Retrace:79 誕生日①
今日は何の日でしょう?
実は私の十六歳の誕生日なのです!
「それでは今から、姫様の誕生パーティーを始めます」
進行役のセレンは、私達の前でそう宣言した。
パチパチとネルファが横で拍手をしている。
拍手してるのが一人だからか、少し寂しい感じもしなくもない。
でも、この部屋で誕生会に参加しているのは、私とセレン、ネルファ、そしてラムだけだから仕方ないのだ。
私と部下達だけの誕生会。
身内だけでのパーティーは気兼ねなくて良いと思う。
ちなみにこの場に唯一いないリッカだが、彼女は今日欠席するという話である。
仕事が忙しいらしいので、残念だけど仕方ない。
「はぁ……また歳をとっちゃったわ。こうして勇者召喚が出来ないまま、私はどんどんと若さを失っていくのよ……」
「まだ十六歳になったばかりなのに、一体何を言ってるのですか。その発言は敵を作りますよ?」
「別に本気で言ってるわけじゃないわよ。セレンは何を怒ってるの?」
「別に何も怒ってませんが?」
澄ました顔でセレンはそう口にした。
これは絶対何か言いたいのを我慢してる顔だ。
「何でもいいですが、誕生会の最初は夕食となっていますので、覚めない内に食べて下さい」
「はーい」
テーブルには、いつにも増して豪華な料理が並べられた。
作ったセレンの気合いが感じられる。
「さあ姫様、召し上がって下さい」
「わーい!」
料理の見た目で分かる。
これ絶対美味いやつだ!
私達は皆でセレンの作った勇者を堪能した。
相変わらず彼女の料理は美味しかった。
しかし、誕生日に限ってはそれらの料理は前菜に過ぎない。
メインとなるのは、これから登場するデザートなのだ。
私が期待して待っていると、そこそこ大きなホールケーキがテーブルの上に登場した。
セレンが運んできたこれは、どうやら私の為に作られた特製のバースデーケーキのようだ。
「かなり立派なケーキね」
「はい。腕によりをかけましたから」
このケーキの上には火のついた蝋燭が十六本差してある。
これぞ誕生日ケーキの醍醐味だ。
「それでは姫様、蝋燭の火を吹き消して下さい」
「分かったわ」
「頑張って下さい、ノルン様!」
ネルファの声援を受けながら、私はケーキに顔を近付けた。
そして、息を吹き掛ける。
「ふー! ふー!」
「ノルン様、まだ消えてません! 頑張って下さい!」
「ふーッ! ふーッ!」
「まだです! もっとお腹に力を込めて!」
ネルファがうるせぇ。
けど、火は一本も消えていない。
今以上に強く風を送らないと消えないようね。
これは本気で息を吹き掛けないと。
「ぜぇ……ぜぇ……蝋燭、全然消えない……!」
開始から数分経った。
けれど、未だに十六本の蝋燭の火が全然消えてない。
「姫様の肺活量はゴミですか?」
セレンが冷たい目で毒を吐いてくるが、今は反論する体力も無い。
息切れが凄くて肺がキリキリするわね。
「ああもう!」
私はやけっぱちに叫び、蝋燭に向かって手を翳す。
手のひらから魔術による風が発生し、私はケーキに乗った蝋燭の火を一つ残らず吹き消した。
「さあ、これで蝋燭の火は全て片付いたわ。さっさとケーキを食べましょう」
私がそう言うと、セレンは何か言いたげな顔をするも、大人しくケーキを切り分けてくれた。
やっぱり魔術で蝋燭の火を消すのはルール違反だったかしら?
まあ気を取り直して、目の前に配られたケーキに集中しよう。
セレンが作ってくれたホールケーキは、たっぷり純白のクリームが塗られていて、とても贅沢な逸品だ。
目の前に配られたそのケーキを前に、ネルファが嬉しそうに言った。
「いやーノルン様の唾液が吹きかかったケーキを食べられるなんて、部下として身に余る光栄ですね~」
「……」
今さらっとネルファの口から気持ち悪い発言が聞こえた気がしたんだけど?
でも確かに蝋燭の火を消す過程で、私の唾液が無意識に飛び散っているという可能性は大いにありうる。
今まで意識したことなんて無かったけど、誕生ケーキに立てた蝋燭の火を消す行為って……。
や、やめるのよ私! これ以上考えては駄目!
考えたら最後、二度と他人のバースデーケーキが食べられなくなるわ!
よし。聞かなかったことにしましょう。
誕生日に変な事だけは考えなくないわ。
今はもうセレンの作ってくれたケーキの味だけに集中する時間よ。
私の為に作られたバースデーケーキは、まさに至高の味わいだった。
本当に頬っぺたが溶けて無くなりそうなくらいにね。
◆
美味しいケーキを食べ終えたところで、次なる誕生日イベントが始まるようだ。
「では、ここからは我々から姫様へのプレゼント贈呈に移らせて頂きます」
進行役のセレンがそう告げる。
どうやら次は、部下達から私の誕生日プレゼントを贈るというプログラムらしい。
「では、まず最初は私の方から」
どうやらセレンが一番にプレゼントをくれるらしい。
どんな物をくれるのかしら?
「どうぞ、姫様。これが私からのプレゼントになります」
ワクワクする私に、セレンはそれを差し出してきた。
そのプレゼントを手に取った私は、そのまま首を傾げる。
「これはメイド服?」
「はい、私とお揃いのメイド服です。サイズは姫様にピッタリですので、煮るなり焼くなりお好きにして貰えれば結構です」
「別に煮たり焼いたりなんてしないわよ。服だし」
けど、お揃いのメイド服かぁ~。
セレンから貰ったメイド服は、彼女が今着ている物と殆ど同じである。
フリフリじゃなくてロングスカート。
黒を基調とした地味だけど、奥ゆかしさを感じさせるデザイン。
やっぱりメイド服はこうじゃないと。
正直用途には困るけど、メイド服自体は好きだし悪くないプレゼントね。
「着る機会があるのかは謎だけど、ありがたく貰っておくわ」
私はそうセレンに言った。
姫の私がメイド姿になるなんて、そうそう無いでしょうけど。
さて、次はネルファの番だ。




