Retrace:61 勇者パーティーの実力
八層の主はバイトプラントと呼ばれる、食虫植物を成人くらいの大きさにした魔物だった。
このBランクの魔物は、複数体の群れで行動しているようだ。
そんなバイトプラント相手に、アイク、ラッシュ、ティアナの三人が前に出る。
私とアミィは一歩引いた位置から、彼らの戦闘を見守ることにした。
「セレンさん、しっかり見ておいて下さい。これが今の勇者パーティーの実力です」
「分かりました」
アミィの言葉に頷き、私は彼らの戦いに集中することにした。
最初に飛び出したのはラッシュだ。
「おらぁッ!!」
果敢にもバイトプラントの群れに飛び掛かり、彼は手にした剣を豪快に振るった。
青白い稲妻がバチリと弾け、ラッシュの持つ剣が電撃を帯びる。
そして彼は、バイトプラント達を次々と薙ぎ倒していった。
「ラッシュ様の持つ剣は、あの七聖剣の一つである雷光剣・ティルファングです。あの聖剣は魔力を込めると、ああやって電撃を操ることが出来るんです」
私の横で、アミィがそう説明してくれる。
「彼も聖剣の担い手だったのですね」
Sランク冒険者・『雷迅』。
その肩書きは伊達ではない。
ラッシュの動きはキレていた。
彼の戦闘スタイルは、聖剣を手に積極的に前に出る好戦的なタイプである。
勇者パーティーにおいて、彼は完全な前衛としての役割を担っていた。
次に私が目を向けたのは、一人後方で魔術を唱えるティアナだ。
彼女は炎の玉を次々と発射し、バイトプラントに対して有効打を与えていた。
「ティアナ様は魔術師です。身に付けている様々な魔道具の力を借り、持ち前の強力な魔術を放てます」
アミィが言うように、ティアナの装備は充実している。
かなりの一品であろう杖や高そうなローブ、彼女の身に付ける煌びやかな装飾品。
それらは全て、魔術を補助する為の魔道具なのだろう。
「ティアナ様の凄いところは、攻撃の魔術や回復の魔術など、状況に応じて様々な魔術を使い分けられるところなんです」
炎の魔術で敵を攻撃しつつ、状況によっては味方に補助もする。
バックアッパーとしては、ティアナはまさに最高とも呼べる存在だった。
「実際帝国でも、ティアナ様以上の魔術師はいません」
アミィのその説明通り、次々と魔術を行使していくティアナの姿は圧巻だった。
魔術の腕前において、帝国随一というだけはある。
続いて、私の視線はアイクに移った。
何と言っても、彼はこの勇者パーティーの核である。
バイトプラントを相手にするアイクは、手にした剣で次々と相手を斬り裂いていた。
荒々しいラッシュとは対照的に、彼の見せる剣技はどれもお手本のように無駄がない。
「アイク様の持つ聖剣は、英雄剣・カリバーン。その能力は、相手の魔術を破壊するというものです」
アミィの説明に、私は口を開く。
「では今のように魔術を使ってこない相手には、あの聖剣の力も意味が無いというわけですね?」
「確かにそうですが、アイク様の持つカリバーンには、他の聖剣には無いもう一つの機能があります」
「もう一つの機能ですか?」
「はい。アイク様の戦いを見ていて下さい」
アミィのその言葉に従い、私は彼の戦いを注視する。
すると彼が少し離れた敵に、剣先から魔術を放つ瞬間を目撃することが出来た。
「剣から魔術を? もしやあの聖剣を、彼は杖として代用してるのですか?」
「はい。あのカリバーンは他の聖剣と違い、杖と同じように魔術の媒体にすることが出来るのです」
つまり、アイクはあの聖剣一つさえ持っていれば、剣と杖の両方を手にしていることと同じだということだ。
アミィはそんな彼の戦い方を、私にこう解説した。
「アイク様の戦い方は多彩です。ティアナ様と同等の魔術を使いこなし、尚且つ剣の腕もあの『剣聖』を越える程です。まさに勇者に相応しい御方ですね」
帝国一の魔術師であるティアナと、最強の剣士としてその名を轟かせる『剣聖』。
アイクが勇者と呼ばれる理由は、その両者の技能をたった一人で体現しているからなのだ。
一通り彼らの戦いぶりを拝見したところで、アミィが私に言った。
「セレンさん、そろそろ私達も手伝いましょう」
アミィは短剣を取り出し、暗殺者っぽく逆手に持った。
バイトプラントの数もかなり減っており、全滅させるまではあと一押し必要だ。
「そうですね」
私も頷き、アミィと共に戦いに参加した。
◆
バイトプラントの群れを掃討し、私達はとうとう九層までたどり着いた
道中、ティアナがよく絡んでくる。
「転移の魔法陣を主に代わって調査しにきたなんて、セレンさんも大変ですね」
「確かに大変ではありますが、やりがいはあります」
私がそう答えると、ティアナは笑みを溢した。
「ふふっ、セレンさんは本当にそのご主人様が大切なんですね」
「はい。我が儘でだらしないところもありますが、大変素晴らしい御方です」
姫様はあんな性格だが、私が敬愛する立派なお人だ。
あのような主人に仕えることが出来るのは、メイドとしてこの上無い喜びである。
「ところでティアナ様は、一国の姫でありながら何故勇者パーティーに?」
「そ、それはその……」
私の質問を受けた途端、ティアナがモジモジし始めた。
そんなに変なことを聞いたつもりは無かったのだが……。
私が彼女の様子に疑問を覚えていると、アミィが横から言った。
「ティアナ様がこのパーティーに参加しているのは、単純にアイク様のことが好きだからです」
「ちょっ、アミィ……!」
サラッと重要な発言をしたアミィ。
その言葉に、ティアナは顔を真っ赤にした。
「なるほど」
私は納得し、頷いた。
デール帝国の姫である人物が、何故命の危険も省みずにアイクの傍にいるのか。
その理由が恋愛感情とするならば、さっき見せていたティアナの恥ずかしそうな様子にも納得がいく。
そんな事を考えていると、彼女は観念したように呟いた。
「単に私は、自分の知らないところでアイクが傷付くのが嫌なんです。だから彼に無理を言って、ここまでついてきました」
「……そうでしたか」
大切な人が傷付くことを想像すると、辛い気持ちになるのは私も同じだ。
アイクに追いてきたティアナの気持ちは、私にも分かる気がした。
そんな会話を終える頃には、九層の終点まで辿り着いていた。
「終点は見えた。今日の探索はここまでにしよう」
アイクの言葉に、異論は無かった。
ここまで驚く程順調だ。
無理をすることは無い。
日を改めて、万全の準備をしてから九層のボスに挑もう。
丁寧に進めている迷宮攻略ですが、勇者パーティーのキャラと戦闘スタイルを覚えて欲しくてやっています。
もう数話お付き合い下さい。
◆アイク
剣と魔術を使い分けて戦う。前衛。
武器……英雄剣・カリバーン。
◆ティアナ
魔術で戦う。後衛。
武器……杖。
◆ラッシュ
剣で戦う。前衛。
武器……雷光剣・ティルファング。
◆アミィ
戦闘力が劣る為、基本は戦闘以外のサポート役。
武器……短剣。




