Retrace:49 力見の水晶
四話ほどノルン側のお話です。
※ノルン視点
いつも通りの研究室で、ネルファは私に言った。
「ノルン様、セレンを地下迷宮に行かせたのはいいですが、冒険者登録をするためには『力見の水晶』に触れなければなりません。もしセレンの実力が公にされれば、大変なことになりますよ?」
聞いた話によると、あのトワリアル地下迷宮へ入るには、必ず冒険者登録をしなければならないらしい。
その際に、『力見の水晶』による能力の測定があるのだ。
「『力見の水晶』ね……。確か私の部屋にもあるわよ? ラム、ちょっと探してくれないかしら?」
私がそうお願いすると、ラムはスライムらしく体を震わせた。
多分、彼は「分かった」と言いたいのだろう。
「それでネルファ、貴方が心配する『力見の水晶』のことだけど、何も問題は無いわ」
「問題無いのですか?」
「ええ、とっくにその対策は済んでいるもの」
私はネルファの疑問にそう答えた。
『力見の水晶』が冒険者登録の時に使われることを、既に私は知っていたのだ。
「昔、リッカが冒険者登録したいって言ってきたことがあったのよ。その時にね、諜報を任せてるリッカの能力がバレるのは不味いってことで、私が急遽『力見の水晶』限定の偽装魔術を開発したってわけ」
「そうでしたか……。流石、ノルン様です」
ネルファに褒められ、私はちょっと調子に乗った。
「でしょ? まあ今回もその魔術で乗り切れば、セレンも無事に冒険者登録出来る筈よ。きっと道中でリッカがその魔術を教えてるだろうから、私は何も心配してないわ」
セレンのことだし、もし失敗してしまっても何とかするでしょ。
私はそう楽観視していた。
「そう言えば、ネルファは私と会う前に冒険者をやってたのよね?」
「はい。少しの間だけですが、冒険者をやっていました」
そう答えたネルファに、私は尋ねる。
「じゃあ、その時はどうしたの? 素直に『力見の水晶』に触れたりなんかしたら、貴方の『固有魔術』が知れ渡っちゃうじゃない」
ネルファの持つ『聖剣化』は、正直チートなレベルの能力なのだ。
そんな能力が世間に知れ渡ったりなんかしたら、各国が放っては置かないだろう。
「幸いにも私が冒険者の登録したのは、まだ師匠に修行を付けられてる時でしたので……。その時はまだ『固有魔術』を発現していなかったので、戦闘力と魔術適正のみしか分かりませんでした」
「そっか。それは幸運だったわね」
「まあそれが無くても、後で私は十分有名になってしまいましたので……」
「確かにそうだったわね。最近の貴方を見てると、そんなことも忘れそうになるわ」
ネルファの持つ異名はとても有名だ。
どれくらい有名かと言われると、その辺の子供でも知っているレベルで有名である。
そんな彼女が私の部下になっているなんて、きっと世間の人達は知らないだろうけど。
「あら、ちゃんと水晶を見付けられたのね。よしよし、ラムは偉いわね」
私がネルファと会話をしていると、ラムが『力見の水晶』を見付けてきてくれた。
おそらく部屋にあるガラクタの山から探してきたのだろう。
とても良い子だ。
私はラムのスベスベな体を撫で、沢山褒めてあげた。
「ノルン様、『力見の水晶』で何をするつもりですか?」
「別に何かをするって程の考えはないわ。ちょうどこの水晶の話をしていたから、なんとなく探して貰っただけよ」
ネルファとの話で、偶々『力見の水晶』を持っていたことを思い出しただけだ。
別に深い意味は何もないし、これはただの気分的な行動である。
「この『力見の水晶』、しばらく使って無かったけど全く問題なさそうね」
ざっと見た限りだが、水晶の機能は失われていない。
問題なく力の測定が出来そうだ。
「折角だしネルファ、水晶に触ってみなさいよ」
「分かりました。ですが久し振りですね、こうして力を測られるのは」
そう呟いて、ネルファは水晶に手を触れた。
すると、たちまち水晶が強い光を放ち始めた。
その光の色は、燃えるような真紅である。
「ネルファの魔術適正は『火』ね。まあ貴方のイメージ通りだわ」
ネルファが持つ魔術適正は『火』のみである。
彼女の髪色が赤なので、予想外な結果とはならなかった。
「それにしても、ネルファはやっぱり強いわね。光がかなり大きくて、とっても眩しいわ」
「昔測った時よりはかなり成長した自信はありましたが、ここまで光が強くなっているとは……」
ネルファはそう驚いていた。
『力見の水晶』の光には、二つの意味がある。
一つは色合い。
光る色やその種類によって、魔術適正が判別出来るのだ。
ネルファの場合は赤色の光だったので、火属性だけが彼女の適正である。
そして二つ目は、その光の大きさだ。
それによって分かるのは、触れた者の現時点での実力だ。
ネルファはそれがかなり大きかったので、相当な実力を持っていることが分かるだろう。
普段はポンコツな彼女でも、伊達に私の護衛を務めてはいないのである。
その力量を測り終えたところで、ネルファは私に言った。
「ところでノルン様は測定しないのですか?」
「私はしないのかって? 私の実力なんて、今更測る必要なんてないでしょ?」
「確かにそうですね」
私の冗談めかした言葉に、ネルファは納得した様子でそう微笑んだのだった。




