Retrace:44 冒険者ギルド
リッカと別れ、私は宿の近くを散策していた。
相変わらず、通りには冒険者が多い。
しかし、この宿は街の出口に近いことから、荷馬車を引いた商人の姿も良く見かける。
「まだ日暮までに時間がありますね。今日の内に、冒険者登録を済ませておきましょうか」
私は事務的な独り言を呟き、懐から地図を取り出した。
それはリッカが予め渡しておいてくれた、この街の大まかな地図である。
聞いていた通り、トワリアル地下迷宮はこの街の中心に存在する。
そして目的の冒険者ギルドは、そんな地下迷宮のすぐ近くに建てられているようだ。
この場から歩いて向かうと考えると、まあまあ距離はある。
しかし、ここは行くだけ行ってみよう。
私は街の中心部へ向かって、しばらく通りを歩いていった。
◆
「ここが……」
ここがリッカの言っていた冒険者ギルドなる施設ですか……。
私はギルドの建物の前で、少し驚いていた。
まさかこんなに大きな建物だとは聞いていなかった。
それは最早、小さな城と言ってもいい大きさだ。
冒険者ギルドがこの大きさの施設になっているのは、この街の産業が冒険者によって支えられているからだろう。
入り口を見ているだけでも、かなりの冒険者が出入りを繰り返している。
私がこの街の通りで見掛けていた冒険者達は、あれでもかなり少なかったのだと認識を改めてさせられた。
さて、それでは中に入ろう。
「……」
ギルドの中に入ると、困ったことが起こった。
それは皆の視線が、全て私一人に集められたことだ。
シンと静まり返った屋内。
会話をしていた者達も皆話すのを止め、全員が私という存在を注視している。
なるほど、私がメイド服だから皆注目しているのですね。
リッカがこの服装は目立つと言っていましたが、どうやらそれは間違いなかったようです。
ギルド内を見渡せば、冒険者達は全員しっかりと武装をしていた。
甲冑を着込む者や、不思議な武器を持つ者もいる。
奇抜な出で立ちの者は沢山いるが、誰もが魔物と戦う為の格好をしていた。
メイド服を着ている者は、私以外には誰もいない。
当たり前と言えば当たり前の話だ。
魔物との戦闘をする場に、こんなメイド服で訪れる者などいる筈もない。
そう納得したところで、私の中では注目されているという意識はとっくに消え失せていた。
私は注がれる視線全てを無視し、一直線にギルドの受付まで歩いていく。
冒険者は皆親切で、私の通り道を無言で空けてくれた。
そして受付まで最短でたどり着いた私は、対面のギルド職員に対して言った。
「冒険者になりたいのです。手続きをして貰えませんか?」
すると私の言葉が意外だったのか、受付の女性職員は一瞬硬直するも慌てて対応してくれた。
「す、すいません! 冒険者の手続きですね! では、こちらの用紙に必要事項をご記入していただきまして、あちらの受付まで提出して下さい」
「分かりました」
私は用紙を受け取り、ちょうど空いていたテーブルの席に腰を掛けた。
早速用紙を記入することにしよう。
私はテーブルの中央に親切に置かれたペンを取り、紙面に向かい合った。
すると、ギルド内がざわつく声が耳に入る。
冒険者達が私を見て、それぞれ小声で話しているのだ。
「おい。あのメイド、冒険者登録をするみたいだぞ?」
「もしかして、どこかの貴族の召し使いなのかな?」
「でも、メイドって魔物と戦えるのかしら?」
「滅茶苦茶美人だし、ダメ元で俺達のパーティーに誘ってみないか?」
色々な声が耳に届くが、気にするのは止めよう。
とにかく冒険者登録が優先だ。
ギルドに登録し、冒険者にならなければ、この街の地下迷宮には入れない。
面倒だが、そういう決まりなのだ。
私はじっと用紙を眺めた。
受付から貰った登録用紙には、幾つか記入欄がある。
まずは名前、性別、年齢、そして出身国。
その他にも、個人を証明するような内容を記入させられた。
別に隠すような事はない。
私は上から順番にスラスラとペンを走らせていく。
名前、性別を正直に書く。
年齢だけは多少誤魔化したが、特に問題にはならないだろう。
しかし次の欄で、私の手はピタリと止まった。
出身国ですか……。
これは年齢同様、誤魔化しておくべきですね。
そう考え、私は知っている国の名前を適当に入れておいた。
出身国を素直に書くと、私の場合不都合が多そうですから。
リッカ曰く、冒険者登録はあくまで書類上での手続きが主だ。
わざわざ個人情報の裏までは取らないらしいので、多少の誤魔化しならば問題ではないだろう。
出身国を記入し、私の視線は次の欄に向かった。
そこにはこう書いてあった。
「使用武器・役職……? これはどう書けばいいんでしょう?」
使用武器は、おそらく魔物と戦う際の装備のことだろう。
しかし私の戦闘方法は、ほぼ魔術に頼ったものである。
武器は一切使わない。
それに役職というのは、一体何だろうか?
冒険者に詳しくない為、書いてあることがいまいちピンとこない。
どうしましょうか?
一度、受付に聞いてみるべきでしょうか?




