幕間13 アイクの冒険
※アイク視点
トワリアル地下迷宮の探索を終え、俺はパーティーの皆と共にトキリス公国からデール帝国に帰還していた。
そんな帝国に戻った俺を待っていたのは、勇者としての多くの職務だった。
元々アミィからは、自由な時間はこの旅限りだと言われてはいた。
けれども、帝国に戻ってからの多忙さは、俺の想像を遥かに越えていたのだ。
そもそも勇者という立場は、魔女討伐における象徴だ。
そんなこともあって、様々な国の要人が毎日のように面会を求めてくる。
面会する相手は殆どが他国の使者だ。
同盟の盟主国である帝国までやって来た彼らとは、主に魔女討伐に関する協力の話をする。
当たり前だが、俺達に協力してくれる国は多い方がいい。
同盟諸国は元から協力を約束してくれているが、最近はそれ以外の国々からも使者がやってくる。
同盟に非加盟であろうと魔女との戦いに参戦することを望む国とは、帝国は積極的に交渉を行っている。
その重要な交渉の席に、俺は同席させられているのだ。
田舎者の俺にとって、堅苦しい面会の場は未だに慣れるようなものではない。
それでも姫であるティアナの助けもあって、何とか乗り越えられていた。
「何度やっても慣れないな……。敬語も時々噛みそうになるし……」
「ふふっ、それでも最初の頃よりはかなり様になってきましたよ」
面会が終わり、俺とティアナは並んで城の廊下を歩いていた。
そして廊下からちょうど中庭が見えるところまできた時、俺達に向かって手を上げてくる男がいた。
「よお、アイク。今日の面会は終わったのか?」
庭から大きな声でそう口にしてきたのは、トキリス公国で仲間になったラッシュだった。
そんな彼の元まで行き、俺は彼に尋ねる。
「ああ、ちょうどさっき終わったところだよ。ラッシュの方は軍の訓練に混ざってたのか?」
「まあな」
そう答えたラッシュは上半身を露出させており、かいた汗をタオルで拭いていた。
いかにも訓練していたところという感じだ。
そして、今思い立ったように彼は俺に言う。
「そうだアイク、これから俺と模擬戦でもどうだ? 軍の連中だと弱すぎてな。お前くらいじゃねえと、俺の相手は務まらねぇからよ」
ラッシュは冒険者の最高峰であるSランクだ。
そんな彼と互角に渡り合える人物は、さすがに軍の一兵には存在しない。
「模擬戦か……。そうだな。気分転換に一戦お願いするよ」
模擬戦をしようと言う彼の提案に、俺はそう承諾した。
「そうこなくっちゃな! さっさと訓練場に行こうぜ、アイク」
「ああ、分かったよ。それとティアナはどうする?」
「私は遠慮しておきます。お父様と少し話したいこともありますので。アイク、あまり無茶はしないで下さいね」
「善処するよ……」
「そんじゃあ、アイク。とっとと行こうぜ」
「ああ。ティアナ、また後でな」
「はい。また後で」
◆
ラッシュとの模擬戦は、王宮の一角にある訓練場を借りて行われた。
「あークソ……負けかよ」
俺の眼前で、ラッシュが片膝を地面に付きながらそう言った。
そして、彼は言葉を続ける。
「分かってはいたが、お前の『天賦の如才』っつう能力はとんでもねぇな……。日に日にその剣技に凄味が増してきやがる。今ならあのミスリルドラゴンにも一泡吹かせられるんじゃねーの?」
「それはどうだろうな」
俺は構えていた剣を下ろし、袖で額の汗を拭った。
自分でも分かる。
トワリアル地下迷宮の探索から帰ってきてから、俺は一段と強くなった。
俺の持つ『天賦の如才』の力は、あらゆる才能を持つというものだ。
要はどんな物事に対しても、人より何倍も上達が早いという能力である。
そんな『固有魔術』のお陰で、俺は自分でも驚くような速度で力を付けていた。
こうして時々模擬戦をするラッシュの動きも真似し、俺の戦闘技術は以前よりも格段に上がっている。
Sランク冒険者であるラッシュですら、最近は俺の動きについてこれないことが多くなってきた。
我ながらどんどんと人間離れしていく気がして、多少の恐怖はあるのだが……。
そんな事をぼんやりと考えていた時、俺の耳に涼やかな声音が響いた。
「アイク、ラッシュ、もう模擬戦は終わりましたか?」
ひょっこりと訓練場に顔を出したのは、模擬戦前に別れたばかりのティアナだった。
「ティアナ、どうしたんだ?」
俺がそう尋ねると、彼女は答えた。
「二人とも、お父様が呼んでいます。どうやら魔女討伐に関して、私達勇者パーティーに直接話したいことがあるそうですよ」
「話したいこと――か。ゼウルス陛下が直接俺達を呼ぶってことは、それだけ重要な話なんだろうな……」
「多分そうだと思います。とりあえず二人とも、身なりを整えて来て下さいね?」
「ああ、出来るだけ早めに向かうとするよ」
「分かったぜ」
俺とラッシュはそう頷き、模擬戦を切り上げることにした。
ゼウルス陛下のもとには、出来る限り早く向かうとしよう。
あの威厳ある風貌の陛下を待たせ過ぎるのは、この俺ですら怖いからな……。




