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天才魔術師の私が、異世界から勇者様を召喚するまで  作者: 楚々園 ゆるぎ
七章 転移魔術を作ろう!

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Retrace:78 転移魔術の簡略化

 私が作った転移魔術。

 試した回数こそは少ないが、ほぼ完成したと捉えていいくらいの出来だと思う。

 そんな私の魔術に対して、セレンは説明を求めてきた。


「私は直接この目で地下迷宮にあった転移の魔法陣を見ています。あの術式と姫様の転移魔術では、具体的にどう違うのですか?」


 セレンの質問に、私は答えた。


「どう違うかなんて、一目瞭然でしょ? トワリアル地下迷宮の転移の魔法陣なんかより、私の作った転移魔術の方が圧倒的に簡単なのよ」


 転移魔術というものは、基本的に規模の大きい術式が必要だった。

 トワリアル地下迷宮に設置された転移魔術が、大きな魔法陣で描かれていたことからもそれが分かるだろう。


 けれど、私はそんな転移魔術をより簡略化した。

 具体的に言うと、魔法陣を描かなければ使用出来なかった術式を、私は手のひらの規模でも使えるようにしたのだ。


「昔、勇者様が私に言っていたわ! 人類の進歩において、全ての物事はより小さく、より簡単にすることが大切なのだと!」


 人類は昔、火を起こすこともやっとだった。

 しかし今では火を起こすことなんて誰でも出来てしまう。


 それは何故か?

 その理由は、火起こしを簡単に出来るようにしたからだ。


 人類の進歩は簡略化の歴史である。

 勇者様は昔、私にそう教えてくれた。


「大きいものは小さく。難しいことは簡単に。それを目指した結果出来上がったのが、さっき見せたあの転移魔術ってわけ」


 どう?

 これで凄さが伝わったかしら?


「私はもう魔法陣を描くことなく、いつでも転移魔術が発動出来るわ。それに私が教えれば、貴方達も使えるようになる筈よ」


「それは本当ですか?」


 セレンの言葉に、私は頷いた。


「ええ、勿論よ。私はそれほど簡単な転移魔術を作ったってわけ」


「す、凄いです、ノルン様!」


 ようやく理解してくれたネルファが、今更私を褒めてくる。

 もう少し早く褒めてほしかったけど、彼女の称賛は素直に受け取っておこう。


「ここまでの説明で大まかにでも、この転移魔術がどれだけ優れた術式なのかは理解出来たでしょ? それで二人にお願いがあるんだけど、ちょっと今からある実験に付き合ってくれないかしら?」


