表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天才魔術師の私が、異世界から勇者様を召喚するまで  作者: 楚々園 ゆるぎ
六章 転移魔術を研究しよう!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/122

Retrace:71 最強のスライム

 私はいつも通り自室で、今日も研究に勤しんでいた。

 私が今手にしているのは、セレンが持ち帰ってきてくれた調査資料。


 それはトワリアル地下迷宮の十層にあった、転移の魔法陣に関するものだ。

 私は早速、その資料に目を通していた。


 流石セレンだ。

 転移の魔法陣に関して、調査内容に一切の漏れが無い。

 術式はそっくりそのまま書き写してあるし、魔法陣の特徴などの要点は全て見やすくまとめてあった。


「姫様、何か分かりましたか?」


 資料と向き合う私に、セレンがそう尋ねてくる。

 彼女の言葉に、私は答えた。


「大体の仕組みくらいは分かっているわ。でも細部まで解析し切るには、もう少し時間が必要ね」


「そうですか」


 これは重要な転移魔術のサンプルだ。

 術式の上部だけを読み解くのではなく、もっと根幹まで目を向けるべきである。

 けど、それにはもう少し時間が必要だ。


「どう頑張っても、今すぐこの魔法陣の全てを調べることは出来ないわ。だから、一旦これは置いておきましょ」


 手にしていた資料を置き、私はセレンに向き直る。

 そして、口を開いた。


「そんなわけだから、先にこっちを済ませちゃいましょ」


「まさかそれは……」


 私がセレンに見せたのは、大切に保管してきた伝説の魔物の素材だった。


「これからラムを進化させるわ。最強のスライムにね!」


 遂にこの時が来た!

 誰も見たことの無い、スライムとしての最終進化。

 その最強のスライムへと、ラムを進化させるこの時が!



 ◆



「ラム、これから貴方を進化させるわ」


 私は目の前にラムを呼び寄せ、そう彼に告げた。

 しかし今回の主役であるラムは、進化についてあまり関心が無いような素振りを見せている。


 私の魔力を食べて成長したラムは、今やクッションくらいの大きさだ。

 ただ、体をプルプルと震わせるその姿は、ボールくらいだった頃とは何も変わっていない。


「お願い、ラム。これを全部食べて頂戴」


 ラムの大好物は、私の魔力である。

 それ以外の物はあまり好まない。


 私の用意した進化素材。

 ラムはそれを食べなくない様子だった。


 だが私がお願いすると、ラムは渋々頷いてくれた。

 彼には悪いけど、これもこの子の為なの……。


 進化に必要な食べ物が規定量を超えると、スライムは進化するらしい。

 つまりラムが素材を全て食べてくれれば、今この場で最強のスライムに進化する筈だ。


「それじゃあ、いくわよ!」


 気合いを入れて、私は順番にラムに素材を与えていく。

 それら全ての素材を、ラムはその体に取り込んでいった。


 高純度の魔力。

 ヒヒイロカネの原石。

 アダマントガーゴイルの鉤爪。

 ミスリルドラゴンの逆鱗。

 オリハルコンコカトリスの羽毛。


 どれも手間を掛けて手に入れた素材だ。

 これらを全て売れば、とんでもない金額になることだろう。


 そんな伝説の素材を、ラムは全て食べてくれた。

 僅かな食べ残しも無いので、これならいけそうだ。


「よし、全部食べ終わったわね。今にもラムの進化が始まる筈だわ」


 私とセレンは固唾を飲んでラムを見守る。

 進化の際、スライムは全身が魔力の光に覆われるらしい。


 私の読んだ『スライム進化論』には、そんな記述があった。

 つまり、ラムは今にもその光に覆われる筈だ。

 しかし――


「……あれ? おかしいわね? 全く何も起きないわ」


 一向に何も起きない。

 ラムに一切変化が見られないのだ。


 そんな現状に、私は思わず首を傾げた。

 すると、セレンも同じように口を開く。


「何故、何も起きないのでしょうか?」


「うーん、ちゃんと必要な素材は食べさせた筈よね?」


 集めた素材は全て本物だった筈だ。

 それは間違いない。


「もしや量が足りなかったのでは?」


「いや、計算では十分な量だった筈よ」


「では、何故ラムは進化しないのでしょうか?」


「うーん……」


 顎に手をやり、私は悩む。

 ラムが進化しない原因は一体何だろうか?


