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天才魔術師の私が、異世界から勇者様を召喚するまで  作者: 楚々園 ゆるぎ
五章 地下迷宮を攻略しよう!

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Retrace:66 転移の魔法陣

 十層の最奥。

 そこには転移の魔法陣が光輝いていた。


 それを踏まぬように注意を払い、私は懐から手帳を取り出す。

 そして、魔法陣の術式を詳細に書き記していった。


「どうやらこの迷宮自体に霊脈が走っていて、下層に降りるごとに良質な霊地になっているようですね」


 魔法陣はその魔力によって維持されているようだ。


「魔法陣の転移先は……一層ですか」


 何のためにこんな魔法陣を用意してあるんでしょうか?

 冒険者を地上に帰しやすくするためというのは、少し変な理由だ。


 少し疑問に思いながらも、私は術式を写し終えた手帳を懐にしまった。

 このデータは大切に保管しなければなりませんね。


 後はこの転移の魔法陣を踏み、一層へ転移するだけだ。

 そんな時、後ろから勇者パーティー全員がやってきた。


 ティアナとアイクの怪我は治っていた。

 おそらく魔術で回復させたのだろう。

 転移の魔法陣まであと一歩というところで、ティアナが叫んだ。


「セレンさん、待って下さい!」


「……何でしょうか?」


 私が振り返ると、ティアナがガバッと頭を下げた。


「さっきは危ないところを助けて頂いて、本当にありがとうございました!」


「いえ、構いませんよ」


 私がそう答えると、ティアナは身を乗り出すように言った。


「それで、セレンさんにお願いがあるんです!」


「何でしょう?」


「これからも私達とパーティーを組んでくれませんか? それで一緒に世界を救って下さい!」


 ティアナの申し出は、これまでの臨時パーティーでは無く、私に正式なパーティーの一員になって欲しいというものだった。

 それに対し、私の答えは決まっている。


「せっかくの申し出ではありますが、お断りさせて頂きます」


「そ、そんな! 何でですか!?」


 まさか断られるとは思って無かったのだろう。

 ティアナは驚きと共に、そう質問してきた。

 私は即答する。


「メリットがありませんので」


「メリットって……! 世界を救うことに損得なんてあるんですか!?」


 私の言葉が信じられないといった様子で、ティアナは声を荒立てた。

 そんな彼女を制しながら、アイクが私に向かって丁寧に頭を下げる。


「セレンさん、俺からもお願いします。この世界を救うのに、聖剣に選ばれたセレンさんの力を貸してください。世界の為に、貴方の実力が必要なんです!」


 そう言われても困る。

 たとえ聖剣に選ばれていようと、私の本職はメイド。

 姫様のお世話をすることが職務であり、それが何よりも優先すべきことなのだ。


「申し訳ありませんが、主人が待っていますので、私があなた方に力を貸すことは出来ません」


 私がそう断ると、ティアナはショックを受けた様子を見せた。


「そんな……。セレンさんはいいんですか! このまま世界が魔女に滅ぼされてしまったら、セレンさんの大切なご主人様も皆死んじゃうことになるんですよ!?」


「……」


 ティアナの感情的な言葉に、私は何も言わなかった。

 しかし、彼女は畳み掛けるように口にした。


「お願いします! セレンさんが一緒なら、予言の【終わりの魔女】を殺して、必ず世界を救える筈です!」


 【終わりの魔女】を殺す?

 それは本気で言っているんですか?


