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天才魔術師の私が、異世界から勇者様を召喚するまで  作者: 楚々園 ゆるぎ
六章 転移魔術を研究しよう!

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Retrace:70 お別れ

 セレンの作ってくれたビーフシチューを食べながら、私は言った。


「実は昔、勇者様が私にビーフシチューを作ってくれたことがあったの。だからこれを食べていると、すごく懐かしい気持ちになるわ」


 すると、リッカが横で口を開いた。


「ああ、そんなこともあったっすね。勇者様が作ったあのビーフシチューも、凄く美味しかった記憶があるっす」


 そんな彼女の口振りに、ネルファが首を傾げる。


「リッカもそのシチューを食べたのか?」


「食べたっすよ。でもその時の私は、縄でグルグル巻きにされながらの状態だったっすけどね……」


 遠い目をして、リッカはそう口にした。

 そんな彼女の言葉で、私は思い出す。


「そう言えばあの時、縄で縛られてお腹を空かせたリッカの目の前で、如何にも美味しそうにビーフシチューを食べるって拷問をしていたわね」


「今思い出しても、あれは酷い拷問だったっす……」


 死んだような目をしたリッカに、セレンが呆れた様子で言った。


「一体どんな状況ですかそれ……」


 まあ確かに、普通では考えられないシチュエーションだ。

 空腹の他人の前で見せ付けるようにご飯を食べるなんて、正直嫌がらせ以外の何物でもないものね。


「まあそんなこともあって、私にとってビーフシチューは特別な料理なの」


「そうだったのですね。初耳でした」


 私の言葉に、セレンはそう口にした。

 まあこんな機会でも無ければ、そうそう話すことのない内容だからね。


 そんなとりとめのない話をしていると、私はふと思い出した。


「あっそうそう、セレンから旅の話を聞くんだったわね」


「そう言えば、そうでしたね。すっかり忘れていました」


 私の言葉に、セレンもそう口にする。

 ニンジン派と牛肉派の下りのせいで、完全にその事を失念していた。


 引き続き夕食を取りながら、私は改めてセレンの旅の話を聞くことにした。

 実際に迷宮都市に滞在したのは、たったの二週間だけだったらしいけど、かなり濃い時間を過ごしたようだ。


 あまり部屋から外に出ない私にとって、セレンの話はとても興味深いものばかりだった。

 特にあの帝国の勇者と出会ったという話は、かなりビックリしたものだ。


「ふーん。あの偽勇者と一時的にパーティーを組んだのね。で、どうだったの?」


「言うまでもありませんが、姫様やネルファよりも確実に弱いです」


「まあ、私達と比べるのは酷よね……」


 勇者パーティーはミスリルドラゴン程度に苦戦したらしいけど、私達にとってはSランクの魔物なんて雑魚でしかない。


「帝国の勇者の動向は引き続き私が監視するんで、何も心配はいらないっすよ」


「ええ、頼んだわ」


 まさかリッカが直接、偽勇者を監視しているとは思わなかったけど。

 でも、彼女に任せておけば大丈夫だろう。



 ◆



 楽しかった夕食が終わり、私は扉の前に立つリッカに向かって口を開いた。


「今日帰って来たばかりなのに、もう行っちゃうのね? せめて今晩だけでも、ここに泊まってくことは出来ないの?」


「難しいっすね。本当ならセレン姉を送り届けて、直ぐにでもここから出る予定だったんで」


 どうやらリッカは、今日中にこの城を去らないといけないらしい。

 それほど忙しいのにも関わらず、彼女は夕食まで私達と共にいてくれたのだ。


「でも、もう外は真っ暗よ。危険じゃないの?」


 私が心配してそう言うと、リッカは答えた。


「大丈夫っすよ。グリフォンは夜目も利くんで、暗い中でも安全に飛行出来るっす」


「そうなの……」


 リッカの変身するグリフォンならば、夜間の飛行も可能らしい。

 正直本音を言えば、彼女にはもう少し私の傍に欲しかった。


 けど、それは私の我が儘だ。

 リッカを引き留めるだけの理由は、今の私には一つも無かった。


「忙しいと言いながら、何だかんだ時々帰ってきてたっすけど、次帰って来られるのはだいぶ先になりそうっす」


 セレンの送り迎えのこともあって、リッカは何度か私の元に帰って来ていた。

 けれど、次帰って来られるのはだいぶ先になるらしい。


「それで、来月末にある姫さんの誕生パーティーにも出席出来なさそうっす」


 申し訳なさそうに、リッカは肩を落とした。

 リッカは多忙だが、私の誕生日だけは毎年必ず帰って来てくれていた。

 しかし、今回はそれも叶わないらしい。


「そうなの……。残念だけど、仕事なら仕方ないわね」


 消沈するリッカに私はそう言った。

 確かに彼女が誕生パーティーに出れないことは残念だ。


 しかし、そもそもリッカに沢山の仕事を任せているのは私自身なのだ。

 リッカが負い目を感じる必要はどこにもない。


「でも、手紙とプレゼントは絶対に届けるんで、楽しみにしていて下さいっす!」


「分かったわ。プレゼント、楽しみにしているわね」


「はいっす!」


 力強いリッカの言葉。

 私を悲しませないようにする、彼女の心遣いが伝わってくる。

 それだけでも、私は十分嬉しかった。


「それじゃあね、リッカ。元気でね」


「はいっす。姫さんもお元気で」


 そう最後に言葉を交わし、リッカは私の前から去っていった。

 次はいつ会えるか分からないと思うと、グッと寂しさが込み上げてくる。


 でも、これも仕方の無いことなのだ。

 リッカが元気でいてくれることを、この部屋から祈ることにしよう。

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