Retrace:60 第八層
私はアイクらと共に地上に戻った。
迷宮内で得た魔石や素材を売却する目的と、勇者パーティーの依頼の報告も兼ねて、私達は冒険者ギルドへ向かう。
ギルドに着き、さっそくアイクは謎の魔物の件を報告した。
受付で対応したのは、あの私と親しい女性職員だ。
「え、えぇ!! 謎の魔物の正体って、セレンさんだったんですか!?」
報告を受けた女性職員は、そんな大声を上げていた。
彼女が浮かべた驚愕の表情を、私は一生忘れないだろう。
アイクの報告に対して、ギルド側は私達を別室まで案内した。
わざわざギルドマスターが出てきたことからも、あまり他人に聞かせられないようなやり取りが行われるのだろう。
私と勇者パーティーの面々は、個室の中で様々な聞き取りを受けた。
私は謎の魔物の正体が自分であることを打ち明け、ギルド側がどういった判断を下すのかを待つ。
結局私に対するギルド側が出した結論は、お咎めなしとの判断だった。
冒険者ギルドとしては、魔物の正体が私だと判って寧ろ安心したというだけらしい。
まあ実際私が誰かに危害を加えたわけではなく、他の冒険者達が魔物だと勘違いしていただけである。
元々私に落ち度なんてものはない。
それにアイク達の存在も大きかった。
私に下されるだろう処遇に関して、彼らはかなりの便宜を図ってくれたのだ。
私をフォローする側に回った勇者パーティーは、冒険者ギルドに対してこの上ない程に有効だった。
よっぽどの理由が無い限り、アイクの主張と真逆の処分はギルド側としても下せないだろう。
冒険者ギルドという組織において、それほどまでに勇者という存在は大きかったのだ。
こういったやり取りもあって、私は晴れて無罪となった。
これからも大手を振って地下迷宮を探索出来る。
そう考えると、少しホッとしている自分がいた。
◆
翌日、私は地下迷宮の八層目まで辿り着いた。
勿論だが、勇者パーティーの面々も一緒である。
勇者パーティーは既に七層を攻略し、八層を半分程まで攻略していた。
まだ七層の道のりを調査していた私だが、彼らのおかげで一気に八層までショートカットが出来た。
迷宮内を歩きながら、私は隣のアミィに話し掛けた。
「貴方が地図係りなんですね」
「はい。私は皆様より戦闘力がないので、こういったお手伝いしか出来ません」
私の質問に、そう答えが返ってきた。
アミィはこれまで歩いてきた経路を、しっかりと紙に記録している。
「近年この八層を訪れた冒険者はいません。かつての勇者が十層まで攻略したのは、百五十年も昔のことでした。その時の記録などは残っていないんです」
アミィはそう私に教えてくれた。
しかし、彼女のサポート能力は目を見張るものがある。
斥候と道具持ち。その両方をこなしつつ、地図まで書く。
この小柄な軍服の少女は、レンジャー技能にかなり優れている。
私がアミィと会話をしていると、ティアナが話し掛けてきた。
「何だかセレンさんとアミィ、出会ったばかりなのに仲いいですよね?」
「……そうでしょうか?」
私が困ったように口にすると、ティアナは微笑む。
「はい。会話をする二人の雰囲気は、まるで昔から知り合いだったかのようですよ」
「……」
黙った私に、ティアナは続けて口にした。
「やっぱり波長が合うんじゃないですか? アミィもセレンさんも、感情が顔に出にくいですし」
そんなことを言われて、私は隣の少女に視線を向ける。
すると、彼女もこちらに視線を向けてきた。
「……」
「……」
お互いの視線がぶつかり、何だか変な空気になる。
正直アミィに、私は何を言って良いのか分からなかった。
そんなやり取りを交わしながら、特に危険も無いまま私達は通路を奥へと進んだ。
このままいけば、今日中に九層まで進めるだろう。
少し気持ちが逸ってしまい、私は自ら率先して現れる魔物を倒していった。
そして、遂に私達は八層の終着点に到着する。
このトワリアル地下迷宮の階層は、大体下層へ続く階段前に大きな空間が存在していた。
五層以上の階層であれば、そこは多くの冒険者が利用する休憩スペースになっている。
しかし、それはこの八層では通じない。
階段前の空間に近付いた時、アミィが注意を促した。
「アイク様、気を付けて下さい」
「ああ、分かってる。かなりいるな……」
アイクが息を潜め、そう答える。
その彼の声に、全員は身を引き締めた。
近年八層目まで到達した冒険者は、私達以外に誰もいない。
そんな一切冒険者が訪れないエリアでは、階段前のスペースは強力な魔物の住み処になっているらしい。
ようはその階層の主、ボスである。
六、七層目に関しては、アイク達が既にその魔物を倒していた。
だからこそ、私も楽に七層までは攻略出来たのだろう。
「皆、準備はいいか?」
アイクの問い掛けに、一同は頷きを返す。
そして私達は臆することなく、魔物の住み処へと突撃していった。
「これが八層目の主ですか……」
目に映る魔物の姿に、私は思わずそう声を漏らした。
八層の主。
それはタコの触手に似た根で地面を歩き、トラバサミのような形状の葉を持つ食虫植物型の魔物だった。
一体の大きさは大体成人と同じくらいで、見た目からしてもかなり狂暴そうである。
しかもその魔物は一体だけではなく、複数体で一ヶ所に固まっている。
「バイトプラント。単体でBランクの魔物だ。思っているより素早く、生命力が強い」
ラッシュがそう説明した。
食虫植物のような姿の魔物だが、おそらくは光の少ない迷宮内で、他の生物を補食することで養分を得ているのだろう。
「アミィ、セレンさんと一緒に下がっててくれ」
「私も手伝いましょうか?」
アイクの言葉に、私はそう尋ねた。
すると、彼は優しく答える。
「ここまで道中で、杖を使わずかなり魔術を連発したんですから、セレンさんの魔力はそこまで残ってないはず。今は無理をしないで下さい」
この数のバイトプラントなら、彼は私の手を借りなくても十分勝機があると踏んだのだろう。
ちなみに私の魔力の残量は、まだまだ余裕である。
「セレンさん、ひとまずここはアイク様達に任せましょう」
私の隣でアミィが口を開いた。
彼女がそう言うなら……。
「分かりました」
私も勿論手伝うつもりだったが、これはいい機会である。
この魔物の群れ相手に、勇者パーティーの実力を見せて貰おう。




