Retrace:47 冒険者登録
「本当にすいません。水晶が故障したなんてことは無さそうですけど、まさか『固有魔術』の文字が読めないなんて……」
私の『固有魔術』を見て、女性職員は動揺を隠し切れない様子である。
少し失敗したと、私は内心思った。
道中でリッカに教えて貰ったのはいいが、ぶっつけ本番で偽装の魔術を使用するのはリスキーだった。
戦闘力は上手く偽装出来たのだが、『固有魔術』だけはこうして失敗してしまったのだ。
女性職員はこれが何かの不具合だと思っているようだが、それは違う。
このグチャグチャの文字こそが、何も偽装していない私の『固有魔術』だった。
そんな事を知らない女性職員は、私に向かって謝り続けていた。
「本当に申し訳ないです……」
「いえ、構いません。私の『固有魔術』はまだ発現していないということなのでしょう」
私はさらりと嘘を告げた。
『固有魔術』がまだ発現していない場合は、文字が浮かび上がることはない。
それは女性職員も知っているだろうが、そもそもここで本当の事を言う必要が無い。
こんな『固有魔術』を持つ人間が生きていること自体、この世界にはあってはならないことなのだから。
私の口にした嘘を善意と捉えてくれたのか、女性職員はこの不自然な能力にも一応納得してくれたようだった。
「一応これで申請は完了です。プレートを作成してきますので、しばらくギルド内でお待ち下さい」
「分かりました」
私がそう頷くと、女性職員は登録用紙を手にしながら奥に引っ込んでいった。
あとは冒険者であることを証明するプレートを受け取れば、ギルドへの登録は完了である。
プレートが作られるまでギルド内で待っていろと言われので、近くの空いていた椅子に座って待つことにした。
そしてしばらく待っていると、先程の女性職員が私の名を呼んだ。
「どうぞ。こちらがセレンさんのプレートになります」
「ありがとうございます」
受付で私が受け取ったのは、小さな銅色のプレートだった。
それにはランクと名前が書いてあり、冒険者としての身分証となるようだ。
ちなみに私のランクはEランクである。
初心者は特別な推薦や実績がある場合を除いて、大抵は最底からのスタートらしい。
私は自分の戦闘力を偽装していたので、予定通りに普通の冒険者としての扱いになることが出来た。
プレートの色についてだが、Eランクから幾つかランクが上がれば、色も銀や金へと上がっていく。
最高は黒のプレートらしいが、よっぽどの人物でない限りは譲渡されない特別な色のようだ。
とりあえず、これで冒険者登録は完了した。
本格的な活動は明日に回し、今日はもう宿へと戻ろう。
冒険者ギルドを後にする前に、私は女性職員にお礼を言った。
「色々と分からないことを教えて頂き、ありがとうございました」
「いえいえ、これも仕事ですから。また困ったことがありましたら相談に乗りますので、いつでも気軽にいらしてください」
彼女は親切な人だ。
何かあったらこの女性職員を頼ろう。
私はもう一度彼女に会釈をし、受付を離れた。
そのままギルドの外に出るつもりだったが、急に建物内の冒険者達がどよめき始めた。
どうしたのだろうか?
私が不思議そうに周囲を観察していると、近くの冒険者達から声が聞こえてきた。
「おい。あれが噂の勇者パーティーだぞ」
「Sランク冒険者の『雷迅』に、あの帝国の姫もいるとか凄すぎるだろ……」
「となりのチビッ子は誰だ? 軍服を着てるけどよ」
「そう言えば、聞いたか? 勇者達、地下迷宮の七層まで行ったらしいぞ」
「それが本当なら、俺達とは格が違うな……」
冒険者達から色々な声が耳に入ってくる。
初めて聞く情報もあったので、ついつい聞き入ってしまった。
どうやら勇者とその仲間達がギルドに姿を見せたようである。
どうやらそれが理由で、建物内の冒険者達がざわざわしているのだ。
しかし、あれが勇者アイク――ですか。
くすんだ赤髪の青年で、特にこれと言った特徴は無い。
もっと正義感の溢れた人物なのだろうと想像していたが、帝国の勇者は正直一般人と変わらない印象だ。
そんな彼の傍に立つ三人が、勇者以外のパーティーメンバーなのだろう。
帝国の姫と冒険者達が言っていたが、どうやらあの茶髪の女性がそうみたいだ。
杖を持っていることから、彼女は魔術師であると推測出来る。
他の冒険者と比べ、見るからに装備が充実していることから、大国の姫であることがどういうことなのかを思い知らされる。
年齢はアイクと同じくらいに見えるが、ピアスや首飾りなどの綺麗なアクセサリーや、手入れの行き届いている髪が大人びた気品を感じさせた。
うちの姫様とは大違いである。
寝癖も直さないし、アクセサリーなんてもってのほか。
化粧もしないし、面倒だと言って風呂にも入らない。
そんな姫様には、是非ともあの帝国の姫を見習って欲しいと思う。
次に私が目を向けたのは、『雷迅』と呼ばれていた男性だ。
獅子の鬣のような髪型をしており、荒々しい野生児的な雰囲気を持っている。
立ち振舞いから見ても、どうやら相当な使い手のようだ。
そして最後に私が目を向けたのは、軍服を纏った小柄な少女だった。
薄い紫の髪をしており、表情や雰囲気からも無口そうな印象を受ける。
視線の配り方や気配が独特なので、諜報などを担当する隠密なのだろう。
ジッと勇者パーティーを観察していたが、やはり勇者アイクがこの中で一番まともに見える。
なんと言うか、他のメンツが濃すぎるのだ。
ハッキリと感想を言うと、アイクは英雄らしくない。
世界を救うというよりは、誰か一人の為に戦っている方がしっくりくる。
そんな普通の彼に世界を救うなどという旗を掲げさせ、本当に同盟諸国は大丈夫なのか?
私が鋭く目を細めると、視線を感じたのか勇者がこちらの方を向いた。
「……メイド服?」
首を傾げながら、そんな呟きがアイクの口から漏れた。
どうやら私の服装に視線がいったようである。
ここで変に目立つのは得策ではない。
私はそう判断し、人混みの中に姿を隠した。
帝国の勇者とその仲間達がどんな人物なのかを把握出来たので、ほとぼりが冷め次第このギルドを後にしよう。
そう思いながら勇者達の様子を伺っていると、私は偶然にも彼女と目が合ってしまった。
確かに、勇者を直接監視しているとは言っていましたが……。
まさかそんな姿に変身しているとは思いませんでしたよ、リッカ。




