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天才魔術師の私が、異世界から勇者様を召喚するまで  作者: 楚々園 ゆるぎ
五章 地下迷宮を攻略しよう!

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Retrace:54 僅かに残った記憶の断片

セレンの過去回想です。

 私はギルドから、宿屋に戻った。

 食事は宿屋の一階にある食堂で済ませたので、後は風呂に入って寝るだけだ。


 日はとっくに落ち、薄暗い部屋。

 私はランプに灯りを灯し、腰に差していた聖剣を部屋の壁に立て掛けた。


 一週間程この部屋で生活しているが、小物などは全く増えていない。

 部屋の片隅にあるトランク以外、私物は一つも置いていなかった。


 そもそも私の一日は、宿屋と迷宮を行き帰りするだけで終わる。

 街中を散策するような時間は全く無いのだ。


 それに私は一週間の内、特に休日を設けてはいない。

 姫様が聞いたらきっと怒るだろうが、私にとっては早く魔法陣の調査を終わらせることを優先していた。


 自分のことは二の次でいい。

 そもそも私は、姫様の幸せの為に存在しているのですから。


「ふぅ……」


 私は長く息を吐く。

 そして、着ていたメイド服を脱いでいった。

 シワにならないように服を丁寧に畳み、私は下着姿のまま備え付けの小さな浴室へ向かう。


 城の設備を知っているからか、宿の浴室は少し物足りなかったが、使えるだけで有難い。

 私の立場で贅沢は言えないだろう。


 すぐに風呂から上がり、私は魔術で全身を乾かした。

 やはり魔術というものは、とても便利である。


 そして私は今日一日着ていたメイド服にも、浄化の魔術を行使する。

 流石に地下迷宮を彷徨いていれば、多少の汚れはつきものだ。


 魔術でしっかりと汚れを消し去ったのを確認し、私はトランクの中からもう一着のメイド服を取り出した。


 これは私が寝間着用として使っているメイド服だ。

 それに着替えた私は、ホワイトブリムも忘れず頭に付け、そのままベッドの上に転がった。


 もうやるべきことは全て終えた。

 後は、明日に備えて寝るだけだ。


 ベッドの上でぼんやりと天井を見上げる。

 一週間もすれば、この天井にも慣れてきた。

 けれども主の傍にいられないことだけは、決して慣れることはない。


「姫様……」


 そう呟いて、私は瞼を閉じた。

 そして夢を見る。

 それは私の持つ古い記憶の残滓だった。



 ◆



「セレン、今日も私に絵本を読んで!」


 純粋な瞳を輝かせ、青い髪の少女が私に抱き付いてきた。

 彼女がその手に持つのは、かつての勇者の活躍を描いた子供の絵本である。


「いいですよ。ただし、今日のお勉強を終えてからです」


「えー! セレンのケチ! 私は今読んで欲しいの!」


 私の言葉に駄々を捏ねる彼女は、本当に年相応の子供だった。

 そのことに私は思わず目を細める。


 何も変わらない。

 その生まれも、境遇も何も関係ない。

 この少女は普通の女の子なのだ。


 でも専属の世話係を任された私にとって、彼女は唯一無二の特別な存在だった。

 自分と同じ青い髪に、サファイアの瞳。


 彼女は私の姉が、王との間に産んだ子供だった。

 けれどこの子を産んですぐに、姉は他界してしまった。


 残された姉の娘。

 彼女はまるで可愛い我が子のようで、姉の生き写しのようだった。


「セレン、ボーっとしてどうしたの?」


 キョトンとした顔で、上目遣いの彼女がそう尋ねてくる。

 上目遣いは駄目だ。私はこれに弱いのである。


 お腹に抱き着いた彼女を撫でて、私は優しく口にした。


「いえ、何でもありませんよ。さあ今日の勉強を始めましょう、ノルン」


 私には一つ、心に誓っていることがあった。

 この子だけは絶対に守る。

 たとえ、この命を対価にしても――。





 意識が朦朧としている。

 視点が揺れて、全身に力が入らない。


 最早私には、抵抗出来るだけの体力は残っていなかった。

 痛め付けられ、精神と肉体は共にボロボロだ。


 地面に倒れた私の視界。

 そこには、空っぽの王座が見える。


「余計な手間を掛けさせるな……」


 私は無造作に髪を掴まれて、無理やり起き上がらされた。

 そこには化け物の顔がある。


「メイド、あの娘を一体どこに逃がしたッ……!」


 そこには醜悪な顔があった。

 老若男女の誰しもが見惚れる美貌も、ここまで歪んでしまえば酷いものだ。


 私の前に立つのは、人の姿をした化け物。

 この国を支配している怪物だ。


 ここまで人は醜い化け物になれるのか。

 そんな事を考えて、私は思わず笑ってしまった。


「狂ったか、メイドッ!!」


 この期に及んで笑う私を見て、化け物は激昂した。

 その言葉に対し、私は鋭い視線を向ける。


「狂っている? ええ、そうかもしれませんね。でもあの子さえいなければ、貴方の計画は進まない!」


「……ッ!」


「計画を台無しにされた気分はどうですか? この世界が全て、貴方の思い通りになると思ったら大間違いですッ!」


「このメイド風情が……!!」


 強大な力を持っていれば、何もかもが自分の思い通りになると思っている。

 だが、それは大きな間違いだ。


 そもそも私は、あの予言を信じてはいなかった。

 【終わりの魔女】は世界を滅ぼす。

 それは一体、誰が決めた運命なのか。


「貴方はあの子の才能を恐れているんですよね。いつか自分の身を滅びしかねない、あの子の力を――」


「黙れッ!!」


 私は投げ飛ばされて、無造作に地面を転がった。

 全身に痛みが走るが、そんなことはどうでもよかった。


 化け物が苛立っているのが分かるだけで、胸がスッとする。

 心が軽くなるようだった。


「お前の邪魔さえなければ……! あの娘を利用して、とっくにこの世界を――!」


 化け物は怒りのままに、無抵抗の私を蹴り続けた。

 次第に痛みは感じなくなっていく。


 か細くなっていく意識の糸。

 もう限界が近かった。


 視界が暗闇に落ちる。

 私は閉じた瞼の下で、彼女の幸せを心から願った。


 私はここで殺される。

 それでもいい。


 でも、あの子だけは何としても生き延びて欲しかった。

 彼女が逃げられるだけの時間を少しでも稼げるなら、私はそれだけで本望だ。


 あの子は希望。

 姉を喪い、帰るべき家を失った私にとっての、心の救いだったのだ。


 それに私は知っている。

 この世界の命運を本当の意味で握るのは、伝説の勇者なのではなく、あの子次第なのだと。


 ノルン。

 私の愛しいノルン。


 振り返ることなく進みなさい。

 貴方だけの人生における、貴方だけの幸せの為に。

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