Retrace:74 私の魔術理論 その①
新章です。
※ノルン視点
どうも、ノルンです。
今現在、私は空間魔術の知識を改めて得るために、手当たり次第に資料を読み漁っています。
「ノルン様、空間魔術の本を幾つか見つけてきました」
「ありがとう、ネルファ。そこに置いておいて」
「分かりました」
そう言って、ネルファは私の側にドンと本を積み上げた。
それらは全てこの部屋から見つかった、空間魔術に関する資料である。
「ラム、ここにある本は全部目を通したわ。持っていって良いわよ」
私のその言葉に、従魔であるラムは無言で従った。
弾性のある身体を器用に使い、彼はその本達を持ち去っていく。
そんなラムの愛嬌を感じられる動作を横目に、私は再び読書に没頭した。
ここ最近は、ずっとこんな感じで本と睨めっこを続けている。
これも全ては独自の空間魔術を作り出すために必要な作業だ。
いくら天才の私でも、完全にゼロから理論を組み立てるのは骨が折れる。
そんな読書を続ける私の傍らでは、ネルファやラムがせっせと部屋に散らばっている魔術の本を整理してくれていた。
ちなみにセレンはというと、今はいつものメイド仕事をこなしている為ここにはいない。
「ネルファ、ラム、悪いわね。こんな面倒な作業を手伝わせて」
「いえ。どうせ警護も暇ですし、少しでもノルン様のお役に立てるのなら、このくらいのことなら幾らでもしますよ!」
ネルファは鼻息荒くそう答え、ラムも気にするなといった風に触手をヒラヒラと振っている。
彼らがそう言っているのだから、私もそこまでは気にはしない。
けれど、この部屋のガラクタの山から私の求めるような本を探すのは中々に大変な作業な気がする。
「ところで、ノルン様の部屋に沢山のガラクタがあるのは知っていましたが、何故こんなにも色々な本や道具があるんですか?」
作業の手を止めることなく、ネルファはそう私に尋ねてきた。
そんな彼女の質問に、私は答える。
「それはね、前に城の宝物庫や図書室から、手当たり次第に使えそうなアイテムや本をこの部屋に持ってきたからよ。道具や資料が揃っていれば、一々この部屋から出る必要が無くなるからね」
「なるほど。だから魔術の本や珍しい道具が沢山落ちてるんですね」
「そう言うことよ」
まあこの部屋に手当たり次第に持ち込んだはいいけれど、持ち込んだ量が多過ぎてガラクタの山と化しているのは悲しい現実だ。
結局この部屋にある物の中で、本当に実用的なものなんて殆ど無いだろうし……。
◆
しばらく時間が経ち、再びネルファが私に話し掛けてきた。
おそらく本探しに飽きてきたのだろう。
「そう言えば、オリジナルの転移魔術を作ると仰ってましたけど、そもそも新しい魔術ってどうやって開発するんですか?」
「どうやってかと聞かれると、少し回答に困るわね。具体的に決まった方法なんてないわ。色々やってると、何だかんだで新しい魔術が出来ちゃうのよ」
「……相変わらず凄いですね、ノルン様は」
何だか感嘆した様子のネルファ。
その顔は私を見てうっとりしている。
「確か以前私が教わった魔術も、ノルン様が自ら開発したものでしたね。でも、あれって普通の魔術と全然やり方が違いますよね?」
私の部下はネルファを含めた全員、特別な魔術を教えてある。
正確に言えば、魔術ではなくて魔術のやり方なんだけどね。
「そうよ。貴方達に教えた魔術は、私が独自に理論を組み立てて作ったもの。つまり、世界で私達にしか扱えない魔術体系よ」
私が普段から使っている魔術は、そもそも既存のものとはベースからして違うものだ。
そもそも基盤となる下地が違うのだから、私の魔術と一般的な魔術を同列で考えることは不可能である。
「自分で使っていてもとにかく凄いということしか分からないのですが、具体的に普通の魔術とどう違うんですか?」
「聞きたいの?」
「是非」
感覚派のネルファには不要だと思って、理論なんか全然教えて無かったわね。
そもそもこの子は体で覚えた方が飲み込みが早いし。
でも、聞きたいって言うのなら教えてあげましょう。
魔術は使えるけど詳しく無いってのは、ネルファが私の研究を手伝う上では困ることなのだ。
こうして唐突だけど、私による魔術の授業が始まった。
でも、私の魔術理論って難しいのよね。
ネルファに理解出来るかしら?
まあ取り敢えず説明してみるしかない。
ちゃんとネルファに分かりやすいように、じっくり丁寧に解説してあげよう。
しっかりついてくるのよ?




