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天才魔術師の私が、異世界から勇者様を召喚するまで  作者: 楚々園 ゆるぎ
五章 地下迷宮を攻略しよう!

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Retrace:64 ミスリルドラゴン

 私と勇者パーティーは、伝説の魔物であるミスリルドラゴンと対峙することになった。


「はぁぁぁ――!」


「おらぁぁッ!」


 最初に動いたのは、アイクとラッシュだ。

 二人同時に飛び掛かり、ドラゴンに向かって猛然と聖剣を振るった。


『無駄だ。どんな剣だろうと、俺の鱗は斬り裂けぬ!』


 ガキンと透き通った金属音が響くも、ドラゴンの体に傷は付かない。

 そこにカウンター気味に、風を切って銀竜の尾が振るわれる。


「くっ!」


 アイクとラッシュの二人は、慌ててその場から飛び退いた。


『どうやらもう片方も七聖剣の一つのようだな。聖剣の担い手が二人か。まあそれがどうしたという話なのだがな』


 傲然と口にしたドラゴン。

 そこにティアナが魔術を発動させる。


「アイク、ラッシュ! 下がってください!」


 彼女から無詠唱で放たれたのは、無数の灼熱の矢だ。

 それらは真っ直ぐに、ドラゴンの全身に降り注ぐ。


『無駄だ。この俺にはいかなる魔術も通じない!』


 ドラゴンは炎の矢を全身で受け止め、私達にそう言った。

 その言葉通り、ティアナの魔術では銀竜にダメージを入れられない。


「なら、これはどうでしょうか?」


 私は冷静に口にして、氷の魔術を発動させた。

 それなりの質量を持つ氷柱が、ドラゴンの全身を押し潰すように襲い掛かる。


『無駄だと言っているだろうが!』


 銀竜は叫び、私の魔術は気泡のごとく掻き消された。

 それはまるでドラゴンの体に接触した瞬間に、魔術自体が打ち消されているように見えた。


「セレンさんの魔術も通じないなんて……!」


 ティアナは驚愕の表情を浮かべる。

 そこに苦しそうにアイクが言った。


「どうやらあのミスリルドラゴンには、剣も魔術も通じないみたいだな……!」


 斬撃も魔術も効果がない。

 それは現状、勇者パーティーに打つ手が無いことを表していた。


『どうやら理解したようだな。貴様らと俺の圧倒的な力の差を――』


 有り余る余裕を崩すことなく、ドラゴンはそう告げた。

 そして、


『次はこちらの番だ。この十層の守護者として、貴様らは全員生きては帰さん』


 ドラゴンは動いた。

 その金属の全身からは想像も付かない俊敏さで、銀竜は私達との距離を詰める。

 そして、ゴウと空気を切り裂くようなスピードで、その鋭い鉤爪が振るわれた。


「っ! 避けろ!」


 咄嗟にアイクが叫び、私達は散開した。

 ドラゴンの鉤爪は、迷宮の床を大きく抉り取る。


 その攻撃を回避し、私達は全員無事だ。

 だがメンバー同士の距離間が、予想以上に開いてしまった。


 これでは仲間同士での適切な連携が取れない。

 そして、そんな隙をミスリルドラゴンは見逃さなかった。


 その鉤爪を振り下ろす動作に連続させ、銀竜はそのまま体をぐねりと捻った。

 放たれたのは、鞭のような尻尾の一撃。


 狙われた人物はティアナだ。

 彼女はドラゴンのその攻撃に、まるで反応出来てはいなかった。


「ティアナ!」


 咄嗟に動いたのは、アイクだった。

 彼は反射的に、ティアナを庇うように抱き締める。


 だがそのまま回避することは叶わず、二人をドラゴンの尻尾が直撃した。

 勢い良く弾き飛ばされたアイクとティアナは、激しい音を立てて迷宮の壁に激突した。


「くっ……ティアナ、無事か!?」


 よろめきながらも起き上がり、アイクは彼女を心配する。

 どうやら命に別状は無さそうだが、彼の頭からは赤い血が流れていた。


「私は……大丈夫です……」


 苦悶の表情を浮かべ、ティアナは立ち上がった。

 しかし、その右腕は骨折しているのか、力無くダラリと垂れ下がっている。


 二人の武器は遠くに転がり、ほぼ無防備な状態だ。

 それにアイクとティアナは目に見えて負傷している。


 そんな二人を庇うように、アミィが短剣を構えて前に立つ。

 ラッシュは無傷だが、ミスリルドラゴン相手に打つ手はない。


 勇者パーティーはまさに危機的状況だった。

 そんな彼らの様子を、私は少し離れた位置から冷静に観察する。


 十層のボスであるミスリルドラゴン。

 Sランク指定された伝説の魔物。


 しかし勇者達との戦いぶりを見るに、その実力は私の想像を越えていた。

 少なくともこのミスリルドラゴンは、あのゴーちゃんよりも明らかに格上だ。


 魔物の驚異度を推し測るランクに、S以上は存在しない。

 伝説の魔物と言っても、その実力には上下があるということだろう。


「アイク、ここは撤退しかねぇ! 攻撃が効かない相手に、これ以上は無理だ!」


 そんなラッシュの叫び声を、ドラゴンの言葉が遮断する。


『この俺が逃がすと思うか?』


 ミスリルドラゴンから涌き出た殺気。

 勇者に向けられる憎悪は、どうやら本物らしい。


『終わりだな。無惨に散れ、哀れな勇者共よ』


 憐憫の視線を向け、ドラゴンはそう言った。

 そして、銀竜は大きくその顎を開け広げる。


「やべえぞ……!」


 ラッシュが叫ぶ。


「ブレスか……!」


 アイクも逼迫した声を上げた。

 だが負傷者している彼とティアナは、咄嗟には動けない。


 ミスリルドラゴンの口腔に光が溢れる。

 白銀の光が収斂し、白き炎が熱を生み出す。


 そして、ドラゴンの口から必殺のブレスが放たれた。

 視界を染める銀光が、白き灼熱と共に殺到する。


 絶体絶命の勇者達。

 そんな彼らのピンチを、私が救う義理はあるのだろうか?


「仕方ないですね……」


 私はため息混じりに、そう呟いた。

 本当はアイク達には見せたく無かったが、この状況ではしょうがないだろう。


 私は聖剣の柄頭をピンと跳ね上げ、すかさずそのグリップを握り締める。

 鞘走りの音が遅れて響き、私は太陽剣・ガラティーンを抜き去った。


 さて、少しだけ本気で反撃をしましょうか。

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