Retrace:59 臨時パーティー
勇者パーティーと共に、私は六層目へ降りた。
六層のエリアに関しては、五層とさほど変わらない。
相変わらず入り組んだ迷路のような構造になっており、魔物の強さも特に変化は無かった。
そんな次々と現れる魔物を蹴散らしながら、私達は通路を奥へと進んでいる。
剣をメイン武器として戦うアイクとラッシュ。
魔術主体で戦う私とティアナ。
基本的にアイクらが前で魔物の相手をし、その間に後ろで私とティアナが魔術を放つ。
そんな役割分担が上手く嵌まり、六層の魔物程度ならば苦戦することは一度も無かった。
ちなみにアミィが戦闘に加わることは無い。
戦えないということは無さそうだが、今のところ彼女を戦闘に加える必要性は感じなかった。
そもそもアミィが担っている役割は、戦闘以外で重要なことばかりだ。
魔物から採れる魔石や素材。
それらを回収して持ち運ぶのは、主にアミィが行っていた。
更に彼女は魔物の気配にも敏感であり、荷物運びと共に斥候のような役目も担っている。
サポート役として、アミィはとても優秀だった。
しばらくこの勇者パーティーを観察していて、私は気付かされたことがある。
それは冒険者がパーティーを組む利点だ。
人数を揃えることでの、戦闘時における機能性。
迷路探索を円滑に進める為の役割分担。
当たり前のことだが、それらのことは冒険者として大切なことだ。
一人で行動することを念頭に置いていた私にとって、パーティーにおける役割分担は失念していた部分だった。
そんな事を考えながら通路を歩いていると、アイクが私に向かって口を開いた。
「セレンさん、そろそろ地上に戻りませんか?」
「もうですか?」
まだ六層目だ。
私が攻略している最前線の七層までは、全然辿り着けていない。
こんな階層で探索を切り上げて地上に戻ってしまう選択は、私にとって貴重な一日を無駄にしたことと同じである。
アイクの提案には、私は断固として反対だった。
私はまだ迷宮を探索する――と。
そう口にしようとしたところに、アミィが私に言ってきた。
「冒険者ギルドへの報告も考えると、この辺で今日の探索は切り上げるべきでしょう。セレンさんのお気持ちは分かりますが、ここは我々に協力しては貰えませんか?」
彼女の言葉に、私は少しムッとした。
しかしアミィにジッと見つめられ、私は渋々了承する。
「……そう言うことでしたら、私は大人しく従います」
迷宮探索を続けたい気持ちはまだ強いが、ここはグッと我慢しよう。
勇者達を相手に無理を通すのは、流石に悪手である。
それに勇者パーティーが謎の魔物の正体をギルドに報告する際に、私がその場にいるといないとでは処遇が大きく変わってしまう恐れがあるのだ。
私が報告の場にいれば、間違った意見や見解にも即座に対応出来るだろう。
「ありがとうございます、セレンさん」
そう礼を告げられ、私は仕方なく迷宮を引き返すことにした。
六層から上層に戻っている道中、アイクが私に話し掛けてきた。
「正直な話、俺はセレンさんの実力を侮っていました。でもあれほどの魔術を見せられれば、セレンさんの自信も納得出来ます」
やはり彼は私の実力を甘く見ていたようだ。
アイクは続けて、私に質問してきた。
「確かセレンさんはその主の方に言われて、十層にある転移の魔法陣を調査しに来たんですよね?」
「はい」
私が頷くと、アイクは真剣な表情で口を開いた。
「短い時間ですが、セレンさんの探索に同行してその実力が本物だということは分かりました。ですがここから先の階層は、やはりセレンさん一人の力では厳しいと思います」
「……」
私は何も言わなかった。
彼が私の実力を正確に測りきれているとは思えない。
私にはたった一人でも、この迷宮探索を成し遂げられるという自信があった。
だが、アイクは私に言う。
「それで提案なんですが、俺達と一時的にパーティーを組みませんか? セレンさんと俺達が協力し合えば、十層までの道程をより早く攻略出来ると思います」
「私とパーティーを組む――ですか? 他の皆様は了承しているんですか?」
私がそう尋ねると、ラッシュとティアナが言った。
「アイクの決めたことだ。俺に異論はねえぞ」
「私も大賛成です。これまでは後衛が私だけだったので、セレンさんの力を借りられれば、もっと効率良く魔物を倒せる筈です!」
やけにティアナの私に対する評価が高い気がする。
別に特別な事をした覚えはないのだが。
「ですが……」
私がどうすべきか迷っていると、アミィが横から言ってきた。
「私達は既に、八層目の半ばまで迷宮の攻略を進めています。私達のパーティーに協力して貰えるのであれば、セレンさんにとってもそれなりのメリットがあると思いますが?」
私の知っている道程は、未だに七層の半ば。
しかし勇者パーティーが八層の半ばまで攻略しているということは、彼らに協力すればそこまでの道程の調査をしなくて済むということだ。
それに私は勇者パーティーの連係を見て、一人で迷宮探索を続けることへの非効率さを実感していた。
だが、本当に彼らと一時的な仲間になってもいいのだろうか?
彼ら勇者パーティーの立場と、私の仕える姫様の立場。
それらを考えると、一時的にでも彼らの仲間になることが、私には強い抵抗があった。
「セレンさんの目的と俺達の目的は同じです。十層を目指して、一緒に迷宮を探索しませんか?」
そう言って、アイクは手のひらを差し出してきた。
それを前にして、私は考える。
本当に良いのだろうか?
これは姫様に対する裏切りではないのだろうか?
助けを乞うように視線を向けると、そこではリッカの目がこう言っていた。
『彼らを利用すればいい』――と。
勇者達を利用する。これは決して裏切りではない。
少しだけ逡巡するも、私は結局アイクの差し出したその手を取った。
「十層までという短い間ですが、改めてよろしくお願いします」
「こちらこそ。セレンさんの力を頼らせて下さい」
こうして私は勇者パーティーの一員として、トワリアル地下迷宮を彼らと共に攻略することになった。