「……」


 姫様の顔が脳裏に浮かんだ。

 研究に打ち込み、勇者召喚に全てをかける彼女の姿。


 五年前、多くの犠牲を払って姫様は生き延びた。

 彼らの口にする言葉の全ては、五年前に姫様を命懸けで救った者達への冒涜だ。


 だからこそティアナの台詞は、私にとって許しがたいものだった。

 姫様の頑張りを、その存在を否定するような彼女の言葉は――。


「ティアナ様は一度でも、その目で魔女の姿を、魔女の持つ力を見たことがありますか?」


「……え?」


 私の唐突な問い掛けに、ティアナは頓狂な顔をした。

 それを見て、私は言葉を続ける。


「ありませんよね? なのに貴方は、【終わりの魔女】を殺すと言った――」


 記憶の中に浮かぶ魔女の姿。

 おそらく私が一番よく知っている。

 彼女の目的も、その実力も。

 だからこそ、私の心に怒りの感情が沸き上がる。


「ふざけた事を言わないで下さい。魔女について何も知らない貴方の発言は、私にとって何の重みも持ちません」


「それって……」


 ティアナが何かを察したように口に手をやる。


「もしかしてセレンさんは、五年前のエルタシア王国について何か知ってるんですか……?」


 アイクが口にした言葉に、私は何も言わず目を細める。

 そして、私は彼らに背を向けた。


「一つ忠告しておきますが、魔女とは戦うだけ無駄です。今のあなた方の実力では、万に一つも勝ち目などない」


 彼らの実力では、魔女には傷一つ。

 いや、指一本すらも触れられないだろう。


「あなた方は何もしなくていいのです。無駄な正義感など振りかざさず、大人しくしているのが賢い選択ですよ」


 せめて姫様が勇者召喚を成し遂げるまで、大人しくしている方が懸命だろう。

 私はそう言い残し、彼らに背を向けた。


「待って下さい、セレンさん……!」


 呼び止めるティアナの声を無視して、私は転移の魔法陣を踏んだ。

 転移の術式が起動し、光が視界を包み込んでいく。


 彼らと話すことはもう何もない。

 だからこそ、私は足早に立ち去るべきだろう。


 転移の光に包まれ、私はこの冒険の終わりを実感する。

 思い返せば、この迷宮探索は中々に濃い時間だった。


 さあ、帰ろう。

 私のいるべき姫様の元に――。



 ◆



 宿屋は既に引き払った。

 二週間生活していたと言っても、私物はトランク一つに綺麗に収まる。


 なんだかんだで、太陽剣・ガラティーンもまだ手元に残していた。

 迷宮探索でずっと一緒だったので、今では少しだけ愛着が湧いている。


 私が都市の出入口付近で待っていると、金髪の少女がやって来るのが見えた。

 それは約束通りに、私を迎えに来たリッカだ。


「お待たせっすよ、セレン姉。この姿で会うのは何だか久し振りな感じっすね」


「そうですね。ですがやはり、貴方はその姿である方がしっくりきます」


 勇者パーティーと共に行動していた時は、変身したリッカの姿に違和感を感じまくりだった。


「それでセレン姉、転移の魔法陣はちゃんと調べられたんすか?」


「勿論です。姫様に良い報告が出来ることでしょう」


「なら良かったっす。それに今回は、偶然にもセレン姉に勇者パーティーの実力を見せることが出来たんで、それなりに収穫のある二週間になったっすね」


「この期に及んで偶然ですか……。白々しいですね」


 勇者パーティーが私と行動を共にするように誘導したのは、リッカ自身だと言うのに。


「それでどうっすか? 魔女の力を一番よく知るセレン姉から見て、帝国の勇者の実力は?」


「大したものでしたよ。しかしあの程度の実力では、魔女を倒すことなど到底不可能ですね。あれなら姫様やネルファの方が断然強い」


「やっぱりそうっすよね……。正直、私も拍子抜けしてるっすよ」


 そう言って、リッカは落胆した様子を見せた。

 そんな彼女に私は言う。


「そう言えば、ミスリルドラゴンの血はちゃんと摂取出来ましたか?」


「抜かりはないっす。隙を見て、ばっちり確保したっすよ」


「どうしても貴方の『動物化(アニマルチェンジ)』には、元となる生き物の血が必要ですからね」


 リッカの変身先のバリエーションは、今まで彼女が生物の血が関係している。


「まあ毛でも肉でも、何でもいいんすけどね」


 そう言って、リッカは笑った。

 そして彼女は私に告げる。


「それじゃあ帰るっすよ、姫様の元へ!」


「はい。帰りも頼みますよ、リッカ」


 こうして長いようで短い、そんな私の冒険はようやく幕を閉じた。

これにて長かった五章を終了とします。

アイク視点の話を挟んで、次章からはまたノルン中心のお話に戻ります。

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