英雄として各国に恐れられていたからな」


「そんなに凄い人だったんですね……」


 田舎暮らしをしていた子供の俺は、世間の出来事にあまりにも無関心だった。

 けれども『紅剣』の名前くらいは聞いたことがあった。

 それは無関心の子供にすらも、自然と耳に入ってしまう程の人物だったということだろう。


「戦場に立ち続けたネルファは、すぐに国の英雄になった。いつ死ぬのかも分からない戦場を幾つも経験し、そこで敵兵を殺し続けてな……」


「師匠は彼女に戦場に行って欲しくはなかったんですね?」


「当たり前だ。誰が大切な家族を戦場に送りたいと思う?」


「……」


「けどな、俺はあいつに行くなと言えなかった。そもそも剣を教える為に、あいつの復讐心を煽ったのは俺自身だ。どの口で戦場に行くなと言える?」


 師匠は彼女の中に、自分以上の才能を見た。

 そして自分のエゴの為に、彼女を剣の道に引き込んでしまった。

 皮肉なことにそれが師匠の心を苛むことになったのだ。


「でもな、あの時の俺は楽観していた。ネルファは誰にも負けない。あの圧倒的な力の前では、権力すらも屈服するとな。何せ十八歳になったあいつは、全盛期の俺よりも強くなっていたんだ」


 しかし、それは大きな間違いだった。

 そう一言挟んで、師匠は改めて口を開いた。


「【終わりの魔女】が現れ、各国の間に休戦協定が結ばれる少し前のことだ。『紅剣』としてネルファは自分の部隊を率いて、いつものように戦場の最前線に駆り出されていた。その戦況は優勢。だが、そこに万を越える敵の増援が現れた。しかも、帝国軍の退路を断つようにだ。何でそんな劣勢になったのかは分からねえ。けどな、帝国軍には油断があったのは確かだ。自分達には『紅剣』がいるから安心だろうという油断がな」


 数万の敵軍に包囲される。

 その状況は、いくらなんでも絶望的だ。


「それでどうなったんですか……?」


 俺はその先を、恐る恐る尋ねた。

 すると、師匠は言った。


「帝国軍本隊はほぼ無傷で包囲を突破し、本隊の総司令も無事だった。ただネルファ自身とネルファが率いていた部隊だけは、唯一その場で殿(しんがり)を務めた。そして、誰一人として帰っては来なかった」


「……」


 言葉が見つからない。

 師匠も顔を俯かせていた。


「ネルファは身代わりになったんだ。後で本隊の将校に聞いた話では、一人でも多くの兵を守る為に、あいつ自ら志願して殿を務めたらしい。でもな、いくら一騎当千と言っても、あいつだって人の子だ。立て続けに万を超える兵と戦い続けるなんざ、到底不可能に決まってる」


 そうだ。

 たとえ『剣聖』を超える実力を持っていたとしても、人間である以上いつかは限界が訪れる。

 万を越える敵兵と戦うなんて、勇者である俺でも流石に厳しい。


「それで……ネルファさんは亡くなったんですか?」


 俺のその質問に、師匠は俯きながら首を振った。


「分からねえ。結局その戦場からは、ネルファの死体は発見されてないからな。まあ一切音沙汰が無いことからも、あいつが死んじまったことは間違いないだろうな……」


「そうですか……」


 師匠の口から漏れたのは、彼女が生存している可能性への諦めだった。

 無理もないだろう。

 戦場では身元不明の死体も少なくない。

 それに数万の兵力を相手に、個人で抗える程現実は甘くはないのだ。


「ネルファはあの戦いで死んだ。ただ、その戦いが終わった後、その場には万を越える敵兵の死体が転がっていたらしい。……つまり、あいつは最期まで戦ったのさ。本当に凄えよな。たった一部隊で、数万の敵軍を半ば壊滅に追い込んだんだ」


「師匠……」


 師匠が酒を飲む手は、とっくに止まっていた。

 目の端に滲んだ彼の涙は、その頬をゆっくり伝っていった。


「俺はとんでもない馬鹿だったんだ! 自分を超える剣を見てみたいだなんて下らない理由で、友人の孫娘を戦場に送り、殺しちまった……!!」


 師匠は泣き崩れ、拳を固い地面に叩きつける。

 何度も、何度も――。


「すまない、ネルファ……! 俺を、俺を許してくれ……!」


 酒の入った師匠の懺悔は、それからしばらく続いた。

 弟子を戦場に送り、帰らぬ人にしてしまった後悔。

 師匠はその感情を抱えたまま、俺を弟子にした。

 だからこそ最初は俺を拒み、弟子入りを諦めさせるような強い態度を見せていたのだろう。


 俺はふと想像してしまった。

 もしネルファさんが生きていたら、姉弟子として俺にどう接してくれたのだろうか。


「師匠、ネルファさんのことを話してくれてありがとうございました」


「……礼なんてするな。俺が一方的に話しておきたかっただけだ」


 落ち着いた師匠は、素っ気ない口調でそう言った。

 そして彼は空に浮かぶ月を仰いだ。


「アイク、俺はもう弟子が死ぬなんてことは御免だ。だから、お前は絶対に生き残れ。魔女を倒した後の世界に、お前はまだ必要だ」


 師匠はかつての弟子、ネルファさんを喪った。

 絶対に生き残れという師匠の言葉は、とても強く俺の心に響いた。


「……はい。魔女を倒した後、またこうして会いに来ますよ」


 魔女討伐を終えたら、師匠とまたこうして話そう。

 そんな事を思っていた俺だったが、それに師匠が怪訝な声音で口にした。


「アイク、お前何言ってんだ? 俺もお前に着いていくに決まってだろ?」


「……え? ええ!? 一体どういうことですか?」


 師匠の言葉に、俺は仰天した。

 思考が上手くまとまらない。

 着いていくとは、一体どういう意味なんだ?


「だから、俺もお前と魔女討伐に着いていくって言ってんだよ。今までの話を聞いて、なんで弟子が死ぬかもしれねえ戦場に行くのに、俺は黙って見送らねえといけねえんだよ!」


「師匠……」


「断っても無駄だぞ。俺は頑固なジジイなんだ。弟子が死ぬのはもう見たくねえ。だから、俺に守らせろ。お前が生き残れる未来ってのをよ」


 こうして俺の勇者パーティーに新たな仲間が加わった。

 大陸最強の剣士――『剣聖』・エルザール。


 まさか師匠が魔女討伐に着いてきてくれるなんて思いもしなかった。

 老いていようと、師匠はあの『剣聖』だ。

 師匠が俺達の仲間に加わってくれるのは、とても心強かった。

◆エルザール 60代以上?

・お爺さん

・白髪の長髪。長い髭。

・まるで浮浪者のようなボロボロの古着を着ている。

・かつて大陸最強の剣士と呼ばれた『剣聖』。

・七聖剣の一つ、デュランダルを所持。

・ネルファ、アイクの師匠。

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