「考えられる原因を上げるなら、前提としての理論が間違っていた可能性ね」


「ですが、以前姫様にその事を尋ねた際、理論は間違いないと仰ってましたよね?」


「そうね。今でも理論は間違ってないと思っているわ」


「ですが……」


 頑なに理論を信じる私に、セレンが言葉を詰まらせた。

 彼女の言いたいことは分かる。


 ラムが進化しなかった以上、私のその主張には無理があると、そうセレンは言いたかったのだろう。

 元々の理論が間違っていた可能性が、ここにきて浮上してきたのは確かだ。


 でも、何かがおかしい。

 私の頭の中で、何かが引っ掛かっている。


「……」


「……」


 私とセレンの間に長い沈黙が降りた。

 そんな私達の様子を、ラムが「どうしたの?」と言いたげな雰囲気で見ている。


「まさか……」


「何か気が付いたんですか?」


 セレンの問い掛けに、私は震えた声で口にした。


「もしかしてセレン、私達は大きな勘違いをしていたのかもしれないわ……」


「勘違い――ですか?」


 私のその台詞に、セレンは眉根を寄せた。

 そんな彼女に、私は頷く。


「ええ、勘違いよ。まず最強のスライムに関して、私達の知る確かな情報が三つだけあるわ」


 そう前置きをして、私はセレンに説明を始めた。


 一つ、


「最強のスライムは誰も見たことがない」


 二つ、


「最強のスライムは理論上必ず存在する」


 三つ、


「最強のスライムへ進化する為には、特定の進化素材が必要である」


 この三つこそが、私達の知り得る最強のスライムに関する情報だ。

 それを踏まえた上で、私はセレンに質問した。


「ねえセレン、貴方は見たことがある? ラムのように知能があるスライムの存在を――」


「いえ、全く無いですね」


「じゃあ魔力を吸収出来るスライムは?」


「全然知りませんね」


「魔力を食べて、あれだけ分裂するスライムは?」


「聞いたこともありませんね」


「素材を全部食べても、ラムは進化しなかったわ……」


 私がそう言うと、セレンも理解したのだろう。


「もしや姫様、ラムは――」


「そうよ。ずっとラムは普通のスライムだと思ってたけど、冷静に考えたら全然普通じゃないのよ!」


 一見ラムは普通のスライムにしか見えないが、そのスペックは明らかに異常だ。

 思い当たる事を上げてみても、それは一目瞭然だった。


 そもそもの話、脳味噌の無いクラゲのような存在であるスライムには、まともな知能は備わっていない筈だ。

 しかし、ラムは違う。


 言い付けはちゃんと守るし、研究の手伝いだってしてくれる。

 とってもいい子なのだ。


「ラムは私が召喚したんだもの。普通のスライムなんて召喚されるわけが無いって、そんなことは当然分かってた筈なのに……」


 私はキョトンとしているラムに視線を向ける。

 相変わらず可愛い彼を優しく撫でて、私は息を吐き出すように口にした。


「ラム、貴方は元から最強のスライムだったのね……」


 これまでの素材集めが全て徒労に終わった。

 だが最強のスライムが私の従魔なのだと思うと、それ以上に誇らしくもあった。


「折角集めた素材が無駄になっちゃったけど、ラムが最強のスライムだと分かったし、この際良しとしましょ」


「そうですね。望んでいた結末とは少し違いますが、これはこれでいい結果ですし」


 ラムが最強のスライムだと分かったことは、私達にとっては価値のある結果だった。

 そんなセレンの言葉を聞き、私はラムに向き直る。


「無理やり素材を食べさせて悪かったわね。お詫びとして、私の魔力を沢山食べさせてあげるわ」


 私のその言葉に、ラムはポヨンポヨンとその場で跳ねて嬉しさを表現していた。

 そんな彼の姿に、私は思わず微笑んだ。


 たとえ最強のスライムだろうが、ラムがラムであることには変わりはない。

 これからも彼は、私の大切な従魔で、大切な家族の一員なのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