Retrace:67 セレンの帰還
六章です。
※ノルン視点
いつも通りの雑多な研究室。
そこで私が一人でいると、部屋の扉がノックされた。
誰だろう?
「入っていいわよ」
どうせネルファだろう。
そう考えていた私の耳に、その声が聞こえてきた。
「お久しぶりです、姫様。地下迷宮の調査から、只今戻りました」
「セ、セレン!?」
驚いた私は、その場でバッと立ち上がる。
部屋の中に入ってきた人物は、あのセレンだったのだ。
確かにそろそろ帰ってくる頃だとは思っていたけど……。
まさか今彼女が目の前に現れるとは、全く予想してなかった。
目の前に立つセレンの格好は、私のよく知るメイド姿だ。
それに旅立つ時に持っていたトランクも、あの聖剣だってちゃんと持っている。
間違いない。
本物のセレンだ!
「おかえり、セレン! 無事に帰ってきてくれて良かったわ!」
久し振りに会えたのが嬉しくて、私は思わず彼女に飛び付いた。
そして、私はギュっとセレンの体に抱き着く。
「……はい。姫様も元気そうで安心しました」
少しだけ柔らかい口調で、セレンはそう口にした。
やっぱり彼女に抱き着いていると、昔を思い出して安心する。
一ヶ月も離れていたのだ。
もう少しこのまま甘えていても許されるだろう。
そんな事を考えていると、再び扉がコンコンとノックされた。
そして、ひょっこりと顔を見せたのはリッカだった。
「ただいまっす、姫さん。約束通り、ちゃんとセレン姉を送って来たっすよ」
彼女の言葉に、私はセレンから離れて口を開いた。
「おかえり、リッカ。無事セレンが帰ってこれたのも、貴方のお陰だわ」
セレンだけギュっとするのも不公平だし、リッカにもハグしてあげよう。
私が突然抱き着くと、リッカはビクリと体を震わせた。
体を密着させていると、リッカの反応が手に取るように分かる。
これは照れていると同時に、緊張もしてるってヤツね。
「ど、どうしたんすか突然……」
「ふふっ、この頃不足気味だった部下とのスキンシップをしてるのよ」
リッカは私よりも背が低い。
小柄な体だからか、凄く抱き締めやすかった。
私が彼女をハグしていると、扉の前に立っていたネルファと目が合った。
全然気付かなかったけど、リッカと一緒に部屋に入ってきていたのね。
「ノルン様、その……私も……」
ネルファは膝を擦り合わせ、モゾモゾしている。
「はいはい、貴方もハグしてあげるわよ」
ネルファとは別に久し振りってわけじゃないけど、一人だけ仲間外れってもの可哀想だしね。
ところで、なんで皆をハグする流れになってるのかしら?
自分で始めたことながらも、私はそう疑問に思った。
恐らくだが、一ヶ月ぶりに皆が揃ったことで、私のテンションが上がったせいだろう。
ちなみにハグしてあげたネルファだが、終わった後も幸福そうにニヤニヤしていた。
セレンやリッカと違って、彼女の反応だけは露骨に下心が見えるわね……。
そんなネルファは放っておいて、私はセレンに尋ねた。
「きっちり一ヶ月で帰って来たってことは、転移の魔法陣の調査はしっかり終えられたって事なのよね?」
「はい、勿論です。これがトワリアル地下迷宮にあった転移の魔法陣の調査資料になります」
セレンは頷き、懐から手帳を取り出した。
「ご苦労様。本当に助かったわ」
セレンから手帳を受け取り、私はそう言った。
軽く手帳の中を見たが、十分資料として使えそうだ。
後で時間を掛けて、じっくりと中身を精査しよう。
「それと姫様、これはお土産です」
続けてセレンがトランクから取り出したのは、布に包まれた中身の見えない物体だった。
大きさ的には、ちょうど私の手のひらと同じくらいである。
「お土産? 何かしら?」
気軽にセレンからそれを手渡され、手に取った私は思わず声を上げた。
「重っ!?」
布に包まれたそれは、想像の十倍は重かった。
非力な私では、とてもじゃないが持っていられない。
重過ぎるので一旦床に置き、私は包装の布を取り除く。
セレンのお土産の正体は一体何だろう?
ワクワクしながら布を取ると、中から出てきたのは銀の光沢を持つ金属だった。
テッカテカに光っており、まるで鏡のようである。
「これはミスリルかしら?」
ミスリルというのは、珍しい金属の一つだ。
あのヒヒイロカネやアダマントくらいには稀少で、魔力を通しやすい特別な性質を持っている。
でも、見たところただのミスリルじゃないみたいだけど……。
そんな私に、セレンが言った。
「これは姫様の欲しがっていた、あのミスリルドラゴンの逆鱗です」
「えっ! これが!?」
言われてみれば、このミスリルは大きな鱗のような形状である。
「迷宮内で偶然ドラゴンと遭遇したので、こうして回収しておきました」
「でかしたわ、セレン! まさかミスリルドラゴンの逆鱗まで手に入れてくるだなんて、夢にも思わなかったわ!」
ミスリルドラゴンと言えば、私が召喚出来なかった伝説の魔物だ。
まさか地下迷宮なんて場所にいたなんてね。
ラッキーだ。
どうやって手に入れようかと悩んでいたが、こんな思わぬ形で手に入るだなんて。
「セレンのお陰で、必要な素材が全て揃ったわ。これでいつでもラムを進化させられるわね」
最強のスライムの為の進化素材。
それらは全て揃った。
ただし、進化させるのはまたの機会をしよう。
取り敢えず私は、セレンから旅の話を聞くことにした。




