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天才魔術師の私が、異世界から勇者様を召喚するまで  作者: 楚々園 ゆるぎ
五章 地下迷宮を攻略しよう!

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Retrace:57 勇者の提案

「待ってください! もしかしてこれから一人で、この五層を探索するつもりですか!?」


「そうですが、何か?」


 振り返って私がそう答えると、アイクは注意を促してきた。


「あまりに危険過ぎます! ろくな装備も付けずに、一人で迷宮を探索しようだなんて!」


 私の装備と言えば、腰に差した一振りの聖剣だけだ。

 メイド服を着ているだけで、勿論防具などは身に付けていない。


 アイクの視点から見ると、それは不安に映るのだろう。

 しかし魔術を中心に戦う私にとって、他の装備は重いだけの荷物でしかないのだ。


「私のスタイルはこうなので、危険と言われましても今更変えることは出来ません。それに私は駆け出しと言っても、五層の魔物程度には遅れは取りませんから」


 私がそう言うと、アイクは多少語気を弱めて口にした。


「確かに俺の目から見ても、セレンさんの実力は相当なもののように感じられます。現にこの五層まで無事に来られているようですし、ラッシュの初撃を見事にかわしてみせた。流石に次の攻撃はかわせなかったみたいですけど」


 私が茶髪の男の攻撃をかわしたことを、アイクはしっかりと覚えていたようだ。

 ただし、訂正しておきたい。


 茶髪の男が放った二撃目。

 私はあそこからでも普通にかわせました。


「でも幾ら実力があるからと言って、この五層をたった一人で進むのは危険過ぎます!」


 別に危険は感じませんが……。

 そんなことをこの場で言っても、彼は信じてはくれないだろう。


「お気遣いありがとうございます。ですが私には、どうしてもこれより下の層に向かわないといけない理由があるのです」


「これより下の層……。それなら尚更、一人で行かせるわけにはいきません。この先に出現する魔物は、俺達でも苦戦するようなものだって多くいます」


 アイクは意地でも、私を一人では行かせたくないようだ。

 それは彼なりの親切なのだろうが、私にとってはただの迷惑行為である。


 どうやってこの状況を穏便に済ませ、迷宮探索を続行するか。

 私がアイクを説得する言葉を探していると、軍服を着た一人の少女が目の前までやってきた。


「お尋ねしますが、セレンさんは何の目的で地下迷宮を探索しているんですか?」


 薄い紫の髪を持つ、小柄な少女。

 彼女の質問に、私は思わずスッと目を細めた。


「……」


「もしかして、私達に教えられないようなことなんですか?」


 じぃーとその少女の目が黙る私を見つめる。

 私は他人には気取らぬように嘆息し、勇者パーティーの皆に向けて口を開いた。


「私は見ての通り、主人に使えるメイドです。今回はその主人の言い付けで、この迷宮にある転移の魔法陣を調査しにきました」


 もうこの際、私の目的を隠すメリットは存在しない。

 あまり他人には教えたくない事だったが、今彼らに伝えなければあらぬ誤解を招く恐れがあった。


「転移の魔法陣? それって……」


 言葉を詰まらせたアイク。

 そんな彼の横で、代わりに帝国の姫が質問する。


「転移の魔法陣と言えば、この地下迷宮の十層目にあると言われるものですよね?」


「はい」


 彼女の言葉に、私は頷いた。


「十層って、それこそ一人で行くなんて無理があるだろ……」


 茶髪の男が呆れた様子でそう言った。

 アイク達の表情を見る限り、彼ら全員もどうやら同じ感想を抱いたらしい。


「お言葉ですが、私は無理だとは思っていません。それに何と言われようと、転移の魔法陣を調査することは主人から私に与えられた仕事ですので」


 私がそう反論すると、アイクが尋ねてきた。


「セレンさんの主人という方が一体どんな人物なのかは知りませんが、そんな危険な命令を貴方は素直に聞き入れたんですか?」


「勿論です」


 主の命令を正しく遂行することは、メイドとして当たり前のこと。

 そもそもこの任務の危険度は、私にとってさほど高くはない。


「……流石に見過ごせません。セレンさんが自分の実力に自信を持っているのは分かりますが、やはり十層までというのはあまりに現実的じゃない」


 少しだけ剣呑な雰囲気が、アイクから漂ってきた。

 彼の正義感と勘違いは、今の私の言葉でどうにか出来るものではなさそうだ。


 本当にどうしましょうか?

 荒事は優先して避けたい。


 相手の立場は世界を救う勇者。

 彼と事を構えたとなれば、私がこの街で活動し辛くなるのは当然だろう。


 しかし私の頭には、この場を切り抜けられるような良いアイディアが浮かばない。

 そんな時、軍服の少女が口を開いた。


「アイク様、いい考えがあります。セレンさんをこのまま一人で行かせるくらいなら、我々もこのままついて行きませんか?」


 彼女のその発言で、場の空気が一気に変わった。

 一触即発の嫌な雰囲気は取り除かれ、アイクは穏やかな表情で私に言う。


「お邪魔かもしれませんが、俺達がそうしても構いませんか?」


 まさかの勇者パーティー全員が、私の調査に動向するという提案。

 というか彼の提案をここで断れば、ここからどんな展開になってしまうのだろうか?

 それが全く読めない以上、私はもう詰んでいた。


「一介のメイドである私などに、勇者パーティーである皆様の大切なお時間を使わせることは……」


「構いませんよ。そもそも俺達がこの街にいる目的も、この迷宮を十層まで攻略することですし」


 逃げ道は全て断たれた。

 完全に断れない状況に、私はとっくに追い詰められていたのだ。

 観念した私は、アイクに言った。


「……それで気が済むのでしたらどうぞ」


「ありがとうございます、セレンさん」


 こうして勇者パーティーが、私の迷宮探索に無理矢理付いてくることになった。

 しかし、どうしてこうなったのか……。


 私は溜め息を吐き、さりげなく視線を飛ばした。


『これで本当に良かったんですか?』


 そんな意図を含んだ私の視線を受け、勇者達を密かに監視していたリッカが、少しだけ頷くような仕草をした。

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