「どんな実験でしょうか?」


 セレンの質問に、私は説明を返した。


「実はこの転移魔術ってね、ついさっき完成したばかりなの。それでね、今から二人に手伝って貰いたいのは、生き物をちゃんと転移させられるかっていう実験よ」


「まさか私達で人体実験をするおつもりですか……?」


 ネルファの顔が若干引き吊っている。

 どうやら私の実験台にされるのが嫌らしい。


「何よ? もしかして私の実験に協力するのが不満なの?」


 私がそう問い掛けると、ネルファはオドオドしながら答えた。


「いえ、不満というわけではありませんが、もし転移が失敗した場合、どうなっちゃうんですか?」


「転移が失敗した場合……ね。やったことが無いから分からないけど、もしかしたら胴体が壁とか地面とかにめり込んだりするんじゃないかしら?」


「……」


 自分の胴体が壁にめり込んだ姿を想像したのか、ネルファが真っ青な顔をしている。

 一方で、セレンの表情は特に変化はない。


 けど、転移魔術が失敗する状況ってあまり想像しにくいわね。

 失敗した場合どうなるかも、しっかり実験してみないと。


「あの、姫様」


「セレン、どうしたの?」


「一つ提案なのですが、生き物の転移を試すのなら、別に私達でなく、それこそラムの分裂体でも構わないのではないでしょうか?」


「まあそうね。確かに貴方達を危険に晒すのは、私も本意では無いわ。良いわよ。セレンの提案を受け入れて、転移させるのはラムの分裂体にしましょう」


 ラムの分裂体を使えば、セレンやネルファを危険に晒す心配は無い。

 まあ元より彼らを実験台にしようなんて、私はこれっぽっちも考えてなかったけど。

 こうして私達は、実際に生き物を転移させられるかの実験を開始した。



 ◆



 今日一日を丸ごと使い、転移魔術の実験は無事終了した。


「お疲れ様、二人とも。急に手伝って貰ったけど、お陰様で必要なデータを集められたわ」


 基本的に私は魔術の実行係を務め、セレンとネルファには結果の観測係を務めてもらった。

 彼らの協力のお陰で、私の作った転移魔術はその実用性が確かめられた。


「ラムもありがとね」


 小さな分裂体を何匹か出してくれたラムにも、私はしっかりお礼を言った。

 ちなみに自分の分身のような存在が実験に使われることに対して、ラムは全く気にしていないようだった。

 前もそうだったが、スライムの価値観は人とはちょっとだけ違うみたいだ。


「しかし、今日は色々なシチュエーションで転移魔術を使ったけど、どんな形であれ術者が目的地さえ認識すれば、じかに触れた物をそこまで転移させられると分かったわね」


「そうですね。姫様が遠見の魔術で見た場所にも転移されられたことからも、かなり幅広い用途で使えそうな感じです」


 私の言葉に、セレンはそう言った。

 私の作った転移魔術の発動条件は簡単だ。


 第一に、転移させたいモノに術者が触れていること。

 第二に、転移させたい地点を術者が認識していること。


 大まかにこの二点さえ守れば、転移は安全に行える。

 それが何度も魔術を試行した結果に残った結論だ。


「ラムの分裂体も無事に転移させられたし、生き物だろうと普通の物と変わらず転移は出来るみたいね」


 生き物の転移は成功した。

 これでこの転移魔術が、私の求めていた水準に達していることが分かった。


 ネルファが言った。


「しかし、意外でしたね。まさか転移先を地中にすると、魔術自体が正常に機能しないなんて」


「そうね。てっきり土の中にそのまま転移しちゃうと思ってたけど、そこは予想外だったわ」


 ラムの分裂体を地中に転移させようとしたけど、そもそも魔術自体が上手く働かなかった。

 これで分かったことは、転移が失敗しても何かにめり込むことは無いということだ。


「目的地の地点をしっかり設定しても出来なかったってことは、単純に密度の高い物質を押し退けて転移は出来ないってことよね」


 多分だけど転移という行為は、ポケットから物を取り出すようなイメージなんだろう。

 空気は簡単に押し退けられるから、地上での転移は可能だ。

 けれど、土が集まっている地中の場合、ポケットから物を取り出そうとしても、土が邪魔でそもそも物を取り出せないんだろう。


「しかし、残念ですね。ナイフなどを相手の体内に直接転移出来れば、かなり強力な魔術だったんですが」


 セレンはそう残念そうに話す。

 発想はちょっとエグいけど、出来ないものは仕方ない。


「まあこれで、転移魔術はちゃんと完成したと言ってもいいでしょう。後は、この転移魔術を一体何と組み合わせれば、目的の勇者召喚が出来るのかよ」


 私の転移魔術が簡単な理由は、他の魔術と組合せることを前提に作ったからだ。

 これまでの転移魔術だとわざわざ魔法陣を描かなければならず、他の魔術と併用することは出来たとしてもかなりの手間が必要だった。


 しかし、この魔術が完成したことで、その問題は解決したことになる。

 今回のことは単なる一歩に過ぎないかもしれない。

 けれど先の遠い道のりの中でも、重要な一歩を踏み出したという感覚が私の心には確かにあった。

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